10.悪の館
たどり着いた丘の町で、どうしてレジーナがわざわざ麻梨菜を連れてきたのかがすぐに判明した。彼女に連れられて大きなお屋敷が見える木陰に隠れると。レジーナはさっさと行けというように麻梨菜を鼻で押し出したのだ。
「え、えっ?私が行くの?」
当然だろうというようにレジーナは見返してくる。だって、もし何かあってもレジーナが全部蹴散らしてくれる、そういう期待があったからついて来たのに……。一緒に行こ?と麻梨菜が訴えても取り付く島もない。人間のことはまずは人間がどうにかしなさいよとでも言うように地面に伏せて、待ちの姿勢になってしまった。この野郎、最初からそのつもりだったのだ。
確かにあのでかいレジーナがこっそりジーノスを救出したり、あるいは犯人たちと交渉をしたりすることは不可能だけど……、それを私にやらせるか。一番大変なとこじゃないかバカ、あの動物め。
ピンチになったら絶対に助けに来てよと念を押して、麻梨菜はお屋敷に近寄っていく。立派な門の前には体格のいい大男の門番が二人もいて、カティアのところなんかとは大違い、今度こそ殺る気満々の重装備をしていた。さすが悪の親玉の屋敷、邪魔するものには容赦しないという気概がびんびんに伝わってくる。……こんなところから果たしてジーノスを助けられるだろうか?
ちらっと、中がどんな風になっているのか見えたらいいな~という気持ちで近寄っていったものの、重装備の彼らに鋭い視線を向けられたのがわかって麻梨菜はゆるく進路を変える。お屋敷に用があるわけじゃありませんよ~、ちょっと近くを通っただけですよ~。と、そんな雰囲気で乗り切ろうとしたのだが。
「おい、きみ」
周囲に人っ子一人いない状態で悪目立ちしてしまったのだろうか。動くなというように声をかけられて麻梨菜は固まった。これは、これは早速ピンチでは。逃げようかどうしようか、だってどうせすぐ追いつかれる。焦った頭のわりには全く動かない体に冷や汗を流しているうちに、がしゃがしゃと音を立てて鎧が近づいてくる。そしてその硬そうな金属の腕がこちらに伸びてきて、
「レッ……」
レジーナ、と叫ぶ前に小麦色の塊が麻梨菜に近づいていた鎧を吹っ飛ばした。
「わあっ、なんだ?!」
突然のレジーナの巨体に驚いたもう一人の鎧も、本能的に逃げかけて、しかし自分の職務を思い出したみたいに踏みとどまったところを反対側から飛び出してきた黒い神獣に吹っ飛ばされた。レジーナがそれを横目で見て真っ先に門の中へと駆け込むと、黒いほうも援護するように後に続いた。
突然の襲撃に門の中は大混乱となった。逃げ惑う人、武器を持って駆け付けてくる人。わらわらと湧いてくる手下どもを、ここはオレに任せろとでも言うように黒い神獣がなぎ倒していく。レジーナもその取りこぼしを蹴散らしながら、外の騒ぎは一体なんだろうとちょうど開かれた玄関の扉を半分蹴破るようにして建物の中に躍り込んでいった。屋敷の中からも悲鳴が上がる。
麻梨菜はというと、レジーナのあとを一生懸命追いかけていた。あいつ、乗せてってくれたらよかったのにっ。やたらと長い前庭を走っている最中にアオーというレジーナの遠吠えが聞こえ、麻梨菜も急いでお屋敷の中に駆け込んだ。
中はひどい有様だった。いろんなものが落ちたり壊れたりして散らばって、逃げ惑う人々の悲鳴が遠くからも響いている。逃げきれずに頭を抱えてうずくまっている人も多数いた。それらを全部無視して、レジーナは吹き抜けの階段に前足をかけて遠吠えを続けている。たまに出てくる武装した兵士のような者を、ひと蹴りで戦闘不能にしながら。
「ジーノース!!」
麻梨菜もレジーナに加勢するように思いっきり叫んだ。どこにいるの、返事をして。
しかしそこで再会したのは。
「わーっすいません、それ俺の相棒で!!どうしてここにっ……!」
周囲にぺこぺこと謝りながら慌てて階段を降りてくるジーノスで、
「何やってんだあ!……うわ、もうホントすいません!」
階段の途中でレジーナの再会嬉しい攻撃を受けながらもやっぱり周囲にぺこぺこと頭を下げていて。その動きの途中で玄関に麻梨菜の姿を見つけて「へっ?!マリーナ?!」と素っ頓狂な声を上げるジーノスで。……なんだか想像していた救出劇と違う。その落差(と周囲の雰囲気)に違和感を覚えて固まっている麻梨菜に、奴は極めつけにも本当にさっぱり意味がわからないという顔をしてこう言いやがったのだ。
「え、お前、何でいるの?」




