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8.置いてけぼり同盟

「ええ?お前あの生意気な子供?まさかマジで神子姫様の影武者かなんかやってんの?」

「影武者じゃない!マジもんの本物ですよ!」

 カティアの取り巻きの男たちは、失礼にも神子姫様ルックをした麻梨菜に気づいていなかった。散々我こそが神子姫様であると何度も言っていたのに。あれは子供のなりきりごっこかと思ってたと言われて麻梨菜はおかんむりだ。

「じゃあ話は早いじゃねえか!神子姫様パワーでカティア様を探してくれ!」

「ええ~っ、どうしよっかなあ~?生意気な子供って言われたしぃ~!」

 悪かった謝るから、とか頼むよ神子姫様、とか口々に懇願されて、麻梨菜は単純にもまあ協力してやってもいいかなという気になってきた。のに。

「いや、マリーナはダメだ」

 輪の外からのきっぱりとした否定の言葉に、みんなが一斉にジーノスに注目した。

「な、なんで!」

「なんでだよ!」

「……。トルカット様が、神殿は関与しないと言っていただろ。お前が出てくるとそれを破ることになる」

「な、じゃあジーノスだって……」

「俺は個人で動くから。神殿とは関係ないように」

 じゃあ私も個人で、という言葉は早々に遮られた。

「お前はやめとけよ、危険だし。それに、トルカット様に逆らうことになるぞ」

「う」

 脅しのような言葉に麻梨菜が一瞬ひるむと、

「……それはお前も同じでは?」

 若干気づかわし気な表情でイケメンが口を挟んだ。そうだ、ジーノスだって逆らうんだから私だって。赤信号、二人で渡れば怖くない。そんな心意気で決意を固めかけた麻梨菜の前で、ジーノスは衝撃の宣言をした。

「いいんです。俺は……いざとなったら、神殿を辞めるから」

 ・

 神殿を辞めるなんて聞いてない。

 あれから三日間というもの、麻梨菜はずっと悶々としていた。

「や、辞めるって……」

 そんなことになったらレジーナはどうなるの?それに、私は……?まさか神殿なんてどうでもいいくらいにカティアが気に入ったっていうの?

 混乱する麻梨菜の前で、ジーノスはきっぱりと言った。

「トルカット様が全然手を出す気がないのは見てただろ。でも俺は……、納得できない。できることがあるのに黙って見てるなんてことは」

 ぎゅうとこぶしを握り締めて、真剣な表情だった。

「もし神殿を辞めることになっても、後悔のないほうを選びたい。カティアは恩人だし、それに、お前も……」

 わかるだろ?的な視線にさらされて、でも麻梨菜にはひとかけらもわからなかった。こっちはさっきあっさりしょうがないよねと見捨てたのに、どうしてジーノスがそこまでカティアを助けようとするのか。恩人てなに、泊めてもらったこと?ご飯をごちそうされたこと?それともまさか私に隠れて他にも何かあったの?

 次々に膨らむ疑惑に何も言えないでいる麻梨菜の目の前で、ご心配ですよね微力ながら俺も協力させてくださいなんて言って男たちから大歓迎されて、カティア教に入る気満々なもんだから。

「バカッ!!」

 もう知らない、勝手にしろ。そう思って飛び出してきたら……。

「ねえほら見て~、俺のレオン。ちょーかわいいっしょ?」

 ……まさかほんとに置いていかれるとは。

 ジーノスが休暇を取ったことにより一時的に代わりとして派遣されてきたルカ(親バカ)を、麻梨菜は八つ当たりにじろりと睨む。

「こいつアホでさ~。狼のくせにレオン(ライオン)って名前つけられても、ほら見て、めっちゃ喜んで尻尾振るんだよー。アッハハ、お前バカだなあ!」

 かわいがってんだかバカにしてんだかわからないじゃれ合い方で盛り上がっている。レオンは友好的な性格(アホともいう)のオスでレジーナのように煩わされることはなかったけど、それがかえって毎日に張り合いがないように思えてしまう。

 せっかくこの間、トルカット様には逆らえないよねっていう話をして距離が縮まったと思っていたのに。ジーノスのほうはそうじゃなかったのかな。もしかして、あの時すでに神殿が嫌になっていた?それにしてもちょっとくらい相談してくれれば、麻梨菜だって力になったのに。なんで……。

 何も言わずに置いていくなんて。

 ぽいと放り出された格好になったことに麻梨菜は怒っていた。実はあのあと、麻梨菜が話し合いの場を飛び出したあと、ジーノスはさっさと休暇を申請して発ってしまったらしい。麻梨菜に何も言わずに!

 いくら人の命がかかっているといったって、せめて出かける前になにか一言、言いに来るべきだろう。護衛だって交代しなきゃいけなかったのだし。次の日に全部文句をぶちまけてやろうとしていたら当然のように交代のルカが来て消化不良になった、このモヤモヤを早くぶつけてやらないと気が済まない。

「ねえ。ジーノスまだ帰ってこないの」

「おっ。気になるぅ~?」

 妙な勘違いをしてにやにや笑いではやし立てるように言うルカを横目でぎっと睨む。この顔で、帰りを待ちわびているように見えるのか?

「はは。まあ、休み取ってたのは二日だったし。そろそろ戻ってくんじゃないかな」

 どこ行ったんか知んないけど早く帰ってきてくんないと俺もヒマすぎて死にそう、などとレオンにもたれかかるルカはのんびりとしていて、一瞬違和感を通り過ぎそうになった。

「えっ。休み二日って……、もう過ぎてんじゃん」

「んー?うん。ま、へーきへーき」

 ルカはお気楽にも手をひらひらと振った。

 いや、へーき、じゃない。もうジーノスがいなくなって三日目なのだ。本当ならとっくに帰ってきているはずなのに何の音沙汰もないなんて、何かあったに決まってる。のんきに待ってる場合じゃないという気がしてきて、全身がひやりとした。カティアにいいとこ見せようとして助けに行って、もしや逆に捕まってしまったのでは……。

「お、レジーナ」

 そのとき麻梨菜たちのもとにレジーナが顔を出し、……っていうかレジーナも置いていかれてたんだ。一緒に行ったとばかり思っていた。一気に仲間意識が湧いた麻梨菜のもとに彼女はすり寄ってきて、いつもはジーノスにしていたようにその鼻先をこすりつけてきた。

「あー、レジーナもジーノスがいないから退屈してんだろうな」

 何も知らないルカの目には、ちょっかいをかけに来たと映っているようだった。確かに一見甘えているような仕草だが断言できる、絶対に一生、金輪際そんなことはない。妙な信頼のもとにレジーナの行動をよく見てみると、ちらちらと、誘導するようにある一方向に向かって頻繁に視線が動く。どうやら麻梨菜をどこかに連れ出そうとしているようだった。

 ちょうどジーノスの戻りが遅いと知った直後だったこともあって、麻梨菜にはぴんときた。

 ――もしかして、ジーノスに何かあった。

 心臓がどきりと嫌なふうに跳ね上がる。悔しいがジーノスとの付き合いはレジーナのほうが長いし、それに獣特有の野生の勘、みたいなのが働いたのかもしれない。

 ねえ、そうなの。祈るような気持ちで見つめたレジーナの瞳は、

 ――はやくきて。

 そう言っているようだった。

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