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2.偽神子

 麻梨菜がトルカットに呼び出されるときは、たいてい怒られるときか何か頼みごとをされるときだと相場は決まっている。

 今は何も思い当たることがないからきっと極秘任務を頼まれるのだろうという予想は案の定当たっていた。いつもの部屋で大きな机の向こう側に座って腕を組んだトルカットが、神妙な顔をして言った。

「偽物の神子が出たらしい」

「なにっ!」

 元はといえば自分だって別に本物ではないことなど押入れの天袋にしまい込んで、麻梨菜は即座に喧嘩腰になった。この私に断りもなく勝手に神子を騙るとはふてえ野郎だ。この間の王国のやつらよりもたちが悪い。

「詳しいことはまだわからないが、とある田舎町で神の生まれ変わりだと偽って信者を増やしているようだな」

「神殿の敵!」

 いきりたつ麻梨菜とは対照的に、トルカットはまだ涼しい顔をしていた。

「まあ、偽物の一人や二人で神殿の権威は揺らぎはしないが……」

「でも、黙ってやらせてたら絶対そのうち調子に乗りますよ!」

 ここは早いうちに今後一切再起不能になるまでつぶしておかなければ。トルカットも内心は同意見のようで、話が早いなとにやりとした。

「実は神殿としても、黙って見過ごすわけにはいかない部分もあってな」

 つまり麻梨菜の出番である!

「倒しに行こう!」

 ガタリと腰を浮かせた麻梨菜の背後で、

「『神子姫様』の言うことじゃないよな……」

 ジーノスが呆れたようにぼそりとつぶやいたが、しょせんやつはパセリ。トルカットだって最初からその気なのだし、不穏分子は排除しておくに限る。やる気満々の麻梨菜を見て、トルカットも満足げににやりと笑った。

「じゃ、倒してきてくれ。まあ実際、どんな奴らなのか調べてくるだけでもいいぞ」

 前半を笑いながら冗談めかして言ったトルカットは、まだまだ麻梨菜のことを見くびっている。

「まさか!神殿に歯向かったことを後悔させてやりますよ!」

「なんだその悪役みたいなセリフは……」

 盛大に切った啖呵はジーノスには不評だったが、

「いや、お前、まだ来て半年も経ってないのになかなかいい感じに育ったな。頼もしいぞ」

 トルカットには褒められた。やった。また今回も、麻梨菜の有能さを知らしめてやれると思うと腕が鳴る。

「それで、敵の本拠地はどこですか?」

「ああ、ここからはちょっと離れた田舎町だな。馬だと二、三日かかるが、神獣なら一日でいける」

 言いながら、トルカットは麻梨菜の後ろにいるジーノスのほうにちらりと視線を移した。だから今日はジーノスも入ってこいと言われたのか。

「あ、あの。でも神獣の使用許可は……」

 ジーノスはあまり乗り気じゃない様子でそれに答えたが、

「緊急の書状を作る。それを町の代表者に届けてこい。その帰りに『偶然』、偽神子と遭遇することになるわけだ」

 さすがトルカット、権力は惜しみなく使う。これで偽神子退治の舞台は整ったというわけだ。

「じゃあ行ってきます!!」

 善は急げだ。早速張り切って出かけようとした麻梨菜を、しかしトルカットは引き止めた。

「ちょっと待て。これを持っていかないと」

 そう言って、自分が羽織っていた紫色の肩掛けを麻梨菜の肩にぱさりと移した。神殿の偉い人だけが身に着けられる肩掛けである。これで麻梨菜もこの紋所が目に入らぬか、をできるようになった。トルカットもそのつもりだったようで、麻梨菜の目を見てにやりと不敵に笑った。

「これで神殿の力を見せつけてこい」

「イエッサー!!」

 不届きものは退治だ。強大な権力を背後に抱えた麻梨菜は今や無敵だった。


水戸黄門いつの間にか終わってた。

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