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6.再会

 結局また王子たちは現れず、代わりにトルカットが目を光らせての中での儀式はとても窮屈なものとなった。しかも巫女たちの中でどうして毎回トルカットが顔を出すのかという原因について、

「神子姫様が変なことしないか監視してるんじゃない?」

 という説が最有力になってしまったため、彼女たちからも余計なお荷物めとでも言わんばかりの非難の視線を浴びることになってしまった。

「しょうがないじゃん。私だってトルカット様に出ろって言われて働いてんだよ……」

 麻梨菜だってそう命令されていなければ、今頃街に出たりおいしいものを食べたりして裏の仕事を満喫しているところなのだ。それに週末礼拝に出る以外は休暇だって取り放題だったのが、今や強制毎日出勤。しかも王子たちの滞在中は休みなしで働かされる予感しかない。

「働くって……。神子姫様いつもなんもやってないじゃん」

「儀式も座ってるだけじゃん」

 私たちなんて儀式の準備や後片付けもやって、他にも清掃や洗濯や畑仕事だって毎日あるのにという巫女たちの文句を麻梨菜は一蹴した。

「うるさい」

 彼女たちは麻梨菜の裏の仕事を知らないからそんなことが言えるのだ。この間だって犯罪者を摘発したし……、でもそれについては極秘任務だから言うわけにはいかない。それに仮に麻梨菜に裏の仕事がなかったとしてもそのような雑務はヒラ巫女の仕事で、麻梨菜ほども地位のある立場の者にはふさわしくない。言うなれば、現場と経営者の違い。経営者には経営者の苦労があるものなのだ。例えば、どうして私だけ差し置かれているのだ、とか。

 こればっかりは誰かに相談することもできず、移動中も一人で悶々としていると、眠いの?などと的外れな声がかけられて八つ当たり気味に麻梨菜はジーノスを睨んだ。が、

「……っていうか、なんでそんな離れてんの?」

 思ったより彼がずいぶんと後方に位置していたのでさっぱりと毒気を抜かれてしまった。また食われてはたまらないのでレジーナを遠ざけているのはいいのだが、ジーノスまでそんなに離れていることないんじゃない。

「や、ほら。ちゃんと神子姫様が高貴な立場だということを見せておかないと……」

 ジーノスは自分と麻梨菜を交互に指さすようにして、その距離感を強調して言った。

 なるほど、友達みたいに仲良く隣で歩いていたら示しがつかないということだろう。……じゃあ今までは何だったんだよ。一瞬納得しかけて、別の新たな疑惑に顔をしかめる。

「あっ、ちょっと便所行ってくる。待ってて」

 しかも到底高貴な人に向かって発するとは思えないような言葉を残して横合いの小道を駆けていってしまった。当然のようにレジーナもそのあとをてくてくと追っていって、神殿の中でもわりあい薄暗い細道の途中に麻梨菜は一人で置いてけぼりにされてしまった。……誰が高貴だって?

 全くどいつもこいつも。ふうとため息を吐いて麻梨菜は歩き出す。巫女たちの儀式はいろんな部屋で行われるから、ここ数日は今まで行ったこともないようなところまでこんなふうに連れ出されることが多かった。でもさすがにもう何度か通った道だし、もう少し行けば少し開けた場所に出ることを知っていたので、まあジーノスたちもあとから追いついてくるだろう。そんなふうに気楽に考えて歩いていくと。

「あ」

 芝生がある場所に設置された小さな白い噴水のところに、王子たちがいた。

「やあ」

 向こうもこちらに気づいて王子がにこやかに手を上げたので、麻梨菜も上目遣いのままぺこりと少しだけお辞儀をする。そこでお付きの者たちがさっと二人ずつ左右に分かれたのでそこに花道ができて、なんとなく麻梨菜が王子の正面に行かなければいけないような雰囲気になってしまった。しぶしぶ近づいていった麻梨菜に、王子はこんなところにいたんだ、と親し気に話しかけてくる。

「もしかして、神子姫様専用通路だったりするのかな?」

 冗談めかした言い方の裏側に、神子姫なのにこんな狭くて薄暗いところを通らされているのか、という疑問がちらつく。確かにこの場所は言うなれば裏口みたいなもので、人通りは皆無といってよい。

「い、いえ。いつもは……、」

 いつもは巫女の儀式になど参加していないから、専用通路とかありません。と正直に言ってしまうと化けの皮がはがれるので思わず口ごもると、それに彼らは別の意味を見出したようだった。

「ほらあ。やっぱめっちゃ警戒されてますよ」

 左側の金髪の騎士風の男が、右側に分かれた短髪の男を非難たっぷりに指さすと、

「ほらな。お前がチャラチャラ巫女たちに声かけるから……」

 同じく左側の髭の男からも非難の声が上がった。

「えーっ、俺のせい?俺は殿下のために一生懸命情報収集をしようとだな」

 非難された男が中央の王子に助けを求める視線を送るが、

「でも絶対楽しんでましたよね……」

 右側の隅っこに控えめにいた黒髪の騎士まで男を非難して、なんとなく多数決が成立したようだ。男は有罪となり、まじかーと頭を抱えた。

 いきなりそんな内輪裁判を見せられて、どうしようと麻梨菜がきょろきょろ戸惑っていると、一番発言力がありそうなのに裁判には参加しなかった王子が部下たちの非礼を詫びるように苦笑した。

「ごめんごめん。実は君ともう一度話をしたかったんだけど、どうやら遠ざけられていたみたいだ。……護衛の彼は、今日はいないの?」

 窺うように背後をのぞかれて、麻梨菜ははっと気づいた。そうか、ジーノスだ。きっとあいつが今まで麻梨菜が王子と出会いそうになるのを阻止していたのだ!こんな妙な道を通らせてまで!つまり。私だけ差し置かれていたわけじゃなかった!

 そうとわかれば王子たちに感じていた妙なモヤモヤも一気に晴れる、実に単純な麻梨菜だった。

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