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10.救世主

 犯罪者どものアジトらしき小さな家の床で、麻梨菜は縄でぐるぐる巻きの状態で転がされていた。

「さて……、こいつどうする?」

「バラして持ち出す?」

「でもそれじゃ、検問危なくないか?」

「んじゃ、外まで連れてって街出てから殺すか……」

「面倒だが仕方ねえ」

 不穏すぎる男たちの話し合いは当然当の麻梨菜にも筒抜けで、

「こ、こらお前らー!私を殺したらひどいことになるんだから!」

 もぞもぞと芋虫のような動きで抵抗を示す。男たちはそんな麻梨菜をちらりと見て、

「うるせえな……」

「やっぱ先バラすか」

 カシャンと音を立てて剣を持ち出してきた。しかも刀身がぴかぴかと光っている、一目見ただけでよく切れそうな代物である!墓穴を掘った!

「わあっ!この街は武器持ち込み禁止だぞ!」

 ぐねぐねと後ずさりしながらさっき知ったばかりの知識で対抗するも、相手は知ってるよと悪びれもせず当たり前のように言った。

「だから商売になるんだろ。それに、お前が消えれば誰にもバレない」

「うわっ、わー!」

 また墓穴を掘った!目撃者を消せば問題ないとかいう短絡的思考を引き出してしまった。なんとかして麻梨菜を殺したほうがまずいことになると理解させなければ。そうなると真っ先に思い付くのは私のバックには神殿がいるんだぞということで、

「こちとら神子姫様だぞ!」

「そんなわけないだろ」

 渾身の脅し文句もやっぱり全く通じていない様子でぴかぴかの刃物が近づいてくる。

「ほんとだもん!お前らなんか、トルカット様にひとひねりで全員牢屋にぶち込まれるんだから!」

「はあ?なにカットだって?」

「ピザか?」

 神殿の陰の支配者の名前も知らないとは、こいつらモグリか。しかしトルカットの名前が通じないとなると、他にどう脅せばいいのか。神殿の人たちならこれで一発なのに。ぐぬぬと頭を悩ませ始めた時、しかし風向きは麻梨菜の思い通りの方向へと変わってきた。

「ちょっと待て。まさか、本当に神殿関係者じゃないだろうな」

 男の一人が危機感を持ったように立ち上がる。今さら気づいたか。麻梨菜は得意げに、しかし尊大に見えるようにふふんと男を見返した。彼の緊張感が伝播したように、残りの二人も無言の目配せをして鋭い目で麻梨菜を見てくる。

「だとしたら……ヤバいな」

「ああ。検問とか言ってる場合じゃねえ。感づかれる前にさっさと殺しといたほうがいい」

「えっ」

 今世紀最大の墓穴を掘った!今や男たちはすぐにでも麻梨菜を殺す気満々の勢いで死体の処理方法なんかを話し合っている。せっかくさっきまでは街を出るまでは生かして連れていくみたいなことを言っていたのに、もはや五分後に生きていられるかどうかも怪しくなって麻梨菜は絶望的な気分になった。

 せめてダイイングメッセージを残さなければ。しかし焦る頭では良い文面など思いつかず、思い浮かぶのはジーノスの馬鹿野郎というようなことだけだった。

 いっそのことジーノスと書き残して奴に罪をかぶせてやってもいい。そういう方向性で定まってきたとき、

「あのー。すいませーん」

 外からのんきにも間延びした当の馬鹿野郎の声がした。

 突然の訪問者に男たちは警戒心も露わに顔を見合わせる。一人が頷いてドアまで出ていき、慎重に少しだけ開いてそこから目だけをのぞかせた。

「……誰だ?」

「あ、どうも。ちょっと人を探してるんだけど……」

「ああ?誰もいねえよ」

 入り口で押し問答が繰り広げられている間、残りの二人は息をひそめていた。ちなみに麻梨菜も即座に口をふさがれて体は押さえつけられ、芋虫の身動きもできない状態である。

 でもなんとかしてここにいるということを伝えなければ。びくびくと痙攣するような動きで精一杯己の存在をアピールしようとする麻梨菜の懸念通り、ジーノスの馬鹿野郎は男の拒絶にあっさりと「そうですか」と引き下がってしまった。

 馬鹿野郎!ダイイングメッセージに名前書いてやる!麻梨菜の呪詛も空しく無情にも扉は閉まっていき、同時に男がふうとため息を吐いたとき。ドアが閉まり切る直前のタイミングで外からどかりと音を立てて扉が蹴り破られ、

「でも一応、中見せてもらいますよ」

 ようやく救世主の登場となったのだった。

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