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天然令嬢の婚約者様

作者: ちる

彼は見目麗しい美少年で、頭脳明晰、しかも性格も温厚で男女問わず人望も厚い。そんな超完璧人間が婚約者だったらあなたはどうします?

喜んで友人に自慢しますか?

それとも自分では不相応だと解消を試みますか?


わたくし、アリフィレア・マリア・フィーベルトは完璧な彼に釣り合い、隣に並んでも恥ずかしくないよう全てにおいて努力しました。


平凡な容姿の私はまず綺麗にみせることから始めました。当時、まだ発展途上であった基礎化粧品の開発を10歳という若さで自身と当家の侍女たちを実験台に始め、今では様々な化粧品の開発にまで手を広げています。


そのかいもあり、肌はきめ細かく色白で小顔。美少女ではないがそこそこ可愛いね、位にはなりました。婚約者様には到底敵わないのですが、これが平凡な容姿の私ができる精一杯の成果なのです。なお、化粧をすれば誰もが振り返る美少女にはなれたのですが、素顔との落差が激しいので変装時しかその化粧はしていません。普段は薄化粧です。


この化粧品開発により、侍女たちとの信頼も深まりちょっとは人望も厚くなったかしら?と思います。


容姿も限界まで上げた後は勉学です。婚約者は5カ国語話されるので、私も家庭教師をつけてもらい必死に学びました。時にはネイティブの方をお呼びしてお茶会も開き、メキメキと語学力がつきました。その頃には語学以外の事にも興味が出始め、政治や経済なども学びました。父が宰相をやっていることもあり、父と討論会を開くなど学んだことを活かす場も作りました。結果、おじさま方の人脈も増えました。少しは婚約者様に近づいたかしら?


もちろん礼儀作法やダンスといった淑女教育は並行して徹底的に学びました。講師は隣国の元王女様、わたくしの母ですが。王家に嫁いでも問題ないと太鼓判を押されました。


こんなに努力していますが、婚約者様には到底敵いませんし、わたくしより優れているご令嬢はたくさんいらっしゃいます。







「あら?あれはヘンドリクス様では?」


学園の中庭を友人と歩いていると彼女、サフィーナがわたくしの婚約者様を見つけたようです。わたくしがそちらを見ると、聖女様と呼ばれるご令嬢が婚約者様と楽しそうにお話されていました。


聖女とは生まれながらに治癒能力がある女性の事をさし、女神の愛し子であるため儚げな容姿で美人が多く、そして頭の回転も早いそうです。


この国には魔法といった不思議現象はありませんので、治癒能力を持った聖女様は大変大切に扱われます。昔は人々に恐れられ火破りにされたこともあったようですが、今はありません。


美少年の婚約者様と美少女の聖女様が並ぶと大変お似合いなんです。ですが、婚約者様には婚約者であるわたくしがおりますので適度な距離を保ち、二人きりにはならないように屋外であっても近くに侍従や侍女がおります。


しかし、このときは違いました。近くに侍従や侍女もおらず、しかも二人の距離がとても近かったのです。こちらからは後ろ姿しか見えないのですが肩が触れ合うような距離でお話されてしました。


「あ、あの・・」


サフィーナはおろおろとした様子でどうしようか迷っていました。


中庭を抜けるには彼らの前を通らなければならないのです。わたくしも『どうしたものかしら?』とこのときは呑気に考えていたのですが、次の瞬間青ざめました。


婚約者様が聖女様に顔を近づけたのです。こちらからはお互いの顔が重なっているように見えてハッキリ何が行われているのかは分かりませんが、男女が顔を近づけて行うことなんてキス以外にないでしょう。


その後、どうやって家に帰り着いたのかは覚えていません。立ったまま気を失ったらしく、サフィーナが馬車置き場まで運んでくれたようです。


家族や使用人たちはいつもと様子が違うわたくしをとても心配してくれました。今まで頑張りすぎたツケが回ったと思われたようで、早々にベットに入ることになりました。


聖女様と婚約者様は恋人なのでしょうか?

わたくしは邪魔者だったのでしょうか?


涙が頬をつたいます。


わたくしと彼の婚約は王命で決まったのです。わたくしは隣国の現国王の姪、彼は違う隣国の現国王の甥、今住んでいる国との3カ国同盟が締結され、その証としてわたくしたちの婚約は相成りました。


つまり政略的な婚約であって、尚且つ3カ国で決めた婚約なので解消や破棄はできないのです。


わたくしは少しでも仲の良い夫婦になりたいと思い努力してきました。その内にほのかな恋心が生まれました。定期的にお茶会やお出かけに誘ってくれたり、何処かに行かれた際にはプレゼントやお土産も彼からいただきました。彼の瞳の色であるブルーのドレスや装粧品もたくさんいただきました。何気ない会話で話したことを覚えていてくれ、食べたいと言った菓子や可愛いと言った花までプレゼントしてくれたこともありました。


こんなに大切にされてお慕いしない方が無理ではないでしょうか?


頬をつたう涙はだんだん量を増します。


わたくしの心は『ポキリ』と音をたてて折れました。





次の日、腫れた赤い目を侍女に処置してもらい学園へ向かいます。


学園へ着くとすぐさま講師室へ向い、ある教師の方を呼び出しました。


「ん?フィーベルト公爵令嬢か。僕に用事なんて珍しいね。どうしたんだい?」


「はい。あの、グリーンベルク先生は卒業資格試験の担当でいらっしゃいましたよね?」


「あぁ。そうだが?なんだ?君も受けるのかい?まだ2回生だろ?早くないかい?」


「色々事情がありまして、内密に試験を受けたいのですが」


「んーまぁまだ締め切りまで期日はあるし大丈夫だが?親御さんは知っているのか?」


「・・・いえ」


「ん?大丈夫なのかい?・・・まぁ申請書を渡すからそれ親御さんにサインを貰ってくれれば受けられるから。締切は今週末だからね。試験日は学年によって違うんだけど、2回生は受けたことがないから後で学園長に聞いておくよ」


わたくしは出された紙をなくさないようにしっかりと鞄にしまいました。


「ありがとうございます。よろしくお願いいたします」


講師室を出ると廊下をあるく婚約者様がいらっしゃいました。わたくしの心臓がドキリと大きな音を立ててどんどん心音が早まっていきます。


「アリー、おはよう。講師室に用事?」


わたくしを見つけた婚約者様は爽やかで甘さを含んだ笑顔をわたくしに向けてきます。


「おはようございます。ヘンリー様。ちょっと質問がありまして」


悪いことをしているわけでもないのに背中に冷たい汗がツゥーっと伝います。あまり長く会話をするとボロが出そうです。


「すみません。これからサフィーナと約束がありまして」


「そうか。残念だな。じゃぁ今日は一緒に昼食をとらないかい?」


「えっ・・・」


「ん?どうしたの?」


「いえ、今日はお祖母様がいらっしゃるので午前中で帰宅しようと思っていまして」


「そうか。それなら仕方ないね。アンネマリー様はいつまでいらっしゃるの?ご挨拶したいんだけど」


「来週末までいらっしゃいます。今週末にパーティを開きますのでおそらく招待状が届いているかと思いますわ」


「あぁ、母上がなんか張り切っていたな。アリーの所のパーティだったのか」


「はい」


は、早く会話を終わらせないと卒業資格試験のことを話してしまいそうです。


「あら、ヘンドリクス様?こちらにいらしたのですね!」


タイミングが良いのか悪いのか分かりかねますが、聖女様がいらっしゃいました。わたくしはまた恋人同士のイチャイチャを見せられるのでしょうか?泣きそうです。


「あぁ。聖女様、私をお探しでしたか?」


「えぇ。この間伺ったことでちょっと疑問点がありまして。お邪魔だったかしら?」


何やら聖女様から『あなた消えてくださる?』という鋭い視線を投げかけられました。やはりお二人は恋人同士なのでしょうか?淑女教育のお陰で顔には出ていませんがわたくしは今にも泣いてしまいそうです。


「こちらは私の大事な婚約者のアリフィレア・フィーベルト公爵令嬢です。アリー、こちらが聖女様だ」


「ヘンドリクス様、聖女様でなく名前で呼んでいただきたいわ。


フィーベルト公爵令嬢様、聖女のアナスタシアです。ヘンドリクス様には大変良くしていただいております」


「お初にお目にかかります、聖女様。


大変申し訳ありませんが、わたくしはこれから大切な用がありまして失礼させていただきます」


ささっと一礼してギリギリ許されるスピードでその場を後にいたしましょう。


「アリー、髪が乱れているよ」


有無を言わさぬ眼力と優しげに見えますがしっかりと腕を捕まれたエスコートでわたくしは逃げられませんでした。


さらりと前髪が整えられ、出された額にチュッという音と柔らかい感触が。


「な、な、な・・・」


聖女様は怒りに顔を真赤にされていました。わたくしは何が起こったのか分からずそそくさとその場を後にしました。


婚約者様はどこか満足気な様子でそっと腕を離してくれていました。




あれ以来わたくしは婚約者様を避け続けております。

父をなんとか説得し、卒業資格試験を受けることができ、昨日合格いたしました。これで心置きなく領地で静養できます。


このことをお母様に伝えた時の反応は思いもよらないものでした。


「あらあら、またあなたの悪い癖がでたのね。思い込みでお相手の気持ちを決めつけては駄目よ。


婚約者殿があなたを溺愛しているのは誰の目にも明らかなのに。はぁ。まぁいいわ、好きになさい。私が何を言っても変わらないでしょ。


それよりお祖母様のパーティーはどうするのかしら?欠席するの?」


「体調不良で欠席するとお父様に伝えてありますわ」


わたくしは前半の会話をまるっと無視して回答しました。お母様はあの場面を見てらっしゃらないから言えるのです。しかもああいった婚約者様の逢瀬?を見るのは初めてではないのですから。




わたくしが初めて婚約者様が他のご令嬢と近い距離で楽しく談笑されていたり、仲睦まじく見つめ合っているのを見たのは今から一年前のことでした。


最初は気が動転してしまい、婚約者様を問い詰めました。婚約者様は浮気をキッパリと否定してくださいましたが、「理由は話せないが今後もご令嬢達と関わりを持っていく」、といったことをおっしゃいました。本当に申し訳無さそうな態度で、その場ではそうですか、としか言いようがなかったのです。

しかし、そのことをサフィーナに話していると、いつも誠実な婚約者様のらしくない態度を思い出し、ふつふつと怒りが湧いてきてもっと問い詰めなかったことを後悔しました。


その後も何度もそういった場面を見てきたのです。まぁ今回のキスシーン?は初めてでしたが。一応話せないという理由を何度もそれとなく聞いてみましたが教えては貰えませんでした。もしかして愛妾候補を探されているのでしょうか?




「なにもサフィーまで一緒に来なくても良かったのですよ?」


「いえいえ、一応アリーの専属侍女になる予定だもの。私も卒業資格試験受かったのだし、いいじゃない。それに公爵様には許可を取っているわよ?」


「はいはい。分かりました」


わたくしは何故か一緒に卒業資格試験まで受け、領地まで着いてきたサフィーナと一緒にまったりとお茶をしたり、読書したりして過ごしています。


領地に来て二週間が経つ頃には精神的に安定し、婚約者様のことを冷静に考えられるようになりました。ただ何通も届いている手紙は開けられませんが。一応執事に内容は一通り確認してもらっており、急を要する内容ではないようなので放置しています。


「そういえば、王太子殿下が廃嫡されたみたいよ」


「えっ!?婚約者様は確か殿下の側近候補でしたわね?大丈夫でしょうか?」


「王太子殿下、あ、元王太子殿下は様々なご令嬢達と関係を持っていたみたいよ。その中の一人が妊娠してしまって露見したみたい」


「あら。ずいぶんと遊ばれていらしたのね」


「でね、その妊娠したご令嬢というのが、あの聖女様らしいの」


「えっ?どういうこと?」


聖女様は婚約者様がお好きだったのでは?


「詳しいことは私には言えないのよ。

アリーの婚約者様はそちらの事後処理でお忙しいみたいよ」


「サフィーはずいぶんお詳しいのね?」


「うちの家系の特性よ」


サフィーナのお家といえば、確か王家の暗部を担っているのだったかしら?お父様がちらっと零していた気がします。そしてその後青白い顔をしてこのことは内密に、誰にも話さないように、と念書をかかされました。このことにはあまり触れてはダメです。なんだか警報音がする気がします。考えるのもやめましょう。





婚約者様がわたくしの元に会いにいらしたのはそれから一週間後のことでした。


「アリー。俺のアリー。ようやく開放された」


会うなり、挨拶も何もなくわたくしをギュッと抱きしめてきた婚約者様にはたいへん驚かされました。


「アリー、もうこの国は腐りすぎてる。クソバカ王子に親バカ国王に王妃。あんなやつらのせいでアリーを犠牲にしてしまって本当に申し訳ない。この罪は一生かけて償う。だからお願いだ、俺と結婚してくれ。これからは絶対にアリーを一番に優先する」


よく見ると婚約者様はとても酷いお顔をされています。こびり着いた濃いクマに痩けた頬、涙や鼻水でグチャグチャです。髪はヨレヨレ、服もヨレヨレで砂埃らしきもので大変汚れています。


がっちり抱きつかれていて、恥ずかしいやら嬉しいやら困惑してどう返事をしましょうか?と思っていると、婚約者様がわたくしの前からスッと消えて玄関扉にぶつかりました。


お父様って婚約者様を吹き飛ばす腕力がおありだったんですね。ひょろひょろしてて頼りないわってお母様がよく仰っていたのに。


「アリー、この国は酷い有様さ。隣国の3カ国同盟も破棄された。もう彼の婚約者ではなくなったんだよ。アリーは自由になったんだ。こんな男と結婚しなくていいんだよ」


「あら、お父様。お父様も酷いお顔ね」


お父様も頬が痩けて、目の下に大きなクマを飼ってらっしゃいました。


「いやー辺境伯の領地で災害が起きて処理に出向いている間に王族がやらかしてね。


バカ元王太子は令嬢たちに手を出して自称聖女を孕ませるし。女遊びを隠すためにアリーの元婚約者殿はこき使われてね。元婚約者殿を餌に令嬢たちをおびき寄せて好みの令嬢と一晩を過ごし、抵抗をした令嬢には元婚約者殿を侍らす権利とやらを与えていたようだよ。しかもあのバカはアリーを人質にしてこの元婚約者殿を言うことを聞かせていたみたいだしね」


お父様は婚約者、元婚約者?を片手で拾い上げ座らせました。お父様は今は宰相ですが、元騎士団長なのです。


「ヘンドリクス様?大丈夫ですか?」


わたくしはおろおろとすることしかできませんでしたが、侍女たちがテキパキと元婚約者?の擦り傷や打撲を処置していきます。


「アリー、俺と結婚してくれるかい?」


床に座り込んだ状態でわたくしを見上げた元婚約者?は大変可愛らしいです。なんだか胸がおかしいです。ギュッと締付けられて言葉がでてきません。


「アリー、こいつはこいつなりに頑張っていたぞ。まぁアリーを傷つけたことは許せんがな。子供に甘い陛下と王妃を説得してバカを廃太子にしたし、秘密裏に3カ国同盟の他国と連絡を取ったりしたお陰で俺が戻ってくるまで何とかなった」


「そ、そうですか」


実はサフィーナに王太子殿下が廃嫡になったことを聞いてからわたくしなりに色々調べたのです。一応わたくしにも影と言われる裏仕事や護衛をする者がついているのでその者に手伝って貰いました。


なので元婚約者様?のしたことは仕方がないとは思うのです。でもそれと許せるか?というのは違うのです。


「ヘンドリクス様は聖女様と不貞行為をされましたか?」


わたくしはキスしているのを見たのです。許すまじ。

キッと睨みつけてやりました。


「それはない!誓ってない!ベタベタ触られたが服の上からだったし、こちらから触ることもなかった!密室で二人きりになることも避けた!」


「な、中庭で・・・・わたくし・・・・み、見ました」


わたくしの頬からポロポロと涙がこぼれてきます。淑女として失格です。


「なんだと!?お前はあの阿婆擦れとそんな関係だったのか?しかも中庭でだと?変態か!」


お父様が拳をあげて元婚約者?を叱責しました。


「なっ、ち、違います!手を握ることさえ上手く逃げていたのに、なにもないですって」


「あぁーやっぱりアリーはあの時のこと勘違いしちゃったのね」


「えっ?サフィー?」


「婚約者殿がアリーに会いに行くって聞いたから来ちゃった。


アリー、あれは婚約者様ではなかったのよ」


「えっ!?」


「あれは元王太子殿下よ。婚約者殿のフリしてイチャイチャしてたのよ。私も見間違えちゃったからアリーには悪いことをしたわね」


「えっ?そ、そうなの?」


「あぁ。確かに何度か俺のフリをしていたな。まさかその格好で聖女様と不埒なことをされるとは・・・」


「アリー、私の父もこの件に関わっていてね。詳しいことを話せなくてごめんなさい。腐敗した王家を排除するよい機会だって言われて・・・」


「えっ?い、いいのよ。大丈夫よ」


「で、アリー、俺の求婚の返事は?」


いつの間にかわたくしの前に跪いた元婚約者様?がわたくしの右手を取りたずねてきた。


「お受けいたします」



色々ありまして、無事婚約者様と結婚式することとなりました。



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