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君を自転車で轢いた後 ※完結済み  作者: じなん
第十四章 燃える炎のように
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第八十九話 キャンプ後編


 目が覚めると、周りは既に暗くなっていた。

しかしまだまだ雨は降り続いているようで、少し身体が冷えてしまう。


 おや……確か彼女を抱きしめて寝ていたのだけれども?


 どうかしたのかなと思ってテントの外の方を見てみると、カンテラの灯りが付いていてそこで彼女は焚き火にあたっているようだ。



「……木石くん、起きたのね。そろそろ夕ご飯を食べましょう?」


「ああ……もうそんな時間か。カップ麺だっけか。

いやぁ楽しみだねぇ」



 お湯を沸かして、麺がお湯を吸うのを待つ。

彼女も先ほどまでのことがあってか、ぼんやりとしているようだ。



「さっきの園尾さん。可愛かったねぇ」


「っ! ……まあ、木石くんになら見られてもいいわ」



 少し顔を赤くしながらも、可愛いと言われてまんざらでもないらしい。僕としてもお許しがいただけたので何よりだ。



「普段は……あんなふうにリラックス出来ないのかい?」


「……ええ、誰かに褒めてもらえることなんてない」



 彼女は少し俯いて答える。

成績優秀、品行方正、才色兼備の彼女のことだ。

それが当たり前になってしまっていて改めて周囲から評価されることも少ないのかもしれない。



「今度からは僕に言ってくれれば、思いきり甘やかしてあげるよ。僕も楽しいし」


「……本当かしら? なら……今度お願いするわ」



 ちょうど3分が経ったので、カップ麺を開ける。

細長い容器の定番のものだが、改めて食べるとシンプルかつ完成されていて美味しい。

何より冷えた身体にはご馳走だ。



「……木石くんとのご飯。美味しい」


「うん、美味しいねぇ。最近は園尾さんとお昼を食べているけど、君とは話も合うし」


「……ねえ……木石くん。それなら……」



 彼女がずいっと僕の方へと身を乗り出してくる。

そのまま、僕の眼をじっと見つめて懇願するように言った。



「あたしと……付き合ってみない?」


「うーん……そうだねぇ……」



 正直なところ、僕は彼女のことを好ましく思ってはいる。

以前までお付き合いしていた女の子たちとは違って、僕のことをよく知ったうえで好いてくれているような気がするのだ。

趣味や好みも合うし、一緒に居て楽しく思う。

それに今日はとびきりに可愛らしい一面も知ってしまった。


 けれど、そんな半端な理由で付き合うというのは、真剣な彼女の気持ちに失礼では無いだろうか?



「僕は……たぶん、君のことを好いてはいるんだけどね」


「そうなの?嬉しいわ、じゃあ……」


「……けれど君の想いに釣り合うかと言われると、難しいところなんだ。そんな中途半端な気持ちだと……君に失礼なんじゃないかって」


「……それは……」



 それを聞いて彼女が腕を組んで考え込む。

僕のわがままな考えをどうにかして上手く翻意させようと考えを巡らしているようだ。



「……わかったわ。じゃあこうしましょう」


「何かな?」



 考えがまとまったようで彼女が意気込んで宣言する。



「今度の期末テスト、合計点で勝負しましょう。

それで負けたら、あたしはキッパリと諦めるわ」


「……それはまた何とも」



 特進コースの、それもかなりの上澄みである彼女に期末テストの点数で勝つ。普通コースの僕ならほぼ確実に勝ち目が無い条件だ。



「……君が勝ったらどうするんだい?」


「あなたに、あたしの恋人になってもらう」


「……そうかい。じゃあ少し条件を変えようじゃないか」



 だが、何故かこの勝負は是が非でも勝ちたいと思った。

もちろん彼女を打ち負かしたいとかいう事ではなく、かといって彼女との縁を切りたいということでもない。


 彼女に、園尾さんに負けることが僕の矜持を傷つけるような気がしたのだ。



「僕が勝ったら、改めて僕から君に告白するよ。

いや、君には僕の彼女になってもらう」


「……それじゃ勝負にならないじゃない」



 園尾さんは呆れた口調で言ったものの、しかしその表情はとても楽しそうで、明らかに隠しきれない笑みを携えていた。


 彼女に勝つ。勝って彼女をものにする。

自分でも不思議なほどに闘志が湧いてくるようで自分自身の久しぶりの熱意に驚いた。


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