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君を自転車で轢いた後 ※完結済み  作者: じなん
第十四章 燃える炎のように
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第八十六話 雨のキャンプ


 最寄りのバス停から降りてキャンプ場へと歩を進める。

何度も行っている場所なので迷うことはないが、園尾さんに合わせてゆったりとしたペースを心がける。


 しかし……空模様を見るとかなり崩れてしまっているようだ。鳥が低く飛んでいるのも低気圧の影響だろう。


 早いところテントを設営しないとかなり面倒なことになる。雨の中での作業は大変だ。



「園尾さん。少し急いだほうが良さそうだよ。

思ったよりも雨が早く降りそうだし、

最悪、雨の中でのキャンプになりそうだ」


「それは困るわね。けれど荷物が多くてこれ以上は早くできそうにないわ」


「まあ無理をしても仕方がない。怪我をしないように気をつけて行こう」


「……そうね。怪我をしないようにね」



 バス停からキャンプ場まではそれなりの距離がある。

沢山のキャンプ用品を持って木々の間を進んでいくので、6月なのにかなり涼しく感じる。


 木々の葉と厚い雲が太陽を隠してしまっていて、木陰は鬱蒼と暗くなっていた。僕はこういうコンディションの時は大人しく撤退を選ぶからある意味では新鮮な体験だ。


 やっとのことでキャンプ場に着いた時には、少しパラパラと小雨が降ってしまっていた。



「あー……うん、仕方がない。なるべく早くテントを立てるために僕がやるよ。手伝ってくれるかい?」


「……あたし、テントの設営楽しみにしてたの。

あなたが指示を出してあたしが組み立てたいわ」


「……そうだねぇ。確かにテントを1人で組み立てるのも貴重な経験だねぇ」



 今回の主役は園尾さんなので、彼女の意思を汲むことにする。テント自体はそれなりにテキパキと組み上がって、彼女の手際の良さに感心したのだが……。


 組み立てられたテントの中で二人でチェアに座って一息つく。そして外の様子を見てため息もついた。



「降ってるねぇ……。ざあざあと」


「降ってるわね。さめざめと」



 雨はもう本降りになっているようで、せっかくの景観が遮られてしまってほとんど見えない。水のカーテンがテントを覆い隠してしまって、周囲の音が遮断されてまるで密室のように感じる。



「……わざとにしては、強引に過ぎないかい?」


「あら……気がついてたのね。

いいじゃない。お泊まりしてみたかったのよ」



 あっさりと認めてくる。

彼女は前から僕とのキャンプでお泊まりがしたいと言っていたので、なりふり構わず叶えにきたようだ。



「ちょっと近くに寄るわね」



 園尾さんはチェアを動かして、僕にピッタリと横付けしてくる。おまけに肩に頭をこてんと乗せて甘えているようだ。



「……はあ、僕をどうにか誘惑したいのかな?」


「そうよ。あたし、木石くんが好きだもの。

単純接触効果でもなんでも、あなたに好かれるためならなんだってするわ」


「まいったねぇ。こんな女の子は初めてだよ」



 人に好かれることがこんなにも思うようにならないとは思わなかった。おかげで僕もなかなかに振り回されてしまっている。



「その様子だと、夜ご飯も当てがあるんだろう?」


「ええ。カップ麺でいいかしら」


「……良いねぇ。ご馳走だよ」



 夜寝る時用の防寒着も持って来てるようだし、何か起きた時のための鈴もあるみたいだ。


 実に用意周到である。たぶん練りに練った計画なんだろうなぁ。



「あと……木石くんのために準備はしておいたわ。

もし、その気になったら遠慮なく言って」


「……はて? なんのことやら」


「……とても恋人らしいことよ。言わせないで」



 彼女が少しだけ頬を染めた。あー……なるほどね。まさしくなんでもする覚悟で来てるらしい。

僕としてはそんなことは断じてしないのだけど、彼女の僕への入れ込みようは相当なものだ。



「……まあ、それはともかく。

せっかくのキャンプだしね。楽しもうじゃないか」


「そうね。せっかくのあたしたち初めてのお泊まり。できることは全てしましょう」



 一度もお泊まりに賛成した記憶は無いんだけどなぁ。

そんなことを思いながらも、万が一のために寝袋とか一式持って来ておいてよかったと自分の用心深さに感謝した。


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