第八十四話 キャンプの準備
彼女と出会って数日。
今日も昼休みに食堂で二人で談笑しながら食事を楽しみつつ、一緒にキャンプに行くという計画を着々と実現に向けて進めていた。
……僕としては、例のストーカーの件が少し不安材料ではあったものの、こちらからどうこうできる問題でもない。
「二人で焚き火でもして……そうだね。マシュマロでも焼こうか?案外美味しいもんだよ」
「それは美味しそうね。ご飯はおススメとかあるのかしら?」
「んー……鮭のホイル焼きなんてどうだい?
僕が下ごしらえしておくから、後は火にかけるだけで美味しくいただけるし、食器も汚れないよ」
「素敵だわ。キャンプ、本当に楽しみね」
目的地は大沢の付近にある有名なキャンプ場にして、そこまではキャリーカートで荷物を運ぶことにする。最寄りにバスもあるし薪もレンタルできる初心者向けの施設だ。存分に楽しんでもらえるだろう。
「天気も良さそうだし。帰りには温泉にでも寄るとしようか」
「温泉? ……大沢に温泉なんてあったのね。知らなかったわ」
「いや、駅前のスーパー銭湯さ。一応地下から温泉を汲み上げてるようで……いや、ちょっと待った。
そんなに長いこと連れ回すのは良くないかな?」
ついつい自分の普段の休日の過ごし方をそのまま彼女に当てはめようとしてしまって思い留まる。
日が落ちる前に帰ったとしても、キャンプ場から駅まで戻ってそのままスーパー銭湯に向かい、そこでゆっくりしたらかなり遅い時間になるだろう。
「……あたしは平気よ。門限とかは無いから」
「いや……しかしそんなに遅い時間に一人で歩かせるわけにもいかないからねぇ。
温泉の件は取り下げることにしよう」
すると、園尾さんが露骨にムッとした表情をする。
確かに色々と遊んだ後の温泉は魅力的だし、話をしたこちらにも責任があるかもしれない。
「悪かったよ……それなら温泉は今度別の機会に行くことにしよう。サウナとかは中々に気持ちが良くていいよ」
「……木石くんって意外とおじさんくさい趣味してるわよね」
「いやぁ……まあ、否定はしないかな。
僕は色々とやるだけやってるからねぇ。
釣り、料理、キャンプ、登山、イラスト、カメラと齧っただけでもけっこうあるよ」
「……羨ましいわ。あたしは家に帰れば勉強しかしてないし、たまに体力作りにランニングするだけ」
そう言って、園尾さんは頬杖をついて顔を背ける。
自己研鑽の成果が現れて今の地位にいるとはいえ、ただそれだけでは疲れてしまうのだろう。
そういう意味では、僕としては彼女に少しでも日常から離れてリラックスしてほしいと思う。
「……今週末のキャンプでは、目一杯深呼吸してみるといい。少しは気分も晴れるだろうさ」
「……そうするわ。あなたとのキャンプ。
本当に楽しみにしてるから」
だけれども、その後のキャンプは僕の予想と違って、波乱続きの大変なものになってしまうのだった。