第七十九話 通学路
『駅で待ってるわ。一緒に登校しましょう』
朝、起きてメッセージを確認するとこんなものが来ていた。彼女は意外と好きな人とベタベタしたいタイプなのかもしれない。
僕としては彼女の正体を探る手がかりを掴めるかもしれないのでまあ断る理由も無い。
しかし駅で待ち合わせか……見つけ出せるか不安だ。
そんなことを思いながら駅でキョロキョロしていると、どうやら彼女の方から見つけてくれたようだ。
「おはよう園尾さん。すまない、
見つけるのに手間取ってしまった」
「別に構わないわ。今度からは待ち合わせ場所を明確にしておきましょう」
ちなみに父とは時間をずらして登校することにした。出会ったばかりの異性の友人を会わせるのも気まずいだろう。一緒に電車の席に座り彼女と会話する。
「君に聞きたいことがあるんだけど……」
「何かしら?」
「……他の人からの告白を断ってきたのは、何故だい?」
すると、彼女がこちらを向いてじっと見つめてくる。おっと、何かしらの地雷を踏んでしまったのだろうか? 僕としてはたまにあることなので正直申し訳なく思ってしまう。
「……デリカシーがないわね」
「ははは……いや、気になってしまってね。
なんでもほとんどのお誘いを断っているみたいじゃないか?」
「女の子と話してる時に、過去の恋愛の事は話さないほうがいいわよ」
「悪かったよ。今後は気をつけるさ」
すると彼女は目を瞑って腕を組んで、ため息を吐きながら答えた。
「別に……興味が無かっただけよ。
お遊びで相手と付き合うのも悪いし」
「僕は違うのかい?」
「ええ、あなたは違うわ。
今からでも付き合ってくれていいのよ」
照れることもなくこちらに好意を見せるが、そこにはどこか違和感も感じられた。
「僕と彼らの何が違うのか理解できないなぁ。
所詮、男なんてのは同じくくりに入れられるもんだと思うけどねぇ」
「あなたは他の大多数の人とは違うわ。
あたしが好きになった人だもの」
……ここまで隠す事なく相手に好意を示せるのも才能かもしれないな。けれど、肝心な僕を好きになった理由については伏せたままなのが気になるところだ。
そんなことを思いながら電車を降りて学園行きのバスに乗り込む。
「……僕のことを本当はどう思っているんだい?」
「どうって……好きよ。愛してるわ」
やはりなんの臆面も無く言ってのける。
それを聞いた同じ学校の生徒が驚くのを感じたが、まあほうっておくしかない。
けれど……僕の気持ちは少しずつ彼女に傾いていた。
僕としてはこうまで相手を好いているのに、その理由がどこかあやふやなところがとても気になって仕方がない。こんな人とは出会ったことがないため、できればその裏の裏の思惑まで探ってみたいものだ。
「そうだねぇ……俄然、君に興味が出てきたよ。
そこまでして僕に近づいてくる理由を知りたくなった」
「そう。あたしとしても好都合ね。
好きな人に自分に興味を持ってもらえるなんて、願ってもないことじゃない」
また周囲が騒ついたのを感じた。
……とりあえずはこの人と深く込み入った話をするのは場所を選ぼうかな。
なんか周囲のことを考えなさすぎて怖いぞこの人。