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君を自転車で轢いた後 ※完結済み  作者: じなん
第十三章 木石幸平のお話し
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第七十六話 友達の園尾さん

 

 晴れて友達になったことだし、彼女との仲を深めて良いものかを確かめるためにも一度じっくりと人物批評をしてみたいものだ。それに僕としては彼女の方からやっぱり思ってたよりも面倒だと言い出すことも視野に入れているのだから。



「さてと……ここで立ち話もなんだからどこか落ち着けるところに行こうか。駅前のカフェとかで大丈夫そうかな?」


「ええ、構わないわ。行きましょう」



 二人で並んで歩く。するとその途中で園尾さんがそのくくった髪を解いた。長いロングの髪の毛を下ろしている姿はやはりどこか涼しげで突発的な告白をするような印象には思えない。



「……何?」


「いやね。その髪型、気に入ってそうしてるんじゃないのかと思ってねぇ」


「別に。気分で変えてるだけよ。普段は下ろしてるほうが楽だけど緊張したから上げてただけ」


「似合ってると思ったんだけどねぇ……」


「…………そう」



 すると、彼女がまた髪を結ってツインテールにした。



「どう?あたし、あなた好みになれてる?」


「ああ、その方が険が取れて可愛く見えるよ。

君は凛としているのが魅力ではあるけど、たぶんそれだととっつきにくいからねぇ」


「そう……なら今後はこの髪型にするわ」



 ふーむ。なんとも淡々としているというか、とても冷静かつ理知的だと感じるのだが、僕への好意自体は示そうとしているようだ。


 バス停でバスを待つ間に軽い雑談をしてみる。

相手のパーソナリティをどうにか掴んでおきたい。



「園尾さんは家はどちらに?

もし駅前だと都合が悪いようなら場所を変えるけど」


「大丈夫よ。あたし最寄りは大沢駅だから」


「……それだと僕と一緒の駅になるのかな?

なんとも奇遇だねぇ」



 ……自分と同じ大沢駅周辺に住んでいるとは思わなかった。

少なくとも中学や小学校は別なはずなので、最近になって引っ越してきたのかもしれない。


 バスに乗り込んでそのまま二人並んで座る。

数名、同じ高校の同級生が僕と園尾さんが一緒にいるところを見て驚いたようだ。


 まあ、園尾さんの噂を知っている限りはそうなるだろう。



 カフェに着いたのでそれぞれドリンクを頼む。

僕はオレンジジュース。彼女はアイスコーヒーだ。



「コーヒーが好きなのかい?」


「そうね。普段からよく飲んでるわ」



 するとガムシロップを入れて砂糖を2本ほどコーヒーへと投入し始めた。……どうやら甘党ではあるらしい。



「甘党なのかい? それも奇遇だね。僕も甘党なほうだよ」


「そうなの? ……あたしたち、気が合うのね」



 相手と親しくなるには歩み寄るきっかけが必要だ。

どんな些細なことでも共通点を見つければ、シンパシーが得られそれを起点にしてより仲を深めることができる。

ごく簡単なアイスブレイク代わりにはなるだろう。

これから聞きにくいことを聞くのだし。



「……それで?話ってのは何かしら?」


「うん。……単刀直入に聞くよ。

君はどうして僕を好きになったんだい?」



 最も疑問に思っていることを聞く。

記憶の限りでは僕と彼女には接点は無いし、面識すら怪しいぐらいなのだから当然だろう。


 ……おや?どこかで聞いた話だな?



「……フった相手にそれを聞くのはデリカシーに欠けるのではなくて?」


「……すまないねぇ。どうしても気になってね」


「……そうね。あなた、今朝お婆さんに席を譲っていたでしょう?」



 ……そういえばそんなこともあったな。

ということはあの時どこかで見ていたのか。



「優しそうだな。と好感を抱いたわ。

後は顔ね。あたしの好みだったの」


「なるほど、優しさと顔。ねぇ……」



 いかにもとってつけたような理由である。

ともあれ本人がこう言っているのでこれ以上詮索してもはぐらかされるのが関の山だろう。



「質問には答えたわ。今度はこっちから質問」


「……何かな?」


「あなたのクラス……1-5で間違っていないわよね?」


「そうだけども」



 すると、彼女はどうやら顎に手を当てて長考する構えに入ったようだ。



「……どうして普通コースにいるの?」


「どうしても何も。僕が入学テストでそれなりの点しか取れなかったからだけれど?」


「……そう。そうなの」



 ……んー。僕の学力が低いことがそんなに気に食わないのだろうか?そりゃあ特進コースの園尾さんと比べればそうだろうけども。だからといって文句をつけられるような謂れはないぞ。



「……ちょうどいいわ。これからは定期的に勉強会をしましょう。いいわね?」


「は? いや……面倒くさいのだけれども」


「あたし、こう見えて特進コースなの。

あなたの学力を上げられると思うわ」


「ええ……?必要ないんだけどなぁ」


「決まりね。さあ、あたしにちょうど課題が出てるから、それを教材にして勉強するわよ」



 すると、テーブルに課題を広げて問題を解くように求められる。面倒だと思いつつそれらに答えを書き込んでいく。

その様子を見て園尾さんは目を少し丸くしたものの、ふとこちらの筆を止めてきた。



「ダメよ。……それじゃダメ」


「? ……答えはあっているはずだけれども?」


「途中式を書かないとダメね」



 ……。面倒くさいなぁ!


 とは思いつつも黙ってそれらに途中式を付け加えていく。

園尾さんはその様子をみて満足しているようで、答え合わせをしながらうなづいている。



「やっぱりやればできるじゃない。さすがね」


「……勉強会は必要なさそうかな?」



「いいえ。継続は力よ。……今後も定期的にやりましょう」



 なんだこの女……と心の中で天を仰いだ。


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