第七十四話 木石幸平
小鳥……たぶんスズメだろうか?がチュンチュンと僕に朝を教えてくれる。6月にしては珍しい気持ち良く晴れた朝
カーテンを開けて窓から朝の日差しを浴び、身体の体内時計を切り替えて目覚めさせる。
(ん〜良い朝だぁ……今日はなかなか良い事が起こりそうな気がするねぇ)。
洗面台で口内をリフレッシュした後、制服に着替えてリビングに降りると父と母が朝食を摂っているようだ。
父は相変わらず新聞紙を片手にトーストを食しているようだし、母はテレビを観ながらジャムをありったけ塗っている。
「おはようございます。父さん、母さん」
「ん……おはよう幸平。今日も元気だな」
「朝ごはんできてるわよ。冷めないうちに食べなさい」
定型分の会話だが家族とのコミュニケーションは大事だ。家族との関係は円滑であるに越したことはない。
少々栄養バランスが気になったので冷凍のブロッコリーを温めてサラダに加えつつ、朝食を食べる。
朝ごはんは1日で最も重要な食事と言っても差し支えない。食材に感謝しつつも美味しくいただいた。
歯磨きをして、身だしなみを整え姿見の前に立つ。
うん。いつもの僕に仕上がっている。
血色も良好。体調は万全で今日も楽しく過ごせそうだ。しっかりと自室の鍵を閉めて、学校への準備は整った。
「行ってきます」
「行ってらっしゃい。気をつけてね」
父と共に多少の会話をしながら駅へと急ぐ。
父はどうやら僕に仲の良い異性がいないことに少し懸念を示しているようだ。
正直なところ今はそんなものに興味は無いのだが……。家族の期待に応えるためにも、今後は周囲への愛想を少し考えてみたほうがいいかな。
「父さん、ではここで」
「おう。しっかりやれ」
高校の最寄り駅で降りて、駅からバスに乗る。
途中、老齢の女性に席を譲ったりして善行を積んでおく。こういった普段からの心構えが回り回って自身に返ってくると信じておこう。
もうおわかり頂けただろうが、僕はとてもめんどくさい男である。
何をするにも打算や無駄な思考が入ってしまうので、そこが周囲とのノイズになってしまっているのだろう。自分では自然にしているつもりでも、そういった部分は他者からは不評のようで。
自分のクラスへと入ると、最近急速に仲が良くなった二人が話しているのが見えてくる。
浅海祐介と柳城愛美。
一体どこに接点があったのかは謎だが、どうやら柳城さんのほうが浅海くんへの好意を抱いているらしい。
浅海祐介はああ見えて面倒見が良い好青年ではあるので、一方的に友人と思っている身からすると、彼に遅い春が訪れたのはとても喜ばしい。
それはそれとして噂はばら撒くけれども。
しかし……。
(女の子の方から一方的に好かれる……かぁ。
羨ましいというか、面倒がなくていいねぇ)。
そんなことを人事に思っていると退屈な授業が始まるようだ。とりあえずはノートを取るだけの作業なので僕としては面倒このうえない。
実際、僕が1番好きなのは体育だ。
長時間座りっぱなしだった姿勢を程よくほぐすことができるので、毎日でも取り入れてほしい。
そんなことを思いながら授業が終わり放課後の時間になる。
(今日は部活に顔出すのは面倒だからいいかぁ。
さっさと帰ってしまおう)。
即決してそのまま下駄箱に向かい靴を取り出しそうとすると。
(おやぁ?おやおやおや?これはもしかして?)
果たしてそこには可愛らしい便箋が入っているではないか。やっぱり善行は積んでおくべきだな。