第七十三話 上梁純香
もう遅い時間だったので今日も純香の家で過ごすと藤雄さんに連絡する。
すると、藤雄さんからはお叱りの言葉を頂いてしまった。
『今、君の心が弱っているのはわかるが、あまり上梁さんに迷惑をかけるもんじゃない。それに軽率に男女が同じ部屋に泊まるなんてことを、それも連日なんて親としては許せない』
とのことだ。けれど……ボクとしてはせっかく想いが通じた今、どうしても純香と一緒にいたかったので無視することにした。
「お家の方は……怒っていないの?」
「怒ってたけど……でもボクには純香の方が大事だから……」
「そ、そんな……うぅ……嬉しいけど……」
嬉しい気持ちを隠し切れないのか顔を真っ赤にして俯いて湯気を上げている。そんな純香を見てしまうとやはり今日は帰りたくないよなぁと思う。
「今日だけは……その、わがままを聞いてもらうよ。
普段は良い子にしてるから、今日ぐらいは許してもらえると思う」
「忍くん……悪い子なんだから……」
めっと純香からもお叱りの言葉をいただくが、ボクは気にしないでそのまま純香を抱きしめる。
小柄なボクにでも持ち上げられてしまうほど純香は軽いので、そのままふんわりとベッドに下ろした。
「忍くん……?その、もしかして……?」
「……うん。できれば……その、純香と一緒に」
あぅぅ……と純香がオドオドとして戸惑いを見せる。
正直ボクも男として、こんなに可愛い彼女と二人でいると我慢しきれない。
「だ、だめよ……私たち……まだ結婚もしてないのに」
「もう指輪は付けてるのに?」
左手の薬指に付けた絆創膏を見せる。
純香も自分の指のそれを見て、でも……と俯く
「……じゃあ、ボクが16になったらすぐに結婚しよう、純香」
「そ、そんな……嬉しいけど……今はだめ……」
必死にボクを手で制止する純香のひ弱な抵抗を本当はねじ伏せてしまいたかったが、彼女に嫌われるのは何よりも怖い。
「わかったよ純香。じゃあ一緒に添い寝しよう?」
「そ……添い寝なら、良いわ。……今日は一緒に寝ましょう」
……譲歩はしたものの正直生殺し状態かもしれない。
華奢で可愛い純香と一緒に寝て、ボク自身が耐えられるか不安でもある。
その時お互いのお腹がぐぅぅと鳴った。
「「…………」」
思ってみれば、朝にカレーを食べてからろくな食べ物を食べていないのだ。
ボクにしてみれば先ほど胃の中のものを吐き出したばかりで、余計にお腹が減っている。
どちらともなくクスクスと笑みが溢れ、一緒にご飯を作るべくキッチンへと向かった。
「純香。ちなみに何が食べたい?」
「……忍くん……って言ったら……?」
「……そんなことを言うなら、ボクも純香を食べたいな」
そんな軽口で笑いあって、その日も二人で美味しい食事を食べた。