第七十一話 ご馳走様
とりあえず、昨日からお風呂に入れずに色々あったせいで少しベタついた身体を流すために、お風呂を借りることにする。
上梁さんもそれを了承してくれたのでゆっくりと湯船に入った後、押入れから引っ張り出したという上梁さんの父親のパジャマを着せられた。
サイズは全くあっていなくてズボンはずり落ちてしまったけど。なので、上梁さんのお古のズボンを貸してもらったらそれがピッタリとあって、少し複雑な気分になった。
同じようにお風呂に入った上梁さんが戻ってきたので、声をかける。
「お風呂ありがとうございます。上梁さん」
「いいえ……元はといえば、私が迷惑かけたのだもの」
いかにも申し訳なさそうにリビングのソファで縮こまっている上梁さんに、気にしていないと伝えるべく近くに座る。
上梁さんは少し身体を震わせた後に、ボクの肩に頭をコツンと乗せた。
「その……上梁さん。今日のことはいつから考えてたんですか?」
「その……ずっと、前。忍くんとデートした時から」
となると、夏休み入ったぐらいには既にボクのことを好きで好きで仕方がない状態だったということになる。酷くポジティブな考え方だが、そう思うと自然と口角が上がってしまう。
「ど、どうして笑ってるの……?
私……貴方を捕まえて、食べようとしてたのよ?
噛んだり舐めたり気持ち悪いことたくさんしたのに……」
「上梁さんに愛されてるとわかったので……つい」
すると、かああと顔を真っ赤にして俯いてしまう。
こういうわかりやすいところが上梁さんのかわいいところだ。
「上梁さんは優しいから……結局は断念していたと思いますよ。それにボクが本気で暴れたら、きっと足で蹴ったりして怪我をしてたはずです」
「……それでも……私は……貴方を無理やり……」
「……ところで、なんでボクは眠くなったんですか?」
「それは……カレーに睡眠導入剤を砕いて混ぜて……。
ち、違うの……私に、私にも何か罰が欲しいわ」
こちらの腕を掴んでゆさゆさと懇願してくる。
そうか、だから誤魔化すためにあのカレーは少し味が濃かったのか……。
「罰……罰ですか……」
「どんなことでもいいの……忍くんが気がすむなら、
私……なんだってするわ」
なんでもする……。と言われると健全な男子高校生としては色々と考えてしまう。上梁さんは痩せているけどボクとしてはそこがたまらなく好きなところなのだ。
あわよくば……と思ったけれどそれはグッと我慢した。
「じゃあ……これからは純香、って呼んでもいいかな?」
「……そんなことでいいの?」
「うん……ずっと上梁さんじゃなくて、名前で呼びたかったんだ。それに敬語もやめたかった」
「もちろん……私。忍くんにならいくらでも呼んでほしいわ。嬉しくて……またよだれが出てしまいそう」
「あはは……もう、どうしようもないなぁ……」
そう思って、純香の口にキスをする。
今度はこちらからちゃぷちゃぷと舌を絡めて、純香を味わった。
口を離すと純香は何故だか頬を紅潮させて、ふわふわとした顔でこちらを見ていた。
「は、はわわ……し、忍くん……」
「ふふふ、ご馳走様でした」
今日の忍くん、カッコよすぎておかしくなってしまいそう……と口から漏らしたので。
たはは……と苦笑いを浮かべた後に、ふと考えついた。
「純香、ちょっと左手の指を貸して」
「……? ええ、どうぞ」
純香の細い指を、そのまま口に含む。
そして純香の口にも、自分の左薬指を差し出した。
純香も、その意図を理解したようで……。
ボクたちは、二人だけで契りを交わした。