第六十九話 忍くんのカレーライス
一部過激な表現が含まれます。
苦手な方は読み飛ばしてください。
「ボ、ボクを……食べたいんですか?」
「そう……食べちゃいたいの」
とりあえず聞き返すものの、答えは変わらない。
何か言葉のあやでもあるのだろうか……?
しかし考えを張り巡らせても全くわからない。
「忍くんが……私にご飯を作ってきてくれるようになってから、しばらくして気づいたの。
……私。忍くんのご飯じゃなくて……忍くん自体に食欲が湧いてるんだって」
「どういう……ことですか?」
「パブロフの条件反射……って知ってるでしょ?
……私にとって、忍くんはご飯と密接に関わっているの……だから、忍くんがいないと何も食べられない」
「そ……それでも、ボクを……食べることには繋がらないんじゃ?」
おそらくだが、彼女の中ではボクと一緒に食べた食事の経験で、ボクが一緒にいることがご飯を食べるスイッチのようになっているのだろう。
けれど、だからといってボクを食べる理由にはならないはずだ。
「……何度か、関節キスをしたとき……あの時……とても美味しく感じたわ……! 蕩けるような幸せの味……すぐに病みつきになった。それに、さっき忍くんを舐めたら……本当に……美味しいの。忍くんって」
「そ、そんなことは……」
普通はありえない筈だ。人を舐めてもただ少ししょっぱいだけなはず。けれど、それが彼女にとってはとても幸せな味に感じているということなのだろう。
好きすぎて食べたい。というのはそのままの意味なのかもしれない。そうかと思うと今度はボクの胸に抱きついて、上梁さんがしくしくと泣き始めた。
「……私ね。忍くんを食べたらそのまま餓死するの」
「え……上梁さん?」
「もう……こんな本性を……気持ち悪い本性を知られてしまったら……忍くんに嫌われるに決まってるわ。
貴方は私を置いてどこかに行ってしまう……」
「それは……」
正直……面食らってしまっているところはある。
あのもの静かな上梁さんが、こんなにも激情に心を揺さぶらせて、衝動的な行動をするとは思っても見なかったからだ。
「私のこと……嫌いになってもいいわ……。
これからもっと……忍くんに酷いことするから」
何を……?という言葉を紡ごうとした瞬間に、何かを口の中に入れられる。
それが上梁さんの細い指だと認識した時にはより深くまで、手が口に入るほどまで強引に入れられてしまう。
「ぐぅ……が……ぁ……?!」
喉の奥を爪で引っ掻かれて、反射的に嘔吐感で身体が支配され、嗚咽を漏らす。それにも関わらず、上梁さんはそのまま喉に手を入れてくる。
「がぁ……おげぇぇ……」
たまらず、そのまま胃の内容物を吐き出した。
ビチャビチャという音が響き、座っているボクの膝元にぬるい温かさと刺激臭が蔓延した。
すると……ぴちゃぴちゃと、ボクの膝元でさっきのように音がし始めた。
「……ああ……美味しいわ……なんて美味しいの……!」
……。
………………。
ボクはもう一度。吐瀉物をぶちまけた。
あたりを刺激臭が漂う中で上梁さんはぺろぺろという音と共に、息を荒くしてボクを堪能しているようだ。
「はぁ……忍くんに……頭から包まれてる……。
とっても幸せよ……良い気分だわ……」
すると、すっとお腹に冷たいものが当たる。
思わずひゃっと声を出すと慌てた様子で上梁さんが言った。
「あ……ダメよ忍くん……動いたら怪我しちゃう……。
良い子だから、そのままでいてね?」
すると、チョキチョキというハサミの音がしてボクから服が剥ぎ取られていく。夏だから寒くはないのだがこうして彼女に裸を晒していると思うと少し恥ずかしい。
「はぁ……はぁ……上梁さん……その、恥ずかしいです」
「忍くん……意外と筋肉があって、綺麗な身体……。
でも少し浮いた肋骨がとても……美味しそう」
また先ほどのようにぺろぺろと温かい舌が脇腹を這っていく。さすがにくすぐったくて身悶えしてしまう。
「……はぁ……ここ、忍くんの濃い匂いがするわ」
「ひゃ……かみはりさん……だ、だめです……!」
今度はボクの脇の下に鼻を埋めているようだ。
たぶん鼻息かな?やっぱりくすぐったいし、とても恥ずかしくて声を漏らしてしまった。
逃れようと背を向けると、今度はボクの背中に優しくのしかかってくるのがわかった。
後ろ手に縛られた腕の辺りに、頬擦りされる。
「ふふふ……忍くんの二の腕、ふにふにで柔らかくて、とっても触り心地がいいわね。……ちょっとだけ……齧るわね?」
「え……齧る?」
すると、二の腕に猛烈な痛みが走る。
これには悲鳴が抑えられずに、身体が強張ってしまう。
思わず足を動かしてしまって、上梁さんを蹴飛ばしてしまいそうになるのを必死に堪える。
「……ああ……! ごめんなさい……! 痛かったわよね?
血が……ああでも、忍くんの血も甘くて美味しい……」
今度はぺろぺろと痛みが治らない二の腕を一心に舐めはじめたようだ。
……このままでいたら、全身が噛み跡だらけになってしまう。それに、暴れて上梁さんに怪我を負わせてしまいかねない。それだけは避けなければならない。
「上梁さん……その、少しお話しを聞いてもらえますか?」
「……? ……何かしら……私を……責めるの?」
再び、彼女の手によって身体が向き直されてボクは彼女への想いを伝えることにした。