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君を自転車で轢いた後 ※完結済み  作者: じなん
第十一章 上梁さんのご馳走
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第六十八話 メインディッシュ


 頭を優しく撫でているうちに、静かに寝息が上がる。どうやら……安心したのもあって、リラックスして寝てくれたみたい。


 静かに、起こしてしまわないようにそっとその場を離れて以前から準備していたものを引っ張り出してくる。


 手錠と口枷用のタオル、目隠し。



「………………」



 躊躇する。今なら……まだ、間に合う。

諦めれば、私は良い先輩のままでいられる。


 けれど……おそらく、今後こんなチャンスはもう無いかもしれない。


 自分の本性を曝け出してしまえば、もう二度と忍くんは私のことを見てくれなくなるだろう。

そして私を嫌ってどこかに行ってしまうに違いない。

でも自分の本当の気持ちを、隠したままで過ごしていくのは堪え難いことだと思えた。



 忍くんの小さくて柔らかな身体に顔をうずめる。

良い匂いがして、頭がふわふわと麻痺していくのを感じた。そのTシャツの隙間から覗く鎖骨の辺りに、少しだけ……舌を這わせると。


 痺れるほどの快感が自分の中に走った。

ああ……美味しい……もう、どうなっても良いぐらいに。


 ぽたりぽたりと、よだれが口から溢れ出す。

じゅるりと口を拭って、いそいそと準備を始める。



 これから私は、忍くんを裏切ってしまう。

大好きな忍くんを……いや。

心から大好きだから、もう我慢ができない。



_________



 ぴちゃぴちゃという水音が聞こえる。


 それは自分の近くから聞こえてくるようで、目を開けようとするけれど何かで目が塞がれているようだ。


 よくよく身体の感覚が戻ってくると、首元に何か温かいものが這うような感覚があってそれが音の出どころらしい。



(上梁さん?)



 声を出そうとする。けれど何かが口に挟まっているようで声を出すことができない。仕方なくふごふごという声で髪梁さんを呼んでみる。



「……あ……おきたのね……しのぶくん……」



 上梁さんの声が胸元から聞こえてきた。

ということは、さっきからのぴちゃぴちゃという音は彼女が出していたのだろうか?



「忍くん……忍くん。ごめんなさい。先に謝っておくね」



 なんだ?何故彼女はボクに謝っているんだ?

どこか恍惚としたような、聞いたことのない艶のある声に驚きつつ、疑問符を浮かべる。

けれど、それを質問しようにも声が出せない。



「私……私ね……貴方がいないともう駄目になっちゃったの……。貴方の声と匂いと姿と柔らかさと……その味に……虜になってしまって、もう我慢できないの」



 上梁さんと思われる誰かが思いっきりボクを抱きしめて胸に顔をうずめているようだ。何度も何度も鼻息荒く息を吸っては、はふぅ……と息を漏らしている。



「すごいわ……昨日からお風呂に入っていないせいか、いつもよりも匂いがとても濃いの……。

嗅いでるだけで……よだれが止まらなくなる……」



 ぽたり……と水滴のようなものがボクの服を濡らした。


 なんだ……? 何を言っているんだ?

本当にボクの近くにいるのは上梁さんなのか?



「ねえ……ソファに寝ていると……疲れてしまうわ。

私の部屋に行きましょう?ほら……立って……」



 肩を起こされて腕を掴んで暗闇の中を誘導される。腕を動かそうとしたが、後ろ手に何か手錠のようなもので繋がれているようで、どうにもできない。


 しばらくすると、上梁さんの良い匂いのするどこかに連れてこられたようで、そのまま柔らかい……。

ベッドだろうか?に座らされ、そのまま押し倒された。



「……ああ……ああ! すごいわ……!

忍くんが私の部屋にいる! こんなにも無防備な忍くんが……私の部屋のベッドにいるなんて……!

信じられないわ……とても、とても嬉しい……!」



 聞いたこともないような歓喜の声で上梁さんが叫ぶ。好きな人がとても喜んでいる。それ自体は幸せな事のはずなのに、どこか嫌な予感がして身震いした。



「口のタオル……取るわね……大きな声を出しちゃダメよ?」



 優しく髪を撫でられたかと思うと、口を塞いでいたタオルが取り外される。



「ぷは……上梁さん……?どうかしたんですか?」


「……あ……ちょっと待っててね……このタオル……。

とっても美味しそうだから……」



 ……?


 タオルが美味しそう?


 疑問に思ったと同時に、何かじゅるじゅるという異音がした。なんだ?彼女は何をしているんだ?


 しばらくじゅるじゅるという音がしたかと思うと、ぷはぁ……という息の漏れる音がした。



「ご馳走様……やっぱりとっても美味しい……。

でも、これからは遠慮なく直接……味わえるのね……。

ああ……ゾクゾクしてきた……も、もう我慢できない……」



 すると、今度はボクの口に何か柔らかいものが触れて、それが先ほどまでキスした時に触れていた唇だと気づくと、強引に舌が口内に入ってくる。


 舐め回す、という表現では足りないほどに口の中を舌が所狭しと動き回り、歯茎の裏の裏まで余すところなく蹂躙されていく。



「はぁ……はあ……ああ……蕩けるほど、甘いわ……!

こんなに、こんなにも甘いなんて……。

私、幸せすぎておかしくなってしまいそう……!」


「はぁはぁ……上梁さん……なんでこんなことを……?」



 息も絶え絶えになりながらも質問する。

興奮しきった様子が見えないながらも伝わってくるので、きちんとした答えが返ってくるか不安だ。


 すると……上梁さんは答えた。



「私ね……忍くんが好きなの。

好きすぎて……忍くんを……食べちゃいたいの」



 帰ってきた答えは、どうにも理解に苦しむものだった。


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