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君を自転車で轢いた後 ※完結済み  作者: じなん
第十章 ほのかな恋心
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第六十話 かき氷


 何度か図書館での勉強会をしていくうちに、2人とも宿題は早々に終わってしまったのでじゃあ遠慮なく遊びに行こうという話になった。


 ひとまずは、やはり夏らしくプールにでも行こうかと誘ってみた。



『私……その、プールなんて行く自信がなくて……』


「そうですか……じゃあ、どこか別の場所に行きましょう」


『……その……』


「? どうかしましたか?」


『保食くんは……私の水着、見たいの?』


「……! はい、その……見たいです」


『……えっち…………今度一緒に水着買いましょうね』



 というわけで、上梁さんの同意も得られた。

上梁さんと……仲の良い異性と一緒に水着を買いに行くなんて、下心が出てしまうがとても楽しみだ。


 幸い、お金についてはアルバイトのお陰でそんなに困っていないし、今年の夏はとても楽しい。

以前までは……鬱屈とした気分で、ただ時間が過ぎるのを一人待つだけだったのが嘘のようだ。



 いつものように駅前で待ち合わせをすると、同じような時刻に上梁さんと出くわす。

今日の上梁さんはブラウンの長めのスカートに、清潔感のある白のブラウスでシルエットのクッキリした着こなしだ。

前から思っていたけど、上梁さんはお洒落に余念がなくていつもドキドキさせられる。


 ボクのほうは明るめのベージュの夏ニットと、暗色のズボンを履いてきた。一応はお洒落を勉強してるつもりなのだけど、上梁さんの隣に立って格好がつくレベルだといいな。



「保食くん……今日も素敵ね。

……早速水着、買いに行きましょうか?」


「上梁さんこそ、いつも通り綺麗です。

ボク、学校指定以外の水着なんて買うの初めてなので緊張してます」


「あら……じゃあ私が保食くんにピッタリの水着、選んであげないとね……。楽しみだわ」



 早速、歩いてすぐの駅前のショッピングモールに足を運ぶ。上梁さんは長身かつスレンダーな体型で、大人っぽい水着が似合いそうだ。

でも他の男の人に見せたくないなぁなどと思いつつ、上梁さんが選んだ水着を吟味する。



「これと……これかしら。どう?」



 上梁さんが選んだのは、少し落ち着いた色合いの華柄入りのビキニスカートタイプの水着と……。

黒の、パレオタイプのビキニだ。


 当然、ボクとしては黒のビキニを選択する。



「保食くん……かわいい顔してえっちなんだから……。

……ちょっと着替えてくるわね」


「あ……その、ま、待ってますね」



 上梁さんの水着姿が見れる。

そう思うと、そわそわしてとても落ち着いてなんかいられなかった。

たぶん5分も経たない短い間がとても長く感じられたけれど、ようやく試着室のカーテンが開いた。



「どう……かしら?」


「き……綺麗です……上梁さん……」



 上梁さんの選んだ黒のビキニは、たぶんだけどかなり人を選ぶ水着だと思う。

上梁さんのような手足が長くてスラッとした人ではないと、格好がつかない水着で、パレオで露出自体はそこまで大きくないのだが、そのシルエットの細さがとても大人っぽく、まるで海外のセレブのようなスタイリッシュさまである。



「その顔……そうね。これにするわ……」


「上梁さんが素敵すぎて、どきどきしました……」


「保食くんのためのものだから、嬉しいわね……」



 少し待っててね?と言われて一日千秋の思いで待つ。

好きな女性が、ボクのために水着を買ってくれる。

今まで生きてきた中でも上位に入るほどの喜びだ。


 その後は上梁さんに薦められて、丈の長めのサーフパンツと、白いパーカーを買った。

なんでもボクのような体型だと、こんなふうな少しダボっとした水着の方がカッコいいらしい。



 水着の興奮冷めやらぬ状態で、一度おやつでも食べようという話になり喫茶店に入る。

夏らしくかき氷が販売されていたので、ボクはストロベリーを、上梁さんは宇治抹茶を頼んだ。



「うん……このかき氷美味しいわ。

保食くんと食べると……まるで別物みたい」


「そうですね……今日みたいな暑い日は、こういう氷菓が美味しく感じられますね」



 にこにこと笑いあって、かき氷を食べる。

先程のことで喉が乾いていたのか、特別に美味しい。



「保食くんの、ストロベリーも美味しそうね……」


「……よ、よかったら、食べますか?」



 と言って、自分でも驚くほどの勇気を持って、かき氷を掬って上梁さんの方に向ける。

すると、意図を察したのか少し顔を赤らめて、髪をかきあげてパクッと食べてくれた。



「ふふふ……とっても甘いわ……美味しい……」


「ははは……そうですかね?」


「こっちの宇治抹茶も美味しいわよ」



 お返しにとばかりにスプーンが差し出されたので、遠慮気味にパクリと食べる。


 あんこのほのかな甘みと、抹茶の爽やかな苦味がとても美味しい。それに上梁さんに食べさせてもらったからその味もひと塩だ。


 その後も二人で食べさせあっていたら、あっという間にかき氷は無くなってしまった。




「本当はね……水着なんて、着る勇気が出なかったの……」


「そうなんですか?とても似合っていたのに……」



 上梁さんがしみじみと言う。

確かに以前までの痩せ細った上梁さんなら、考えるまでもなく水着なんて買わなかっただろう。

今の体型が戻りつつある状態でも、他の人よりは細く華奢に見えるぐらいなのだから。



「でも……保食くんが見たいって言うなら。

私としては……応えないわけにはいかなくて」


「上梁さん……」



 何よりも嬉しい言葉だ。

ボクにとっての上梁さんのように、上梁さんにとってのボクも大切な存在になっているとしたら、とても嬉しい。



「貴方は……私の恩人だもの。

私にご飯を食べさせてくれて……自信をつけてくれた。

私に出来ることなら、なんだってするわ……」


「そんな……たいしたことじゃないですよ。

上梁さんが自分で頑張ったおかげです」


「……ふふふ、謙虚なのも貴方らしくて、素敵ね」



 にっこりと笑って、楽しそうな上梁さんを見ていると、やはり自分がしてきたことは正しかったんだなと実感できて、心が昂る。


 そして、カフェで他愛のない話を上梁さんとした。

どんなお料理が好きだとか、好きなテレビとか。


 それはまるで世間一般の恋人同士のような会話で、

気づいたらバイトの時間になっていて、

それほどに上梁さんとの会話は楽しいものだった。


 その日は、本当に幸せな気分で終わる……はずだった。


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