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君を自転車で轢いた後 ※完結済み  作者: じなん
第十章 ほのかな恋心
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第五十七話 バイト


 上梁さんの決意から、彼女は目に見えて変わっていった。少しずつではあるものの、食事をどんどんと増やしていき、それに加えて朝のウォーキングなどの軽運動もはじめたようだ。


 日に日に髪の艶が増し、肌も綺麗になっていく彼女に、ボクはどんどんと気持ちを傾けていった。


 そうなると、ボクにも彼女の手助けがしたくなる。

今までよりも栄養価が高く、効率的な食事を彼女と話しあって決めてそれをお弁当にして提供した。


 今までは何となくで食べてきたものも、意識してみるとまた違った発見があって面白い。

少しでも身体の為になるように、けれど少しでもリーズナブルに。


 そんなことを試行錯誤しているのはとても楽しい。

……彼女にひっぱられて、ボクも変わっていくのを感じた。



「バイトがしたい?何か欲しいものがあるのか?」


「はい……その、このところ食費が嵩んでると思ったので……」



 ボクの父親の藤雄さんと話し合う。

藤雄さんは一般的な会社員なので、あまり裕福な生活をしているわけではない。

実際、ボクを養育するのに補助金等はもらっていると聞いたけれど、ボクが私立校に入ったのでそこまで余裕はないはずだ。



「別にそんなことをしなくても……」


「いえ……その、実はボクがやりたいんです。

お金のためというのもあるけど……自分のために」



 そう聞いて藤雄さんは目を少し見開いて、そして大きくうなづいた。



「……いいだろう。しっかりと励みなさい。

けれど、お金は自分のために使うことだ」


「いいんですか?」


「ああ……君も、大きくなったな」



 藤雄さんに肩に手を置かれて、しみじみと言われる。

やはりこの人は本当にいい人だ。


 ボクは親に恵まれた。



 実は私立最上院学園附属高校はバイトが禁止なので、こっそりと個人経営のお店でバイトをすることにした。


 なんでも、そういった生徒の需要に応えるように、学校の生徒の間で共有されているサイトでは付近のバイトの斡旋などがされていたので、見つけることも簡単だったし、面接等も二つ返事の状態だった。



「保食。次は2番に冷やし中華二人前だ」


「はい、今運びますね!」



 ボクがバイトをしているのは中華料理店。

個人経営と言っても近所では評判のお店のようで、放課後の夕食時にはかなり忙しくなる。


 主に配膳などを担当しているが、はじめてのバイトということもあり慣れないことだらけだ。



「よーし、そろそろ客も捌けてきたな。

保食、今日はこの辺にして先に上がってもいいぞ」


「はい。今日もお疲れ様でした」



 バイトの手引きを教えてくれたのはこの榊原という大柄な男性で、なんでもボクと同じ最上院学園附属高校の先輩らしい。一年生の時からこのお店で働いているようで、丁寧にお仕事を教えていただいて助かっている。



「榊原さん。本日もありがとうございました」


「おう。店長には俺からよろしく言っておくよ。

保食みたいな真面目なやつが来てくれてこっちも助かってるからな」



 挨拶をして、自分の家路に戻る。

それほどたいした金額ではないけど、今後も続けていけば自分の努力が報酬として得られると思うと気分が良い。



 家に着くと心地良い疲労で少し眠くなるが、日課になった上梁さんとの電話を欠かすわけにはいかない。

いつものように電話をすると、ワンコールで出てくれた。



「もしもし上梁さん。ご飯中でしたか?」


『いいえ……今から食べるところよ。

……保食くん、ちょっと疲れてない?』


「いえ……最近バイトを始めたので……」


『そうなの……何か欲しいものでもあるのかしら?

無理はしないようにね?』



 上梁さんのためですと言うと温席がましいので言わないが、けれどこうして心配してくれる彼女のためなら今までよりも頑張れる気がした。



 どんどんと良い方向に向かっている……。


 この時のボクは、漠然とそんな風に思っていた。


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