第五十三話 お粥
朝起きて身支度を整えてリビングに降り、自身の今の両親に挨拶をする。
「おはようございます。藤雄さん、桜さん」
「ん。おはよう忍くん。今日も早いね」
「おはよう。……さて今日は何を作るのかしら?」
吉野藤雄さんと、桜さんは今の自分の両親だ。
昔色々あった自分を引き取ってくれた方でとても良くしてくれている。特に桜さんはボクのお料理の師匠なので、頭が上がらない存在だ。
「その……今日はお粥を作りたくて」
「まあ、そんなもの簡単よ。すぐに美味しくできるわ」
そうして桜さんと並んでキッチンに立ち、昼食のご飯を作るのが最近の日課になっていた。
つまらない授業を終えて、ようやく昼休みになる。
急ぎつつも手に持ったお弁当は揺らさないようにいつもの場所に向かう。
(上梁さん、今日の食事も喜んでもらえるといいな)。
あのお味噌汁の一件以来、暗黙の了解として上梁さんにボクが何か食べ物をあげるようになっていた。
ボクとしては、上梁さんがとても喜んで食べてくれるので嬉しいし、誰かの役に立てたことで達成感が得られて楽しみの一つになった。
上梁さんはそれに応えてか、最近ではボクの勉強を見てくれるようになった。
その痩せぎすな身体とどんよりした雰囲気であまり意識したことはないものの、実は上梁さんはボクよりも一学年上の2年生なのだ。
「上梁さん。こんにちわ」
「……保食くん。今日も来てくれてありがとう」
本を閉じてこちらからまた耐熱容器を受け取る。
蓋をあけて、湯気の香りを堪能しているようだ。
「今日はお粥なのね……美味しそう」
「はい。消化にいいものが良いかと思って……」
「保食くんは優しいわね……いただきます」
スプーンを持って、はふはふと口に運ぶ。
するとにっこりと微笑んで、また一口食べた。
「保食くんの優しさの味がする……」
「はは……その。なんだか照れますね……」
「……美味しいわ。今日もとっても」
心底からそう思ってくれているみたいで、一口一口を味わって食べてくれる姿は、こちらとしてもとてもほっこりした気分になる。
暖かな気持ちになりながら、自分もお弁当を食べた。
「……ご馳走様でした。……さて、次は私の番ね」
「あ……はい。お願いします」
ご飯が終わると、次はお勉強を見てもらう。
上梁さんはどうやら勉強が得意なようでその教え方もかなり丁寧でわかりやすく、あまり成績の良くない自分にはありがたい。
すると、すぐに昼休みの終了の予冷が鳴ってしまった。
「あら……もう時間なのね……まだ教えたいのに……」
「そうですね……あと少しってところでした」
「……そうだ、携帯で連絡をとってお家で教えましょう?」
すると、慣れない手つきで携帯を取り出してきた。
そういえばボク達はお互いの連絡先を知らなかったなと思いつつ、どうやって連絡先を交換すればいいのかわからずに悪戦苦闘していると、授業の鐘が鳴った。
「……遅刻になっちゃうわね。急ぎましょ?」
「はい、また連絡しますね」
上梁さんの少しおぼつかない足取りに不安を感じながらも急いで教室に戻った。
ボクははじめて異性の友人の連絡先を手に入れて、その後の授業はあんまり集中できなかった。