第五十一話 サラダ
上梁さんに誘われるままに、その少しふらついた足取りについて行って特別教室棟の4階を歩いていく。
一年生であるボクが来たことがないエリアなので、どこにいくのかはわからない。
すると今度は階段を登って、屋上につながる踊り場に着いた。
「ここなら……大丈夫かな?」
「えっと……ここは?」
「こっちの屋上は……普段は鍵が閉まってるの。
教室棟とは違って……まだフェンスが付いてないから」
つまりは、ほとんどの人が知らない隠れ場のような場所らしい。机や椅子が山積みになっていて、うっすらと埃が積もっている状態からもそれが窺えた。
「保食くん……その、頼みがあるんだけど……」
「は、はい。な……何でしょうか?」
すると、上梁さんはその手に持った小さな袋包みを手渡してきた。
「その……それ、お弁当なんだけど。
……食べてくれないかな?」
「えっ……と?いいんですか?」
「うん……捨てる予定だったから……」
……どうやら、上梁さんは自分のお弁当を食べずトイレに捨てる予定だったらしい。
その道中で少し関わりのあるボクを見つけたので、せっかくなのでお弁当を食べてもらおうとしたのだろう。
「ごめんね……食べ残しの処理みたいなこと……」
「別に大丈夫ですよ……。どうやら量もそこまで無さそうだし」
上梁さんのお弁当は小さなタッパー一つに収まるようなものだった。
というよりそこにはサラダしか入っていないので、これではお腹は全く膨れなさそうだった。
(本当は、上梁さん自身が食べるのがいいのだろうけど……)。
一口、そのサラダを食べてみるが……。
「……? その、すいません上梁さん。
このサラダ、味が無いんですけど……」
「……あっごめんね。私……あんまり調味料使わないから……」
あんまり、というより全く味付けがされていない……。
けれど、食べると言ってしまった以上は仕方ないので、そのままただの野菜の盛り合わせを食べた。
もりもりと食べるボクを見て、上梁さんは少し微笑んだように見えた。
かと思うと少し顔を暗くして、こちらの様子を窺いながら質問をしてきた。
「保食くん……その、聞きにくいことなんだけど……」
「……はい?何でしょうか?」
「もしかして……一緒にご飯食べる人、いないの?」
……まあ、お弁当と思しき袋包みを持ってトイレに向かう姿を見られたら、そう思うのも無理はないだろう。
これにはこちらも静かにうなづくしかない。
「そ……そうなんだ……」
「その、クラスでは食べづらくて……」
二人の間に気まずい沈黙が流れる。
すると、それを打ち破るように上梁さんが口を開いた。
「もし……よかったらなんだけど……
これからの昼休みは……一緒にご飯食べない?」
「え、……その、いいんですか?」
「うん……今日みたいに食欲がない時に……食べてくれると……助かる……から」
ダメかな……?とモジモジと上梁さんが見てくる。その姿はどこかいじらしくて、少し可愛く見えた。
「じゃ、じゃあまた明日も、ここで一緒に食べましょうか?」
「……! うん……そうだね……待ってる」
こうして、ボクに奇妙な友人が出来たのだった。