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君を自転車で轢いた後 ※完結済み  作者: じなん
第九章 日陰の者たち
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第五十一話 サラダ


 上梁(かみはり)さんに誘われるままに、その少しふらついた足取りについて行って特別教室棟の4階を歩いていく。

一年生であるボクが来たことがないエリアなので、どこにいくのかはわからない。


 すると今度は階段を登って、屋上につながる踊り場に着いた。



「ここなら……大丈夫かな?」


「えっと……ここは?」


「こっちの屋上は……普段は鍵が閉まってるの。

教室棟とは違って……まだフェンスが付いてないから」



 つまりは、ほとんどの人が知らない隠れ場のような場所らしい。机や椅子が山積みになっていて、うっすらと埃が積もっている状態からもそれが窺えた。



保食(うけもち)くん……その、頼みがあるんだけど……」


「は、はい。な……何でしょうか?」



 すると、上梁(かみはり)さんはその手に持った小さな袋包みを手渡してきた。



「その……それ、お弁当なんだけど。

……食べてくれないかな?」


「えっ……と?いいんですか?」


「うん……捨てる予定だったから……」



 ……どうやら、上梁(かみはり)さんは自分のお弁当を食べずトイレに捨てる予定だったらしい。

その道中で少し関わりのあるボクを見つけたので、せっかくなのでお弁当を食べてもらおうとしたのだろう。



「ごめんね……食べ残しの処理みたいなこと……」


「別に大丈夫ですよ……。どうやら量もそこまで無さそうだし」



 上梁(かみはり)さんのお弁当は小さなタッパー一つに収まるようなものだった。

というよりそこにはサラダしか入っていないので、これではお腹は全く膨れなさそうだった。



(本当は、上梁(かみはり)さん自身が食べるのがいいのだろうけど……)。



 一口、そのサラダを食べてみるが……。



「……? その、すいません上梁(かみはり)さん。

このサラダ、味が無いんですけど……」


「……あっごめんね。私……あんまり調味料使わないから……」



 あんまり、というより全く味付けがされていない……。

けれど、食べると言ってしまった以上は仕方ないので、そのままただの野菜の盛り合わせを食べた。

もりもりと食べるボクを見て、上梁(かみはり)さんは少し微笑んだように見えた。

かと思うと少し顔を暗くして、こちらの様子を窺いながら質問をしてきた。



保食(うけもち)くん……その、聞きにくいことなんだけど……」


「……はい?何でしょうか?」


「もしかして……一緒にご飯食べる人、いないの?」



 ……まあ、お弁当と思しき袋包みを持ってトイレに向かう姿を見られたら、そう思うのも無理はないだろう。

これにはこちらも静かにうなづくしかない。



「そ……そうなんだ……」


「その、クラスでは食べづらくて……」



 二人の間に気まずい沈黙が流れる。


 すると、それを打ち破るように上梁(かみはり)さんが口を開いた。



「もし……よかったらなんだけど……

これからの昼休みは……一緒にご飯食べない?」


「え、……その、いいんですか?」


「うん……今日みたいに食欲がない時に……食べてくれると……助かる……から」



 ダメかな……?とモジモジと上梁(かみはり)さんが見てくる。その姿はどこかいじらしくて、少し可愛く見えた。



「じゃ、じゃあまた明日も、ここで一緒に食べましょうか?」


「……! うん……そうだね……待ってる」



 こうして、ボクに奇妙な友人が出来たのだった。


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