第五十話 みすぼらしい人
「おそらくは栄養失調による貧血ね」
養護教諭の先生が簡潔に症状について断じた。それを聞いてボクの横に座っている女子生徒は乾いた苦笑いを浮かべた。
「上梁さん。ちなみにだけど今日はきちんと朝ごはんは食べられたの?」
「……急いでたので……」
「やっぱり食べていないのね?」
先生はハア……と溜息をついている。
会話から察するに、この上梁という人は何度も保健室に訪れているようだ。
「うけもち……でいいのかしら?変わった名前ね。保食くん。驚かせてしまって悪いわね。
この上梁さんは以前からよく倒れてる子なの」
「ええと……そうなんですか?」
「ええ……ちょっと体調が安定しないことが多くてね」
言われて、上梁さんを見てみる。
上梁さんは背の高さだけなら170cmぐらいはありそうな長身の人だ。しかしその風貌はかなり特徴的だ。まずかなり頬がこけてしまっている。
唇はかさついていて、肌もどこか荒れ気味だ。
制服から覗く手足もガリガリで、まるで骨に皮を貼り付けたようだ。
肩ほどの黒い髪の毛にはところどころ白髪が混じっていて、艶がなく少しボサついていた。
そして、小柄なボクでも肩を貸して三階から一階の保健室まで運ぶことができるほど体重が軽い。
「ご迷惑をおかけして……すいません……」
「そんな、元はと言えばボクがぶつかったのが悪いので……」
上梁さんが頭を下げてくる。
元々の発端は自分にあるので、少々心苦しかった。
「……上梁さん。貴女はやっぱりちょっと痩せすぎよ。とりあえずは保健室のベットで休んで、今日は早退しなさい」
「でも……授業に出ないと……!」
「その状態で出ても頭に入っていかないわ。
先生の言うことを聞いて今日はゆっくり休んで、できるだけ栄養のあるものを食べることね」
はい……と納得しない様子で上梁さんがうなづく。その俯いた姿がどうにも小さく見えて、どこか同情してしまった。
その後は保健室を出た後に、すっかりとジュースの件を忘れてしまっていて、小田巻くん達には使えないとお叱りの言葉を受けた。
それから数日経った後、ボクはすっかり一人ぼっちになっていた。
小田巻くん達はボクのことを見限ったようで、それに倣ったクラスメイトによってクラスの中での立ち位置が無くなってしまったのだ。
(トイレでご飯食べようかな……)。
食堂や教室で一人で食べているところを見られるのは耐えられない。なら人目のない場所で食べるしかないだろう。
なるべく見つからない場所がいいなと、美術室などの特別教室がある棟にきて、そのままビクビクしながら周囲を観察する。
すると、見覚えのある人影を見つけてしまった。
(あ……上梁さんだ……)。
少し足取りがおぼつかないながらも、上梁さんがこちらに向かってきているのが見えてしまった。
手元には何か布包みがあるので、これはもしや……?
すると固まっているこちらに気づいたのか、少し気まずそうな顔をしたあとに何かを思いついたらしく、こちらに近づいてきた。
「あー……その……保食くん……だよね?」
「は……はい。その……」
「ちょっと……一緒にお昼食べない……?」
上梁さんの意外な提案に、ボクは思わず頷いてしまった。