第四十八話 柳城愛美
少なからず衝撃を受けた。
柳城が実は、自分のことを男だと認識していると。
「……気持ち悪いでしょ?
がんばってしゃべり方を女の子みたいにして、好きでもないのにかわいい服を着て、言われるがままに髪を伸ばして。
それでも自分は男なんだって、諦めきれないんだ」
正直、柳城の言うことが信じられない気持ちはある。
柳城はどこからどう見ても可愛らしい女の子なのだ。
突然そんなことを言われても、答えに窮する。
けれど、なんとなく柳城の言葉なら信じてもいい気がした。
「……そうか。大変だったんだな」
どことなく他人事ではあるものの。
自分にはかけられる言葉がそれしか見当たらなかった。
「ぷ、くくくく…… あっははははははは!」
すると耐えきれないと言った様子で柳城が笑い出す。
そしてそのまま深呼吸した。
「ねえ祐介、ぼくを見てよ」
背中に張り付いていた柳城が起き上がり、仰向けになった自分の上に馬乗りになる。俺はそのまま薄暗がりで柳城を見上げた。髪の毛が短くなったものの、相変わらず柳城は柳城で、柳城以外の何者でもなかった。
「……うん。やっぱりそうだ。
君の瞳にはぼくがきちんと写っている」
「お前が?……当たり前じゃないか?」
「普通はそうじゃないよ。
かわいい女の子を見れば、その瞳には欲望が写る。
ぼくみたいな人間を見ると、嫌悪感が写るもの」
柳城の言うことはさっぱりわからないが……
つまるところ、柳城は俺に何か他の人にはないものを見出したのだろう。
すると、柳城は顔をさらに近づけて、もはや鼻と鼻がくっつくほどの距離になる。
「ねえ祐介、今は何が見える?」
「……お前しか、見えないが?」
「……そうだよね。わたししか見えてないよね」
「祐介の中には、わたしだけがいればいい」
すると、そのまま顔を両手でしっかりと押さえつけたまま、深くキスを交わされる。
それは貪るようで、自分の歯形を残すような激しいものだった。
その間にも、柳城は瞬きもしないでこちらを見つめてくる。
まるで、そこにあるものを確かめるように。
突然のことで頭が真っ白になりつつも、手足はなぜか微動だにせずにされるがままだ。
「ぷはぁ……はぁ……これ、初めてしたけど、すごいね」
「その、いきなりこういうことをされると、困るんだが」
「……こんなのは困るうちに入らないくらいのことをこれからするんだ。観念してね」
すると、そのまま着ていたスウェットを脱ぎだしていく。
下着は着けていないようで、生まれたままの身体で再びこちらに馬乗りになる。
「……正直な話なんだけど、ぼくにも自分が何なのか最近わからないんだ」
「……どういうことだ?」
「祐介のことを想うと、胸が苦しくなるし、側にいると幸せな気分になるんだ。……もうぼくたちは友達じゃいられないのかな?」
「……だったらこの行為をやめてほしいんだが?」
「それは駄目だ。祐介はわたしのものにするってもう決めたからね」
「お前思った以上にめんどくさいな……」
そうして、手探りでこちらの衣服に手をかけはじめる。
嫌なら抵抗すればいいのだが……身体が動かないのは、
柳城のことが自分の感情よりも心の奥底に深く刻まれてしまっているらしい。
「はいばんざーい。……うん男の子の身体だね」
「そうだろうな……お前は女の子の身体だ」
ついに裸になって、柳城と見つめ合う。
俺はどうしたって男だし、柳城はどうしたって女だ。
「ねえ……さっきまでの話、全部ウソって言ったら、信じてくれる?」
「……まあ、柳城ならそういうこともあるだろう」
「本当に、なんでも受け入れてくれるんだね」
「なんでもってわけじゃなく柳城だから……」
言いかけたところで、口を人差し指で止められる。
すると悪戯っぽく微笑んでこう言った。
「愛美。今度からは愛美って呼んでよ。
美しい愛だなんて、大っ嫌いな名前だけど。
たぶん祐介に呼ばれたら、蕩けそうになるから」
それが、最後の確認作業だと思えた。
俺が、柳城のことをどう思っているのかを決める。
俺の孤独を埋めてくれた彼女をどう思っているのか。
彼女が望むように友人としてずっと共にいるか。
俺は……この目の前の友人を、失いたくないと思った。
「……愛美」
そう声に出した瞬間に、勢いよく抱きつかれ
そのまま口づけを交わされた。