第四話 家族
父親が俺をギリギリと睨みながら話し始める。
その目は普段の温厚で野球好きな姿は形を潜めて、今まで見たことがないほどに怒りに震えていた。
「お前が自転車で轢いてしまった人……凛堂四葉さんというんだがな。この地域では有名な名士の凛堂さんの一人娘なんだ」
「凛堂……?」
聞いたことがある名前だ。
確かあれは入学式の時だっただろうか?
彼女、凛堂四葉さんは生徒会長として俺たち新入生へ向けた在校生挨拶をしていた。
「今、凛堂さんは手術を受けているが……はっきり言ってかなり容体が悪いそうだ。このままだと彼女は亡くなってしまうかもしれない」
「そんな……!」
あの怪我はやはり命に関わるほどの大怪我だったのだ。
自分にはどうしようもできないとはわかっていながらも、それでも居ても立っても居られずに身体を動かそうとするが、頭の痛みが激しくて動くことができない。
「京治、仮に……仮にだ。このまま無事に助かったとしても彼女には後遺症が残る可能性が高いそうだ。そうなると……お前は、彼女の人生を台無しにした責任を取る必要がある」
「責任……」
自転車事故で相手を死に至らしめた時の罪がどうなるかはわからない。それに俺にはどんな後遺症が残ってしまうかも、どう責任を取ればいいのかもわからなかった。
「どちらにせよお前には多額の……それこそ俺たち家族が一生かかっても払えないような慰謝料が請求されるだろう……そうなったら、俺たちはおしまいだ……」
父親が苦虫を噛み潰したかのような顔をして俺をギロリと見てくる。俺が自分の築いた全てのもの……家族や財産を台無しにしていると思っているのだろう。
俺はどうにか自分の非を弁解するために必死で頭を回転させるものの、全く言葉が出ずに、言い訳すら思いつかなかった。
「京治……! お前のせいで俺たちは……!」
今にも殴りかかりそうな父を、母が慌てて制止した。
その時の俺は血の気が引いていくのが自分でもかんじられて、そして父親からの侮蔑の言葉を何度も頭の中で繰り返した。
「お前なんて……! 俺の息子じゃない……!」
待ってくれよ父さん、俺はこれまで父さんの言う通りに頑張ってきたんだ、見捨てないでくれ……!
そんな言葉すらも自分には言う資格が無いように思えて、ただ押し黙って泣くことしかできなかった。