第四十二話 祐介の家
再びご立腹の状態になってしまった柳城に指示されて、急いで食事を作る。もちろん柳城が気に入っている唐揚げだ。
「なあ柳城、とりあえず今日は俺の家に泊まる……のか?」
「うん。悪いけどしばらくは祐介の家に置いてもらえると嬉しいな」
キッチンからリビングに声をかけると、少しも悪びれない様子で返答される。……これは、どうやら長期戦を想定したほうがいいかもしれない。
「あー……じゃあ、着替えとかはどうするつもりだ?」
「昨日の旅行のやつと、祐介の古着を貸してくれたらいいよ。それと……」
すると、リビングから何かを投げつけられる。
可愛らしい装飾が施されているそれは、どうやら財布のようだった。
「……これは?」
「家賃。カード番号は後で教えるよ。
一応それなりに貯めてあるつもりだから」
いや、それはこちらが困ってしまう……。
と思い、拾い上げて丁寧に保管した。
そうしてしばらく経つと、鶏もも肉とにんじんの唐揚げが揚がったので、パックのご飯と共に出来合いのサラダをつけて食卓に出した。
「……やっぱり祐介の唐揚げが1番って感じがするね」
「揚げたてだからな。野菜もきちんと食べろよ」
わかってるって。と言いつつむしゃむしゃと珍しく旺盛な食欲を見せている。
やっぱり色々とあったのか、身体が栄養を欲しているのだろう。喉につかえないように冷やしたペットボトルの麦茶を淹れてやりながら、その様子を場違いにも微笑ましく見守った。
洗い物をしつつ、今後やるべきことについて考えを巡らせる。
とりあえずは、柳城のご両親を安心させることが先決だろう。どうにかして柳城から電話番号を聞き出して、それで連絡を取る必要がある。
そのうえで、蘭子さんと柳城の間にある溝を埋めて、柳城が一刻も早く家に帰れるようにするのが最終目標だ。
「祐介ー。一緒に主人公の外見設定しようよ。
なんか色々と髪型とかあって迷いそうだし」
「あー……そこは別にゲーム本編には影響がないから適当でいいぞ。好きな感じで」
「んー……?じゃあこれにしてみようかな。
……うん。ちょっと祐介っぽいかも」
今のところ柳城にはゲームで遊んでもらっている。
というより、やはりというべきか柳城はゲームをこれまでやったことがないらしい。
どうやら親に買うのを許されなかったようで。
「あれ……?これどうやって後ろ向くんだろ?
これ、コントローラーを傾けるだけじゃ後ろ向けないんだけど?!」
「ちょっと待ってくれ。今洗い物終わるから……」
どうやらゲームも現状も、前途は多難のようだ。
「どれどれ……いや、これキャラの名前、俺じゃないか」
「うん、『ゆうすけ』。かっこいいでしょ。
少し生意気そうな感じが結構似てると思うよ」
「な、生意気……まあ、良いか。
視点変更だな。それはこのアナログパットを動かして」
「これ?なんか指が足りなくなりそうだなぁ……」
「そのうち慣れる。ほら、的が出てきたから撃ってみろ」
「全然当たんないんだけど?!」
「……奥行きと射程に慣れるしかないな」
そんな感じでワーキャー言いながらゲームをしていると、まるでただ遊びに来ているだけのようだ。
実際はこの間にも心配させている人がいるので、心苦しいことこのうえないのだが。
一通りチュートリアルを終えたので、満を辞して柳城に本題を切り出す。
「……なあ、柳城。悪いんだが……蘭子さんの連絡先、
教えてくれないか?」
「……趣味悪い」
「茶化すなよ。……頼む。
あの人は今でもお前を心配してるだろうから」
「……じゃあ、後でお風呂場に来てよ。
頼みたいことがあるから」
また背中を流すように言われるのだろうか?
とりあえずは是が非でも抑えておきたい情報なので、躊躇なく了承する。
受け取った携帯を見るとやはりというべきか、蘭子さんからの連絡通知が山のように積もっていた。
素早くその番号を自分の携帯に移して、まずは第一目標をクリアした達成感を覚えた。
「それで?俺はお風呂場で何をすればいいんだ?」
「うん簡単なことなんだけど」
「髪、バッサリ切ってくれるかな?」