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君を自転車で轢いた後 ※完結済み  作者: じなん
第七章 遅めの反抗期
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第四十一話 家出


 きっかり3時間、外で時間を潰した後に家に戻る。


 ……柳城は大丈夫なのだろうか?

その意思を汲んで一人にしたのだが、あの危うく儚げな雰囲気は個人的には寄り添ってあげたかった。


 自分の部屋の前で大きく息を吸って、そのまま鍵を開ける。


 リビングまで戻ると、先ほどと同じように柳城が項垂れている状態で待っていた。

テーブルに出来た水たまりは、きっともう乾いてしまった髪を伝った水滴だけではないだろう。



「ただいま、柳城。ホットミルクでも淹れるから。

少し待っててくれるか?」


「あ……いつの間に帰ってたんだ。

うん。ホットミルク好きだよ。良い子にして待ってる」



 電子レンジでホットミルクを温めている間に、柳城の側に寄ってやり、おもむろにその手を握る。


 今の自分に出来ることは、本当にそれだけだ。

……なんて自分は無力でちっぽけなんだろうか。


 すると柳城がこちらを見つめて、手を握り返した。



「……あはは、すごいね。祐介に手を握られたら……。

さっきまであんなに落ち込んでたのに、少し気分が楽になったよ」


「そうか?他にも俺に出来ることがあれば、

なんでも言ってくれていいからな」


「うん……じゃあ……ずっと、側にいてくれる?」


「わかった。それぐらいお安いごようだ」


「言ったな〜。安請け合いしちゃって。

今に後悔しても知らないよ〜」



 と、そのままこちらの手を引いて、抱きしめられた。

抵抗することもなく、こちらも緩く抱きしめ返す。



 ホットミルクは、温め直すことになった。




 ようやく落ち着いた柳城に、あの後の顛末について話を聞いた。



「家出……してきたのか?」


「うん。わたし悪い子でしょ。

だってお母さんがわたしの話聞いてくれないんだもん」



 そう簡単に言ってのけたが、やはり状況はとても悪いようだ。



「……俺の家にいることは?」


「知らないよ。今頃慌ててそこらへんを探してるんじゃない?」



 ふんっと拗ねたように吐き捨てる。

……少なくとも、柳城のご両親に連絡を取る必要がありそうだ。



「……わかった。俺がなんとかするから、

携帯を貸してくれるか?」


「いやだ」


「……頼むよ。なんでもするからさ」


「……じゃあ今日は添い寝してね。絶対だよ」



 ……どうやら家に帰る気などさらさらなく、このまま俺の家に泊まる気らしい。



「わかった……。携帯借りるぞ」



 ロックを解除されて投げ渡されたそれをキャッチして、そのまま連絡先を確認する。そこには俺とご両親、おそらくは祖父母の連絡しかないようで、簡単に連絡を取ることが出来た。


 深呼吸をして、これからの通話への覚悟を決めてから連絡をすると、ワンコールのうちに蘭子さんが出た。



「もしもし、こちらは……」


『愛美?!愛美なの?!あなたどこいっちゃったのよ!

……探しても探しても見つからないの、どうか帰って来て……お願いだから……』


「……申し訳ありません。今、愛美さんは電話に出られない状態でして、代わりに私が電話にでています」



 するとこちらの声に気づいたのか、少し深呼吸の音が聞こえた。



『その……どちら様でしょうか?』


「……浅海です。愛美さんの友人の浅海祐介です」



 再び、電話の奥で息を呑んだ音が聞こえた。

今度はかなりの敵意を込めた低い声になる。



『……愛美をどうしたの?何が目的なのか言いなさい』


「……愛美さんは現在、とても落ち込んでいる状態です。

おそらくは貴女との喧嘩が原因でしょう。

私の家に訪問されたので、こちらの方で介抱いたしました」



 それを聞いたのか少しホッとしたような、けれど依然として敵意は隠さない様子で返答される。



『それじゃあ、愛美と代わってちょうだい』


「わかりました。本人に聞いてみます。


……柳城。蘭子さんが代わってほしいって」



 案の定というか、柳城は首を振って代わろうとしない。

仕方なくそのまま電話口に出る。



「……すいません。どうやら愛美さんは今、

とても電話に出られる状態じゃないみたいです」


『そんな……じゃあ、私から行くわ

住所を教えてちょうだい』


「わかりました。住所は……」



 すると、柳城に横から電話をひったくられる。

そのまま電話口に口を近づけたかと思うと、これでもかという大声で電話に叫んだ。



「しばらくは祐介の家にいるからね!

もう二度とお母さんのところに帰ってやらないんだから!」



 柳城はそのまま、ふん!っと電話を切ってしまった。

それを見て、自分はさすがに困り果てて天を仰ぐしかなかった。


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