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君を自転車で轢いた後 ※完結済み  作者: じなん
第七章 遅めの反抗期
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第四十話 親子喧嘩


 夕立の降るジメジメとした夕方。

ただならぬ様子の柳城を一旦部屋に入れて、いつかのようにお茶を淹れる。


 本当はホットミルクを淹れて、温かいシャワーでも浴びてもらったほうがよさそうだったが、今の状況ではそれは難しいように思えた。



「柳城、とりあえず身体を温めたほうがいい。

お前が嫌じゃないならシャワーも使えばいいから」


「うん……ありがと。ちょっとシャワー借りるね」



 こちらの裾を掴む柳城を連れて、そのまま風呂場へと案内する。



「……一人で、入れそうか?」


「……うん。今は一人になりたい気分かも。

ほんとにありがとね。こんなに良くしてもらって」



 どう見てもボロボロの柳城を一人にするのは心配だったが、本人の意思を尊重すべきだと思った。


 その間に自分の少ない服を片っ端から取り出して、どうにか柳城でも着れそうなスウェットを見つけた。

脱衣所の前でそれを置いておこうとする。


「柳城。タオルと……俺の服で悪いけど、着替えを用意したから。たぶん腰回りとかは調整できると……」



 すると脱衣所の扉がガラッといきなり開く。

当然だが、柳城は何も着ていない全裸の状態だ。



「ッッ?!ご、ごめん。服は、ここに置いておくから、

きちんと身体を拭いておけよ」



 一瞬だが見えてしまった柳城の一糸纏わぬ姿に動揺しつつも、その場を急いで退散する。


 すると小声だが、はっきりとした声が聞こえた。



「……ほらね。……祐介は大丈夫だもん」




 先ほどの光景をフラッシュバックしながら、ドキドキとした鼓動を必死で抑えて、なるべく温くなるようにお茶を注ぐ。



(さ、さっきのはどういう意図だったんだ……?)



 少しだけだが、見えてしまった柳城の身体が脳裏を離れない。白く艶のある肌。小さな顔立ち、緩やかなウェーブの茶色みがかった髪。女性らしい柔らかな肢体。

小さな身長と、少し不釣り合いな大きな乳房

そして、自分にはない部分。



(柳城は……母親と喧嘩して、自暴自棄になっているのかもしれない)。



 そうなると、彼女の気分を落ち着けるまでは、

それなりの時間がかかりそうだなと感じた。

それにそもそも喧嘩の原因が俺にあるので、柳城の家に連絡するのは少し待ったほうがいいかもしれない。



「お茶、淹れてくれたんだね。ありがとう」


「!……あ、ああ……一応温めにしてあるから、ゆっくり飲めよ」



 いつの間にか近くまで来ていた柳城にお茶を手渡し、リビングの椅子に向かい合って座った。

髪は生乾きでボサボサとしていて、普段の柳城とは全く印象が異なり、弱々しく見えた。



「……何があったか、聞かないの?」


「いや……今は良いかな。……柳城が落ち着くまで、

俺ができることがあれば言ってくれると助かる」


「そうだなぁ……そうだ。何か美味しいご飯が食べたいな。

……うん、祐介の手作りが食べたい」


「わかった……けど、そうなると材料を買いに行かないと行けない。……一人にしても良いか?」



 柳城はうーんと考え込んだ後にわざとらしくにへらぁと笑った。



「うん。今は一人で泣きたい気分かも。

お買い物もゆっくりでいいから。

……その代わりに、唐揚げも作ってくれると嬉しいかな」


「わかった。たぶん3時間ぐらいかかる。

……家の中のものは好きに使って構わない」



 いってら〜と無理しておどけてみせる柳城を心配しながらも、今の自分にできることはそれぐらいなので、急いで傘を差して外に出た。



 夕立は、土砂降りになって随分と長い間降り注いでいた。


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