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君を自転車で轢いた後 ※完結済み  作者: じなん
第七章 遅めの反抗期
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第三十九話 旅行の後始末


 アスファルトからの熱気が茹だるような夏の昼下がりのカフェの中で、俺と柳城は柳城の母親、蘭子さんを相手にして、どうしようもなく俯き気味になっていた。



「それで?つまりは愛美ちゃんが常々話してた浅海さんはこの男の子ってことでいいかしら?」


「うん……そうなの」


「そのうえ、あまつさえ夏休みの初日から一泊二日の北海旅行に行ってきたってこと?」


「そ、そうだよ」


「……愛美?一体何を考えているのかしら?」



 蘭子がテーブルに置いた人差し指が規則正しくトントントンと音を奏でる。

どうやら相当に怒っているようだ。

柳城もこれには言葉もなく、あぅぅ……とうめき声を発しているばかりだ。



「そもそも!……そもそも私はこの旅行には反対だったのよ。愛美、あなたがどうしてもって言うから渋々許可を出したし、どういうわけだかお金がかからないから変だと思っていたけど……まさかこんな、男と一緒に寝泊まりするなんて……信じられないわ」


「そ、それは……祐介は友達だから、大丈夫だし……」


「友達?友達だから男女が同じ部屋で泊まっても問題無いって言ってるの?……駄目に決まってるじゃない。私はてっきり、浅海という女の子のお友達がいるものだとばかり思っていたのよ。


……愛美、もしかしてだけど……」



 すると蘭子は一転して怒った様子から、涙を堪えたような悲しげな表情になる。



「脅されてる、とかじゃないわよね?」



 それを聞いて、今度は柳城がみるみるうちに顔を真っ赤に染めて、怒気を孕んだ声を出した。



「祐介は、そんな人じゃない!

祐介のことを知らないくせに、悪く言わないで!」



 すると再び怒りが込み上げたようで、蘭子が柳城の頬を張った。パシンッという軽い音がカフェの店内に響く。



「愛美、親に向かってなんなのその言い草は?!

絶対この男に騙されてるだけなんだから!

……良いわ、ここで話しても埒が開かないだろうし、

今日は帰ったらとことんまで話し合いしましょう」



 だが、柳城もその怒りは冷めやらないようで、毅然として自分の母親を睨みつけている。



「良いよ。祐介のことを馬鹿にされたんだもん。

こっちだって絶対引かないんだから」



 バチバチと火花を散らす二人を目の当たりにしては、自分はどうにもできそうにない。

せめて釈明を……と思ったものの、考えてみると、今回の旅行の一件は俺が発端でしでかしたことばかりなので、説明すればするほど無責任だと非難されるべきだ。



「浅海くん。あなたとも後日、ゆっくりと話し合っていきますからね。覚悟しておいてください」


「……はい。僕なりにきちんと説明しますので、

そのときはどうかよろしくお願いします」



 蘭子は帰るわよ。と柳城の腕を掴んでズンズンと脚を進めていき、そのまま会計に叩きつけるように代金を支払っていった。


 これは……かなり大変なことになったようだ。

身から出た錆とはいえ、つくづくゆっくり休めそうにはなかった。




 外の蝉が喧しく鳴き声を立てる中、カフェから出て、学園行きのバスに乗り思いに耽る。

思えば、柳城があそこまで発奮してるのは初めてみた。

どうやら俺のことを悪く言われたことに腹を立てたようだが、こちらとしては嬉しく思う反面、今回の件は全体的に俺の……いや、浅海家が原因なのでどうにも分が悪いだろう。


 そのうち、自分にも弁明する機会が与えられるようだし、今回の事情を包み隠さず話した上で、何処かしらに嘘を少し交えて誤魔化す必要があるなと感じた。



 家にほど近いバス亭で降りて、1日ぶりの自分の部屋で数時間椅子に座って考え込む。

その間にも、今回の件についてどうすれば綺麗に収まるかをぐるぐると思い詰めていた。


 すると、いつの間にかお腹が空いていたようで、控えめに腹の虫が鳴った。


 ……考えることは多いが、とりあえずは長期で旅行に行く予定だったため、ほとんど備蓄がない冷蔵庫の中身を補充する必要があるだろう。


 そう思い立って、玄関の鍵を開けると……。



「さっきぶり……だね。祐介。ちょっと、屋根を貸してくれるかな……」



 雨に降られたのか服を濡らし、今朝よりも泣き腫らして、

それに頬を赤く染めた柳城が、そこに立っていた。


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