第三話 最悪の目覚め
ハッとして意識を取り戻す。目の前には知らない天井があって、周囲の臭いは何故だかとても薬品臭い。
まるで走馬灯のように夕方の出来事を思い出していた。
俺が日が暮れた学校帰りに、1人の少女を自転車で轢いてしまった瞬間の光景が脳裏に焼き付いて離れない。
あれは悪い夢だったんじゃないかと思いたかったが……。
「京治! 良かったわ、意識を取り戻したのね……」
母親が俺を見て安堵の声を上げる。改めて周囲を確認すると、白いカーテンに天井があって、どうやらここは病院のようだった。
つまりは俺は救急車でここに運ばれたのか?
……待て、あの少女はどうなったんだ?!
「か、あさん……あの子、は?」
声が掠れて上手く話すことができない。それでも必死になってあの血だらけの少女の安否を尋ねる。
「京治! まだ安静にしていないとダメよ!
凛堂さんなら、あなたと同じでこの病院で治療を受けている最中だから……」
治療を受けている。つまりはまだ死んでしまったわけではないということ。
それを聞いて少しだけ肩の荷が降りたような気がするが、それでもあの時に見た怪我の程度はどう見ても重いものだった。
頭から血を流して、右の手足があらぬ方向に曲がったあの姿は。
「う……っぷぁ……!」
脳裏にあの瞬間の記憶がフラッシュバックして気持ちが悪くなり、喉へと込み上げてくるものがある。
慌ててお医者さんを呼ぼうとする母親をどうにか手で制止して、息を荒くして天を見上げた。
俺があの少女をあそこまで傷つけたのだ。
俺が事故を起こさなければこんなことにはならなかったんだ。
どうしようもない悪寒が身体を支配して、背中から汗が滲み出してくる。
どんどんと息が荒くなるのを感じて、頭の鈍痛がますます酷くなった。
「……目覚めたのか京治……。
少し話したいことがあるんだが、いいか?」
チラリと声の方に目を向けると、そこには神妙な顔をした父親の姿があった。俺のことを今まで見たこともないような冷たい目で見ている。
「お前……お前、何ていうことをしてくれたんだ?
お前のせいで……俺たちは、もう生きていけないかもしれないんだぞ……!」
その目は明らかに憎悪に塗れていた。
まるで俺の存在そのものを否定するかのように。