第十九話 光に溢れた道
私はこれまで、苦労というものをしたことがない。
幼い頃からやろうと思えば人並み以上にはできた。
親が熱心だったので習い事はたくさんこなしたがどれも特に努力するまでもなくできてしまうので、大抵のことは極めるまでに飽きてしまった。
勉強だってそうだ。授業を聞いていれば大抵の問題は解けた。正直な話、テスト前に必死になって勉強する友人の気持ちがわからなかった。
運動もそう、身体を教わった通りに動かせばほとんど上手くいく。褒められても態度では喜んでおくがそれだけだ。
そのうえ、私は容姿にも恵まれていたらしい。
自分ではわからないしあまり好きではない母に似ているからそこまで気に入ってないのだが。
……何度も告白されると流石に自信もつく。
そして、私は生まれにも恵まれた。
凛堂の家はそもそもが名家だったが父が大手財閥系である浅海家から嫁を娶ったことによりさらに盤石にその基盤を固めていた。つまるところ、実際何もしなくとも遊んで暮らせるほどの人生が生まれた時には決まっていたのだ。
とにかく、私の人生は光に溢れていた。
けれども、それは全てが自分の努力によるものではなく天賦の才であるかのように思えた。
自分で掴んだものではない、誰かに与えられたものに。
誰かに告白されると私は決まってこう聞く。
どうして私を好きになったの?
ある格好の良い人は言った。
君のいつも元気でほんわかした雰囲気が好きなんだ
ときどき見せるその物憂げな横顔もまた、どこかギャップがあって美しい。
これからは俺が、君のことを笑顔にして見せると。
私はその告白を断った。
この人は私の顔がぐちゃぐちゃになったらどうするつもりなのだろう。
ある頭のいい人は言った。
君のそのいつもひたむきに授業に取り組む姿勢が好きなんだ。
テストで毎回上位に入っているのは、ひとえにその努力が花開いた結果なんだ。
そんな真面目な性格が僕は好きで、一緒に上を目指して行きたいと
私はその告白を断った。
この人は私がテスト前に何をしているかを知らない。
まあ、お菓子を食べて寛いでいるだけなのだけど。
ある恰幅のいい男は言った。
君の家はまだまだ発展途上にあるのだ。
私の力があれば、より高みに行くことができる。
それに、私ならば君が欲しいものをなんだって買ってやることができる。
悪いことは言わない、私についてきなさいと
私はその告白を断った。
この人は私じゃなくて凛堂の娘が好きなのだと。
凛堂の家が潰れでもしたら、どうするつもりなのだろう。
顔が好きだ 身体が好きだ 頭脳が好きだ
性格が好きだ 生まれが好きだ 全部が好きだ
どれもこれもつまらない理由だった。
人が人を好きになるということは、
こんなにもつまらないことなのだろうか?
私には、人が恋をする理由がわからなかった。