第十八話 暗がりの中で
「おやすみなさい。四葉」
諸々の支度が済んだところで今日はそのまま寝ることになった。もちろん自分は寝袋で寝る予定だ。
すると……服を掴まれてそのまま引き寄せられる。
「どうかしたの……?」
顔を寄せるとそのまま頬に手を添えられる。
……これはいつものパターンで、顔を見つめあう合図だ。
(……今日の四葉さん。どこか……しっとりとしてるな。
お風呂に入った後だからかな……?)
そんなことを考えながらだんだんと心臓の鼓動が早くなっていく。すると、案の定キスをするためにゆっくりと顔を近づけられた。
だけれど、今回はそれだけでは無くて。
一瞬驚いたけれども、その後はされるがまま口の中を四葉さんに蹂躙される。そのまましばらく堪能されたかと思うと、息が切れたのか名残惜しげに口を離した。
「ぷはっ……はぁはぁ……よ、四葉さん……?」
四葉さんも同じように息を切らしていて……。
紅潮した頬とさっきまで二人の間を繋いでいた口には、雫の橋がかかっていた。けれども、首の後ろに回した左手は、決して逃さないように必死になっている様子で……もどかしい。
その様子は、いつもの元気な四葉さんと違って……どこか大人の雰囲気で色っぽく感じた。そして……今更ながら、四葉さんがこれから何を望んでいるかを察してしまう。
(う……あぁ……まずい。このままだと……四葉さんと、)
再び、深くキスをしようとする四葉さんの魅力になんとか抗いながら、しっかりと肩を掴んで制止する。
そして、人差し指を彼女の唇に当てた。
「……駄目だよ? 四葉さん。
骨折してる間はそういうことは禁止ってお医者さんに言われてる……でしょ?」
するとうるうると上目遣いしておねだりをしているようだ。正直、一人の男としてはとても苦しい。
諸々の事情などを全てかなぐり捨てて、四葉さんに溺れたくなるほどに。
「……そんな目をしても、駄目です。
四葉さんの怪我を早く治すためだから、今日は我慢してください。そ、それに……準備だってできてないし……」
……ようやく観念したのか今度は先ほどまでの色気がウソのように、ぷくーっと頬を膨らませて、拗ねてベッドの毛布にくるまってしまった。
悪いことをしたなぁ……と思いつつ。
男としては……頑張ったな。と自分を褒めた。
紆余曲折ありながらも寝袋をベッドの傍らに敷いて、そのまま就寝しようとする。
四葉さんには同じベッドで寝ようと誘われたのだが、どう考えてもどちらも耐えられそうになかったので断った。
すーすーという寝息が聞こえるあたり、誕生日ではしゃぎ疲れたのかもしれない。
明日の始業式は休むことにしたしゆっくりと眠ろうかな……なんてことを考えながら、寝袋に寝転がると……。
ふとベッドの下に、何かダンボールを見つけた。
(これは……? 四葉さんの私物……なのかな?)
けれど、今までそのダンボールが使われた形跡はない。
少し埃をかぶっているあたり、それは明白だろう。
何故だか……とてもそれが気になった。
暗がりに手を伸ばして、それを手に取る。
ダンボールの中は結構スカスカで幾分かスペースが空いている。おそらくは、四葉さんがいつも使っているマグカップなどの日用品が本来はこの中に入っていて、そのまま使っていないものが入れられたままなのだろう。
その中に、とても気になるものを見つけた。
「日記……四葉さんの、ものか」
四葉さんが隠しているもの。
本当の胸の内、彼女の人物像を探るうえでの糸口。
……そして、何故俺が選ばれたのかを知る唯一と言っていい手がかり。
電灯を灯していつかのあの日のように目を凝らす。
そのとき自分は、ようやく見つけることができた隠された宝物を開けるつもりでそのページをめくっていたと思う。
のちに考えてみれば、そんなことはしないほうがよかった。
世の中には、知らない方がいいこともある。
知ってしまうと、後悔することもあるのだ。