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君を自転車で轢いた後 ※完結済み  作者: じなん
第三章 君を知りたい
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第十七話 誕生日プレゼント


 夏休みがそろそろ終わりを迎えそうな時期、思い切って四葉さんに質問した。



「四葉、君の誕生日なんだけど……何が欲しいとかあるかな?」



 ……うん。サプライズとかは無理でした。

クローバーが好きという情報だけで本人の欲しがってるものがわかったら苦労しない。


 というわけで結局、本人に聞くのが1番ということになった。ちなみにプレゼント候補としてクローバーの意匠のネックレスやピアスなどを写真に撮ってリストアップしておいたので、そこから選んでもらおうと思っていたのだが。



ビシィッ



 と四葉さんに勢いよく指差される。もしかしたら服とかなのかな?



「ええと……新しい洋服とかがいいのかな?

これから秋になるし、暖かい格好ができるようにとか?」



 違う違うと首を振って否定される。相変わらず指は俺を差したままだ。



「もしかして……俺?」



 うんうんとそのまま大きくうなづく。さてこれは参ったぞ……自分をプレゼントにするなんてそんなどこかのアイドルじゃあるまいし、予想外すぎる。


 とりあえず少し考えて……自分にも出来そうな案を出してみる。



「ええと……とりあえず誕生日も一緒に過ごす……って事でいいかな?」



 ふるふると首を振られて今度は左手を指差される。

それを預けてみると薬指に指が絡んできた。



ふんす!



 薬指……左手……?

何だろう。何を欲しがっているのかちょっとわからないぞ。



 左手薬指……? 指を絡める……。



「……? …………あっ! あー……そういえば四葉は次の誕生日で18歳だっけか……ゆ、指輪は流石に……」



 露骨に不機嫌になる。いや、俺がプレゼントです。

で言葉通りに人生ごとあげるわけにもいかないだろう。

第一、まだまともに好意を抱いてすらいないところなのに、それらを全てすっ飛ばして結婚なんて考えられない。


 どうにかしないとな……と思っていたら、ある妙案が浮かんだ。



「だったら……その、誕生日の日は病院にお泊まりする……ってのはどうかな?

ベッドの下とかに隠れればたぶん見つからないだろうし……」



 軽い食事と寝袋を持っていけばなんとかなるかもしれない。身体の丈夫さには自信があるほうだし、1日ぐらいはお風呂に入らなくても平気だろう。幸い、個人病室には個別トイレも付いているし。



 四葉さんはうーんと悩みようなそぶりを見せた後。

渋々といった様子でグッとOKサインを出してくれた。


 ……骨折の関係で、骨を痛めるような運動などを含むそういったことはできないわけだし。

ゆったりと過ごす時間が長引くのはいいことだろう。

9月1日の学校は正々堂々休んでしまうとして。



 かくして夏休みの最終日は、お泊まり会に決定した。




 お泊まり会大作戦だが……思ったよりも順調だった。

まず、1番の問題として面会時間外で居残ることができるのかという問題だが。……凛堂さんが話を通してくれたらしい。看護師さんには1日だけだからね。と念押しされた。

というわけで、8月31日は四葉さんの元で過ごすことになった。



「……やっぱり病院のご飯って味が薄いね」


 

 うんうんとうなづかれる。いつもは夕飯の前には帰っているため、こうして夜ご飯を一緒に食べるのは新鮮だ。ちなみに四葉さんは自分が買ってきたコンビニ弁当を食べている……まあ、今日ぐらいはいいだろう。


 あーんといつものようにおかずを差し出されたので、もぐもぐと受け取る。

うん。コンビニの唐揚げだけど……いつもより美味しく感じる。直前に味の薄いものを食べてたのもあるけど、……やはり、四葉さんに食べさせてもらったからかもしれない。


 そのあと、買ってきたケーキをやはり二人で食べさせあう。小さなケーキだけれども今まで食べたものの中で1番甘く、美味しく感じられた。


 すると、どこからか大きな音が聞こえた。



「……もしかして、花火かな?」



 カーテンを開けてみるとやはりというか、夏の終わりを告げるかのように花火が上がっていた。

ここは病院の最上階なので見応えは抜群だ。


「四葉、今椅子を……」


 と窓際の椅子を用意しようとしたらどうしてか止められた。そして、両手を広げて抱っこを催促される。



「ええと……おんぶの方がいいかな?」



 イヤイヤと否定される。そして、船に乗るかのようなポーズをされたのでどうにかしてわかった。



「……お姫さま抱っこ?」



 それ!と言うようにグッドサイン。

……いつか、堂家さんが四葉さんをワガママなお姫さまと言っていたがどうやらその通りらしい。


 怪我に響かないようにゆっくりと持ち上げる。

四葉さんは羽のように軽いのでこのくらいは朝飯前だ。



 そのまま、窓際の椅子に座り二人で花火を眺めた。



 大小、彩り鮮やかな花火が花開いては堕ちていく。

それぞれの形や色彩は違うけども、等しく儚げに散っていく。美しく堂々としていて、どこか悲しげに感じた。その一瞬、一瞬が、大切なかけがえのないものなのだろう。




「四葉さん。俺……これから頑張ってみるよ」


「?」


「四葉さんを幸せにできるように、努力していく」



 そう言うと……四葉さんは、にっこりと微笑んで、顔を胸にうずめた。



 俺も……この人の一瞬を、少しでも輝かせるためにできることをしたいなと、そう心から思えた。


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