幕間その3 理由
今日は留木くんにせがんで一緒のベッドで添い寝してもらった。留木くんの硬い腕に抱きついてみるととても安心感があって、それに身体を押し付けるとそれにビクッと反応するのが可愛らしい。
もっと私のことを好きになってもらいたいな。
そんな気持ちを抱きながらそのまま彼に身体を預ける。
以前彼は私にこういった。
これから四葉さんを好きになっていきたいと思うよ。と。
つまりはまだ彼のほうでは私はただの事故の被害者でそれ以上ではないということだ。であるならば、早く私のことを好きになってもらわなければ困る。
こちらだけ彼を好きで仕方がないなんてとても不公平ではないか?
そんな身勝手な感想を抱きながらも動かせる左手の力を強めてより一層彼に身体を押しつけていると。
「……四葉、俺……そんなにかっこよくないよね?」
? どうしたのだろうか?
確かに留木くんはお世辞にも万人受けするようなハンサムな顔立ちではないけれど、私にとっては愛らしくてカッコいい魅力的な顔だ。初めてまじまじと見つめあったあの日から、顔を見るたびにどんどんとその魅力が増しているというのに。最近は目の下の隈ですらも彼特有の長所として好きになってきている自分がいるのが困りものだ。
「それに、別にお金持ちでもないし……。
性格だって、押しに弱い優柔不断だし」
お金持ちか否か? 性格?
……考えたこともなかった。
お金持ちかなんて私の実家に比べるとそこまで大差のないことのように思える。というか、もし彼が慰謝料……いくらになったのか教えてもらってないけれど。をポンと払えるような家柄なら、今こうしてこの場にいないと考えるとむしろそんな彼の家柄は好ましい。
性格にしたって多少流されがちだけれども、私のわがままをきちんと叶えてくれるその素直さはとても好きだ。もし私が泣いて頼んだら、命さえも投げ出しかねないほど私に対して彼は従順で、そんな彼はまるでワンちゃんみたいで可愛い。
「何より……俺は君を傷つけた加害者で。
四葉さんは一生消えない傷を負った被害者だ」
……そう、そうなのだ。
今こうして、自分の不甲斐なさに落ち込んでいる彼に対して何か言葉をかけてあげようとしても、私の中で言葉は出来上がってくれない。彼を抱きしめて慰めようとしてもまだ右腕は動かすこともできない。
彼に歩み寄っていこうにも歩くことはできないだろう。
だが、それでいいのだ。
彼は加害者で、私は被害者。
それが1番大事なことなのだから。
思わず顔が綻んでしまってそれを見た彼が戸惑うのがわかった。けれど私は病院で初めて会ったときのように親愛を込めてキスをした。
やっぱり、私は留木くんのことを愛している。
きっと、彼もすぐに私を愛してくれるようになる。
私はそのことを確信して、満足して再び彼の腕に抱きついた。