第十四話 質問
「……ッ! ハァ……また、またか……」
夜中にうなされて飛び起きる。
暗い街路樹の坂道。自転車で降っていく。
いつまでもあの日の情景が思い浮かんでは自分を責め苛んでいく……原因はわかっているのだ。
毎日のように四葉さんと顔を合わせているから、あの人との出会いの記憶も絶対に消えることはない。
できれば、あの人がどうして自分にここまで執着するのかだけでも知りたいのだ。そうすれば、もしかしたらあの人のことを。心から好きになって幸せな記憶に満たされたなら、過去の全てを忘れて今を楽しめるようになるかもしれない。
それはある意味で無責任な話で、とても身勝手な発想ですらある。自分の苦痛から逃げるために彼女を利用しようとしているのだから。けれどそのときの自分はそれほどまでに追い詰められていると感じた。
四葉さんが自分のことを好いている。
それはまず間違いのないことだと思える。
問題はどうして好きになったのか?ということだ。
その解明のためには……。
やはり、本人に聞くより他が無いように思えた。
翌日、四葉さんと向き合って話を聞いてもらう。
四葉さんは普段とは違う俺の雰囲気に少し戸惑っているようだ。
「四葉さ……四葉。その……君は、俺を……」
と言いかけてふと気づいた。
自分は今、相手に好意の確認をしようとしてるわけなのだが……これは冷静に考えてみると……。
相当に恥ずかしいことなのでは?
?っと首を傾げて四葉さんが次の言葉を待っている。ちなみに彼女は怪我の影響で、複雑で長い言葉は苦手になっているらしい。だから話す内容は簡潔で明瞭なものである必要がある。
「そのもしかしてだけども君は……俺のことが、す……すっ……好き……なのかな?」
一瞬ぽかーんとした後、見たこともないほど顔を真っ赤にして膨れてしまった。睨まれつつぺちぺちと抗議の手をいただく。
そして……すっと顔に手を添えられたかと思うと、そのまま口づけをされた。言葉にできないので何よりも行動で雄弁に語ろうということなのだろう。
「ご、ごめんね。よくわかったよ」
未だにぷんすかと少し怒っているようでむくれた顔のままだったが次第に落ち着いた。
「その……俺が聞きたいのは俺のどこをそんなに好きになったのかなって……」
満を辞して本命の質問をしてみる。
これで……彼女の真意が理解できるといいのだけど。
すると……彼女は考え込んでいるようだ。
かと思えばニンマリとした笑みを浮かべてそしておもむろにこちらを指差した。
「えっと……俺?が理由……ってこと?」
こくん。とうなづく。
……理解できない解答だ。顔や容姿などならまだわかる。けれど、あの当時一度も会った事のない人間の俺自身が好きになった理由というのは皆目見当がつかない。
今度はこちらが考え込む番になってしまった。
するとちょいちょいと服を引っ張られる。
今度はこちらと自分を交互に指差しているようだ。
「えぇっと……俺が、君を?」
うんうん。と首肯する。
四葉さんのことは……正直、よくわからない。
綺麗な人だと思うし可愛らしいし、一緒にいてゆったりと時間が流れていくのは好きだ。
けれども……それ以上に負い目がある。
彼女の声を、人生を奪ったという負目が、軽々しく好意を口にできるようなものではない。
「……今はまだ戸惑っているけど。
これから、四葉さんを好きになっていきたいと思うよ」
いまいち煮え切らないはっきりしない俺らしい回答だった。案の定、四葉さんは不機嫌になってしまった。