最終話 凛堂四葉のクリスマス
レストランでのご飯はどうやら四葉さんのお気に召したようで、にこにことしながら腕を絡ませてくる。良かった、だいぶ前から予約をしておかないといけないような人気のレストランだったので、四葉さんが喜んでくれて何よりだ。
……でもただでさえ少なめな俺の軍資金はほぼ半減してしまったので、やはりそろそろアルバイトなどでお金を貯める必要があるかもしれない。
そんな絶妙な顔の変化を見抜かれたのか、四葉さんがにっこりとして俺に携帯の画面を見せてくる。
『払う?』
「いや……四葉にお願いするわけにはいかないよ。
ここは俺が出すから心配しないで」
ふむ……と思案顔になった後に俺の腕に再びくっついたあたり、どうやら四葉さんはご馳走になることを選んだらしい。
……やはり早急のアルバイトを見つけないといけないな。このままだと四葉さんに借りが増えてばかりになってしまう。
さて……ご飯も食べ終わったし、後は四葉さんを家まで送り届けて今日のところは解散することを予定していたのだが……。
「よ、四葉さん? 駅はこっちのほうですよ……?」
ぐいぐい
……どうやら四葉さんは行きたいところがあるらしい。もうそろそろ駅前のイルミネーションが輝いて見える時間帯だし、急いで帰らないとまた四葉さんのお母さんに怒られてしまいそうだ。
でも四葉さんには逆らえないので、されるがままにしていると……なんだか普段は絶対に来ないような区画へと迷い込んでしまう。
「よ、四葉さん……? ここいら辺は……その……」
……ぐいぐい
周囲にはイルミネーションとは違った色とりどりのネオンが輝き、そこいらじゅうにカップルがいる。
俺のような高校生では縁がないと思っていた場所……。俗にいうところの歓楽街といったところか。
そしてそのまま四葉さんは、一つの建物の前で足を止めた。そこは……いわゆるその、ら、ラブホテル……というところだった。
「そ、その……四葉さん……俺……まだ心の準備が……」
「…………」
四葉さんが顔を赤くしながらも服の端を掴んでくる。そして上目遣いに俺を見て、うるうるとその瞳で何かを訴えかけているようだった。
……四葉さんが何を望んでいるかぐらいは俺にもわかるのだ。クリスマスに恋人が二人で出かけるということは……つまりはそういうことなんかもしれない。俺は……四葉さんとその建物を交互に見た後に、自分の気持ちを改めて考えた。
四葉さんは……俺にとって、欠けがいのない存在だ。
彼女がいなければ今の生活は無いし、彼女の存在によって俺は随分と心を癒されてきた。
それに……俺自身の本心で言えば、四葉さんともっと親密になりたいというのが本音なのだ。
「……四葉、俺は君のことを……その、好きだ」
……!
「だから……一緒にここに入ってくれると……嬉しい」
罪悪感と……少しの恐怖が入り混じった、純粋とは言えないような好意だけれども、それでも俺は四葉さんを幸せにしたいと思う気持ちは確かだ。
それを聞いて、四葉さんはぱぁあっと花が開いたような眩しい笑みを浮かべる。そして涙ぐんで俺にハグをして優しくキスをしてきた。
その表情はまるで積年の懇願を叶えたかのようで……とても魅力的で美しいものだった。
そんな彼女に情けなくも俺も心臓を高鳴らせてしまい、冬だというのにぽかぽかと暑いぐらいに身体が熱を帯びた。
「四葉……行こうか?」
……こくん
彼女の手をとって、二人で建物へと足を踏み入れて行く。
これからは四葉さんにただ導かれていくだけでは駄目なのだ。俺が自分の意思で持って、彼女を愛していかないといけない。
それが彼女の望みであるし、彼女への……贖罪へと繋がるのだから。
こうして、俺と四葉さんはようやく……またひとつ関係を深めたのであった。
『君を自転車で轢いた後』はこれにて終了といたします。
数ヶ月間の長い間でしたがお読みいただきありがとうございます。読者の方には感謝しかありません。
ですが、今後も私は創作活動を続けるつもりです。
手始めにこの作品のリメイク版を投稿する予定です。
それがひと段落つきましたら、また新たな作品も用意しておりますので、今後ともご愛顧いただければ幸いです。
重ねて、これまでお読みいただいた読者の方に改めて心から感謝を申し上げます…本当にありがとうございました。