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君を自転車で轢いた後 ※完結済み  作者: じなん
最終章 不器用な人たちのお話
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第百三十五話 上梁純香のクリスマス


 藤雄さんと桜さんがコートを羽織って夜の街へと繰り出していく。なんでもお二人で今日は特別なディナーへと出向くようで、桜さんは藤雄さんに寄り添って幸せそうな顔でボクたちに見送られていった。



「後のことは頼んだよ。純香さん」


「は、はい…! 任されました…!」



 藤雄さんが純香にボクのことを頼んでいるあたり、相当に彼女のことを気に入ってくれたようでよかった。

そしてボクたち二人は二人だけになった家で、とりあえずは夕食を作ろうということになった。



「今日は色々と作る予定なのよね?」


「うん、最近木石くんにお料理を教わっていてね。

とりあえずローストビーフとシーザーサラダ、カボチャのポタージュを作ろうかなって」


「聞いてるだけでよだれが出てきそうだけど…」



 ふと、純香が何故だか微妙な表情をする。

どうしたのだろうか? 苦手なものや体調が悪くて食べられないとか…?



「笑わないで聞いてね…私、その…最近太ってきちゃって…」


「純香が? …それは…うーん?」



 いや…純香のことは毎日のように見ているし、体調にはいつも気をはらってはいるものの全くそんな感じはしない。でも体重などが増えているのかもしれないので、とりあえずどういうことか問いただしてみよう。



「どんなふうにその…太ったの?」


「…は、恥ずかしいことなの…その、ね」



 リビングのソファでモジモジと純香が恥じらう。

どう見てもどちらかというとスレンダーな純香に太ったところがあるとは見えない。



「し…下着が…その、ひとまわり大きくなったの」


「…えっと…その…上? 下?」


「……両方…」



 かぁぁっと頬を赤らめる純香の言葉に、思わずその身体を凝視してしまう。

純香は…スレンダーで、綺麗な身体をしているけれど、あまりまじまじとその体型を見定めたことはない。けれどぎゅっと片手で胸を、片手で下腹部を抑える彼女の姿は、その恥じらいと相まってとても扇状的に見えた。



「だから…その、あんまり食べ過ぎるのも良くないかなって…」


「…ねえ純香。ボクのわがまま聞いてくれる?」


「な…何かしら? 私にできることならなんでも…」



 言葉を待たずに、ソファに座る純香の元へと静かに歩み寄って、その肩を掴んで膝立ちになり正面から見つめる。



「な…な…その、なにを…?」


「ちょっとだけ…我慢してね?」



 ゆっくりと彼女の身体に身を委ねて、優しくハグをする。純香がふわぁ…と声を漏らして、思わずといった様子でかぷりとボクの首筋に噛み付いた。

これは彼女の癖で、ボクに甘えるときはボクの首や身体にかぷかぷと甘噛みしてくるのだ。


 そして背中に手を回してさすさすと撫でた後に…優しくお尻をふにゅんと掴んだ。



「…! きゃっ…! しのぶくん…まだ…その、だめよ…?」


「……本当だね。純香…ちょっとだけ肉付きが良くなってるよ」


「そ…そうよね…? わたし、このままだとぷくぷく太っちゃいそうで…」



 そんな心配そうな声をあげる純香を思い切り抱きしめて、確かに豊かさが増したその胸へと顔を埋めると、純香の優しさと良い匂いに包まれて幸せな気分になる。



「純香に押し付ける気はないけど、…ボクは、少しぐらい肉付きが良いほうが好みなんだ。だから、純香には我慢しないで美味しいものをたくさん食べてほしいな」


「そういえば…この前もそう言われたわね…」



 ぎゅむーっとボクのことを抱きしめながらな純香が考え込んでいるようだ。

純香は元があまりにも痩せすぎていたので、あまり自分の体型の適正範囲がわかっていないのかもしれないけれど、できるなら健康的な体型のほうがいいに決まっている。それにありえないことだが、ボクが痩せているのが好きと言ったら純香は無理をしてしまいそうで怖かった。



「わかったわ…私、忍くんのためにも我慢せずにしっかり食べるわ」


「うん、純香には規則正しく良い食事を摂ってほしい。ボクも喜んで協力させてもらうからさ」


「ありがとう忍くん…でも、その、ね?」



 不意に、ポタポタとボクの髪に何やら雫が滴り落ちてきた。たぶんそれは…純香のよだれだろう。

…あー、これは少し純香を刺激しすぎたかもしれない。



「私…忍くんに抱きつかれて、まさぐられて…もう食欲が抑えられそうにないわ…! ご飯の前に…少しだけ…食べてもいいかしら?」


「…ちょっとだけ、だよ?」



 忍くんの部屋で忍くんに包まれて忍くんを食べるなんて最高ね…。とうずうずと口元を拭う彼女を連れ立って、ボクの部屋へと急ぐ。

結局、二人のお腹がぐうぐうと大きな音を立てて抗議するまで、ボクたちはクリスマスディナーにありつくことはできなかったのであった。


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