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君を自転車で轢いた後 ※完結済み  作者: じなん
最終章 不器用な人たちのお話
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第百三十話 男子会


 初めて入ったマンションの一室。

浅海くんが借りている部屋の中で、僕たち四人はとりあえずの顔合わせと自己紹介を終えた。



「で? 僕がここに呼ばれたのは先生役ってところかな?」


「そういうことだな。頼むぞ」



 浅海くんに深々と頭を下げられるのと同時に、留木くんと……確か保食?くんという背の低い子にもペコリと頭を下げられる。

私服だと正直いつも少し暗いオーラを出してる浅海くん以外はあまり見分けがつかないので、こう背の高さが違うとわかりやすくていい。



「……一応君とは初対面ってことになるのかな? 保食くん」


「あはは……まあ顔を合わせるのは初めてかもね」


「知り合いなのか?」


「まあね。部活のほうでちょっと」



 今はほとんど幽霊部員状態ではあるものの、まああの部活はそもそも部室に行かなくても良いのだが。

僕の情報部の仕事でアルバイトの斡旋をした時に相談に乗った中で、保食くんは名前が特徴的だったので覚えている。



「あれからバイトの方は順調かい? 初めてだし結構待遇の良いところを紹介したつもりだったんだけど」


「……あー……うん。今でもお世話になってるよ」


「それは良かった。……さて、浅海くんは知ってるだろうけど、僕は人にものを教えるのがとっても苦手なんだけど?」



 そうなのだ。どうも僕は他人が勉強で悩んでいる時に的確なアドバイスを出すことが苦手で、いつも勉強を教えてくれとせがまれると大抵はガッカリさせてしまうのだ。

なんというか授業を聞いていればほとんどの問題は解けてしまうので、他人が何を疑問に思っているのか、皆目見当がつかないのだ。



「それは知ってる。まあお前に質問するのも一つの勉強だと思ってやるよ。要は最終手段だな」


「……浅海くん、その言い様はちょっと酷いねぇ」


「……俺と仲が良いやつで頭が良いのがお前ぐらいなんでな……こう見えて頼りにしてるんだ」



 おお……あのぶっきらぼうで素っ気ない浅海くんが初めてデレた気がする……。

なんだか新鮮でむず痒い気持ちになるし、そこまで頼られると満更でもなく思うのでここはいいように使われてやるとしよう。



「そうだねぇ……質問する時はなるべく、何を疑問に思っているのか、何がわからないのかを明確にしてくれると嬉しい。そうすれば答えようがあるし、結果として君たちの勉強にもなると思うよ」


「わかった。頼むぞ木石先生」


「よ、よろしくね木石くん」



 留木くんと保食くんも意気込んで答えてくれる。

二人とも茶化してる感じではなく、真剣な雰囲気を感じるので、どうやら本当に勉強に困って来ているらしい。それなら僕としても手助けをしてやりたい。



「僕は買ってきた問題集を適当に解き進めてるから、疑問に思ったらまずは3人で相談。その後に僕に持っていく形でやっていこう」


「それでいこう。トイレは向かって正面にあるから使ってくれ。途中休憩を挟みつつ進めていけば効率的なはずだ」



 浅海くんが指で間取りを説明してくれるのはいいものの、家のところどころで浅海くんのものではない……いや絶対に柳城さんのものと思わしき私物があるのはなんともおかしかった。



「たぶんボクが一番迷惑かけちゃうかもだけど……頑張ろうね、みんな!」


「……いや、俺のほうがダメだと思うぞ。俺スポーツ推薦だし……」



 少し及び腰になっている二人のことをしっかりとフォローできるようにこちらも気合を込め直して、勉強会はスタートした。


 ピピピピ、と携帯のアラームが鳴る。

その音に各々が向き合っていたものから顔をあげ4人でお互いを見合わせた。



「もう50分か……なんだか早いね」


「そうだな……いつもの授業よりも短く感じる」



 保食くんと留木くんがそれぞれの感想を告げていく。今のところ一番質問回数が多いのは留木くんではあるものの、その内容もどこか応用的なものが多く、基本的なところは3人ともしっかりとしているように感じた。



「……正直な話、俺も驚いてるよ。いつもは愛美と勉強するんだけどここまで集中はできないからな」


「ははは……ボクもそうかも。彼女と一緒だとどうしても気が逸れちゃう時があって……」



 ごく自然に惚気られるが、おおむね同意できる内容ではある。翠ちゃんと一緒に勉強していると最初は集中しているものの、途中から翠ちゃんが僕にちょっかいをかけてくるのだ。



「俺はいつもはほぼ一人で勉強してるのと同じだからな……。四葉さんは俺のことをずっと見てるか抱きしめてるか、だし……」



 しまったという声のトーンで留木くんが顔を赤らめる。まあ恋人との普段の生活がつい口をついてでてしまって恥ずかしいのだろう。



「……四葉さん、今は怪我がほとんど治ったのかい?

確かうちの部長が懇意にしていたはずだけれど」


「……ああ、堂家先輩か。そうだな11月ごろにはすっかりと良くなったよ」



 誤魔化すように留木くんが声を出した。

実は四葉さんとは以前堂家先輩の紹介で顔を合わせたことがあるものの、彼女はしばらく観察した後なんとも素っ気なく接してきたのを覚えている。



「四葉さんはなあ……俺が勉強してると構ってほしいのか、いろいろちょっかいかけるんだよ」


「僕たちと同じだねぇ……。案外世間の恋人とはそういうものなのかもしれないねぇ。保食くんところはどうだい?」


「へ? あ、うん……純香はそういうことは無いかな……。純香は真面目だから」



 ははは……と照れたように声を漏らす保食くんはなんというか、意識しないと女の子と間違えてしまいそうで少し注意が必要そうだ。

それを聞きながらも浅海くんは腕を組んでうーむと唸りながら何かを考え込んでいるようだ。



「どうかしたかい?」


「いや……俺は愛美に甘えすぎなのかなと思ってな。

俺もあいつと一緒にいると楽しいからついつい遊んでしまって……」


「まあいいんじゃないかい? 仲良きことは良きことだよ。それで下手に距離を置いたら柳城さんがかわいそうだし」


「……そうだな。こうして勉強する機会も作ってるんだし、日々の授業でより集中するのが一番かもしれない。今日はとことんまでテスト対策を進めよう」


「うん! いい感じだしこの調子でいこう」



 ちょうど休憩用に10分に設定したタイマーが鳴ったので、四人で決意も改めて再びテスト対策のためにペンを動かし始めた。


 途中にコンビニでお弁当を買ってくるなどをしながらも、その日は午前から夕方まで一日中集中して勉強することができたのであった。



 ……なんというか、こうして男子だけで集まるのもなかなか楽しいものがあるな。

友人が少ないからあまり実感したことは無いが、今度このメンバーで遊びに行ってもいいかもしれない。


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