第百二十九話 期末テストに向けて
文化祭の余韻もそこそこに期末テストが近づき、生徒たちも心なしか授業への関心を深めて先生の話を真剣に聞いているような気がする一方で、どこか嫌気のような倦怠感が漂う12月ごろ。
俺としても愛美のためにテストを頑張って、とりあえずは進学コースへの足がかりにしないとなぁと思って授業後の昼休みも予習に励んでいると、ふと声をかけられる。
「浅海、ちょっといいか?」
「…どうした留木?」
二人の時間を邪魔されて見るからに嫌そうな顔をしている愛美は置いておいて、最近仲良くしている留木の話を聞いてみる。
「木石がどこにいるか知ってるか? あいつに頼みがあるんだけど…」
「木石? あいつは特進の彼女と一緒にいると思うぞ」
「…そうか。それは…困ったな」
ううむ…と腕を組んで悩む留木。まあ木石とは知らない仲では無いので伝言くらいは聞いておくか。
「何かあったのか? またあいつが何かやらかしたとか」
「いや…そうじゃなくてな。勉強を教えてもらおうかと思ってたんだ」
ちなみに木石はそれなりにトラブルを起こす。
それは女性関係だったり、木石がデリカシーの無い質問で相手を怒らせたりと様々だが、彼自身はあまり反省の色が見えないので仕方がない。
それにしても勉強とはな…。確かに木石は相当に頭が良いのだが…。
「やめといた方がいいぞ。木石は人に教えるのが壊滅的に苦手だから」
「…そうなのか?」
「あいつ、他人がなんでわからないのかがわからないレベルで頭が良いからな。教えられるのは細かなケアレスミスを無くすコツぐらいだ」
ちなみにこれは実体験である。ふと授業で気になったことがあったので木石に聞いてみたところ、たいそう不思議そうに首を傾げていたのを思い出す。
「…浅海は俺より頭良いよな?」
「わからん…俺は愛美に教えてもらってるだけだからな」
「ゆ、祐介はやればできる子なんだよ!」
ムッとして愛美が留木にキッと目を向けるものの、あんまり威嚇になっていない。
というか別に馬鹿にされてるわけでもないんだからムキになるなよ。どうどう。
「浅海、彼女との時間を邪魔して悪いんだが…今度、勉強を教えて教えてもらっても良いか?」
「勉強会ってことか? …うーむ…」
ちらちら
愛美がこちらの様子を見て何か言いたげである。
要はそんな時間よりも自分との時間を優先してほしいと伝えたいのだろうが…さて困ったな。
「…愛美。今週はまだ家に帰ってないよな?」
「え゛? あ、そうだね…そういえば」
「あんまり家族を心配させるのもアレだし、休日にでも帰った方がいいんじゃないか?」
「ぐぎぎ…そう言われると何も言い返せない…!」
というか、最近は愛美と家で一緒にいるとなんだかんだで愛美が俺に四六時中甘えてくるので、あまり勉強に集中できないことが多いのだ。
そう考えると一度しっかりと勉強に専念するように言ったほうがいいかもな…二人の将来のためにも。
「てことだから、次の土曜にでもどうだ?」
「助かる…俺も彼女と一緒だとどうも集中できなくてな。でも成績は上げないといけないし」
留木は彼女思いな奴なので、そう考えると似たような状況にあるのかもしれない。
すると愛美が何かを思いついたような顔をしたので、少し気がかりになった。
「…どうした愛美? 何を思いついた?」
「…別に〜? ぼ…じゃなかったわたしよりも留木くんを優先するとかで傷ついてないですよ〜?」
「…埋め合わせは後でするから。そう拗ねるなよ」
ふーんとぷんすか怒っている愛美を置いておいて、留木と目配せして勉強会の約束を取り付けると…。
「あのー浅海くん、いますか?」
聞き覚えのあるアルトボイスが教室の入り口から聞こえて、そこにはいつか北海で出会った保食が立っていた。これはもしかして…?と思ってみると。やっぱり勉強についての相談だったようで。
そうしてその後はとんとん拍子に、男子だけでの勉強会の予定が決まったのであった。