第百十六話 留木京治の説得
園尾さん達が帰ったので、四葉さんと二人きりになる。どうやら四葉さんは俺が宿泊研修で女子に囲まれて過ごすと思って拗ねているようだ。
「四葉、俺も休むから安心してくれよ」
つーん……。
ううむ、どうやら臍を曲げてしまったらしい。
俺の上に乗ったまま動いてくれそうにない。
こうなると……自分としては、最後の手段に出るしかない。
「四葉、じゃあ宿泊研修の日はここで俺が四葉のしてほしいことなんでもするよ」
……!
それを聞いて、四葉さんは態度を軟化させたようだ。明らかに口角を上げてニヤけそうになるのを抑えている。
けれど、まだあと少し足りないようで表面上は腕を組んでこちらをチラチラと様子見してくる。
「わかったよ四葉、ほら、甘やかすから来て」
! ……がばっ
待ってましたとばかりに四葉さんが俺に覆いかぶさるように抱きついてくる。
俺の胸に頬擦りして、まるで大きなワンちゃんのようだ。俺もそんな四葉さんを撫でてあげると、より一層ぎゅっと抱きしめられて、四葉さんの豊かな胸部が押し付けられた。
「よしよし、俺が四葉さん以上に優先するものなんて無いから。安心してよ」
……♪
聞こえてるのかわからないけれども、四葉さんは嬉しそうな顔をして横になった俺と目をあわせてくる。そしてそのまま顔に手を添えてきたので、俺も同様に四葉さんの顔に手を添えて、見つめあった。
「……いつもどおり、綺麗だよ」
……にこ
四葉さんの顔が近づいて、そのまま接吻をされる。
今度は浅いものではなく、舌を絡める深く長いもので、水音がするたびに頭の中が蕩けそうになる。
けれども、この誘惑に乗るわけにはいかないのだ。
「……四葉。一応言っておくけど……今日もダメだからね?」
……むぅ〜!
「いや……だって今日は徳子さんが家にいるし。
大っぴらにそういうことはできないよ」
……ふん!
再び機嫌を損ねてしまったようで、四葉さんがよたよたと立ち上がり、そのままベッドに身体を預ける。四葉さんはだいぶ骨折も治ってきてはいるものの、まだ療養中の身なのだ。あまり激しい運動はできない。
しかしこうなってしまうと四葉さんの機嫌を直すのは難しいので、誠心誠意彼女を甘やかすのが唯一俺にできることだった。
でも宿泊研修か……まあ、そこまで楽しくはなさそうだし、別にサボっても良いかもしれないな。
そんなことを思いつつも、四葉さんにベッドに引き倒されて、頭を胸に押しつけたり、足を絡めたりという誘惑をなんとか躱す時間が始まった。
なお、結局そのあと四葉さんのお母さんの徳子さんに見つかってとても怒られることになった。……俺、頑張ったのになぁ。