第百十一話 いつもの日常
水族館でのダブルデートはなんだかんだで順調に進んだ。途中、愛美と園尾さんが二人で長時間戻ってきなかったと思ったら、いつの間にかとても仲良くなっていたりと、なんとも不思議なこともあったが。
夕方になって水族館から出たら、そこで二人とは別れて帰路に着く。愛美は当然のように今日も俺の家に泊まる気でいるようだ。
「毎度思うんだが……愛美の両親は何か言わないのか?」
「言われるよ〜お父さんとか家に帰るたびにぐちぐち。お母さんもいい加減にしなさい!って」
「……あまり親を困らせるなよ」
「いーっだ! ぼくは祐介と一緒にいたいだけだもん。それに婚約者なんだから別に良いでしょ」
なんとも聞く耳を持たない子である。
今度菓子折りを持って改めて挨拶に行こう。
以前は好意的に迎えてくれたが、今のこの状況ではあまり良い反応はされないかもしれないな。
「それよりも、今日は何食べる? お昼は中華だったから別のにしようか?」
「和食が良いな。マグロとか……」
「……水族館の後なのに? まあなんとなくわかるけど」
俺たち二人は大体は一緒にいるため、交互に食事を作っている。今朝は俺が朝食を作ったため、夕飯は愛美が作る予定になっていた。
「んじゃ、適当にスーパーでお刺身でも買おうかな〜。ポキ丼とか美味しいよ、ぽきぽき」
「ポキ? マグロとアボカドの丼か?
良いな、美味しそうだ」
その足で最寄りのスーパーに向かい二人で買い物をする。なんだかんだ二人とも出不精なので適当に買い溜めておいて、しばらくは買い物をしなくて済むようにするのがお約束だ。結構多めに買っても帰りはバスだし。
「アボカドって栄養満点でね。
たくさん食べて精をつけてもらわないと」
「……おう。お前が元気なようで何よりだよ」
……こいつ結構ちゃっかりしてるというか。
割と抜け目ないところがあるよなと思う。
「ただいま〜いやーやっぱり家が1番だね」
「おう、お邪魔しますでも良いんだぞ」
完全に自分の家に帰ってきたノリで俺のマンションの一室に入り、そのまま荷物を置いて着替え始める。
一応外ではそれなりに可愛い格好をしているのだが、俺の家だとそんなの面倒くさいらしくて、早々にスウェットとかの部屋着に着替えてしまうのだ。
それにどうやら俺のスウェットが好きらしく、ブカブカのものを下も履かずに着ていることが多い。
「ふぃー……落ち着くね。こうして祐介の家で祐介の服を着てると、リラックスできるよ」
「もうほとんどお前の服だけどな。
ほら、寛いでないでさっさと冷蔵庫に食材入れろ」
「はーい。ご飯は炊けてるから後は適当に切ってポキ丼作っちゃうね。少し待っててよ」
ぱたぱたと走りよってテキパキと料理を作っていく。まあほとんど切って盛り付けるだけなのだが。
最初は二人とも一応お互いに食べさせるものだからと凝った料理を作ったりしていたのだが、二人で生活しているうちにだんだんとめんどくさくなって、最近はそれなりの料理で落ち着いてしまった。
「ほいよ、一丁上がり」
「ありがとう。じゃあ食べるか」
「「いただきます」」
ここに通うようになって早々に買った小さめのお茶碗と箸でかきこんで食べてるところを見るに、どんどんと部屋が愛美の私物で華やかになっていくのは、我ながら流されてるなぁと感じた。
「うんうん、美味しいし栄養あるね。
これなら今日も大丈夫そうだ」
「……一応聞くけど、やるのか?」
「え? やらないの? 明日は日曜日だし」
「……お前がこんなえっちなやつとは思わなかったよ」
いーじゃん気持ちいいし楽しいし。と開き直っている。こいつはなんというか、中身が男の子な影響からか相当にあけっぴろげで、隙あらばそういうことをしようとする癖があるのだ。
「ご馳走様〜ゲーム終わったらやろー」
「おう、洗い物はやっとくからゲームしてろ」
家事は適当に分担している。そういえば最近やってないなぁ程度の緩さだし、今日はめんどいからやって! と言われればお互い渋々やる感じだ。
洗い物が終わって愛美の方に行くと、えいえいとゲームに夢中になっている。どうやら相当にゲームが上手になっているようだ。たぶん対戦したら負けると思う。
「よし来たね、祐介早く助太刀してよ」
「待て待て、まだ起動もしてないんだから」
ソファに座ってゲーム機を弄ろうとすると、横にとすんと愛美が座ってきて身体を寄り添わせる。
「ふふーん、ぼくたちコンビの力見せてあげようよ。勝ったらご褒美あげるからさ」
「……負けても慰める流れじゃないか?」
「勝ったほうが気分良くできるからいいの!
ほら早く相手来てるよ」
その後は適当に二人でゲームをして遊ぶいつもの日常が展開される。だいたいは突っ込んでいく愛美を援護していればあらかた片がつくので楽ではある。
「勝ちー! やったね祐介。ほらご褒美」
そのまま顔を愛美のほうに向けられてキスされる。
……何度やっても慣れる気がしない。
「んふふ〜次勝ったらもっとサービスしてあげるよ」
「負けても憂さ晴らしするだけだろうに」
その後はゲームをしているうちに勝ったり負けたりして、その途中何度も愛美からセクハラをされた。
……まあ、悪い気はしないのが男として正直な感想だ。
「うし! 勝ち越して今日は終わり〜。
……ねえ、頑張ったから抱きしめてキスしてよ」
「はいはい、仰せのままに」
対面でこちらを向いて座った愛美を抱きしめてあげて、ゆっくりとキスしてやる。
すると愛美もそれに応えて、深く繋がった。
これが俺たちの中での一つの合図である。
「……ねえ祐介、今日翠さんから聞いたんだけどね。普通はカップルでも毎日しないんだって」
「そうなのか? 女の子と付き合ったことがないからわからないな……」
「……うへへ、祐介はそのままでいいよ〜。
ぼく以外の人とはこんなことしなくていいし、やりたくなったらぼくが全部してあげるからね」
心底嬉しそうにこちらを抱きしめて囁かれる。
そもそも愛美とこんな関係になっている以上は、他の女性と付き合うなんて考えもしないのだけれど。
「ねえ祐介、ぼくとするの嫌い?」
「……言わせたいのか?」
「うん、ぼくばっかり楽しいのはダメかなーって」
「あー……そうだな」
少し眉を曲げて不安そうな顔をしてこちらの様子を伺ってくる。
たぶん恋人同士でもそんなにしないことを、毎日のようにしているということが不安になったのだろう。それで俺の機嫌を損ねているのではないか……と。
「……安心しろ、俺もお前と同じだ。性欲はそれなりにある」
「……ふふふ♪ 祐介のすけべ!
感謝してよね〜ぼくがこんなに可愛くてえっちな女の子の身体をしてることにさ」
愛美は一気に上機嫌になったようで、スウェットを脱いで準備をし始めた。自分で可愛いとか言うなよ、とは思いつつ否定はせずに、俺もどこかで期待しながら服を脱いでいく。
今日も眠るのは遅い時間になりそうだ。