第百十話 園尾翠の悩み
一緒に落ち着けそうなベンチに座って、園尾さんの話を聞いてみる。祐介への悪影響が出そうならどうにかしないと!と意気込みつつ気合を入れた。
「その、あなたって……彼氏さんと仲がいいじゃない?」
「……ええと、祐介とは確かに仲良しです」
自信を持って言える。祐介とは親友を通り越して婚約者なのだし。今後も絶対に離れたくはない。
「その……そうなのだけど……」
「…………?」
何やらモジモジと園尾さんが話しにくそうな顔をしている。その様子は普段のとっつき難い感じではなくて、まさしく恋する乙女と言ったいじらしさがある。
「……単刀直入に言うとね。あたし、もっと幸平くんとの距離を縮めたいの」
「……え?でも木石くんと園尾さん。仲良さそうですけど……?」
「……その、物理的な距離を、ね?」
あー……なるほどねー。もじもじと恥ずかしそうにするのもなんとなくわかった。つまりは園尾さんは夜のことについてアドバイスを求めているのだろう。
「え……ええと、その、そういうことですか?」
「ええ……柳城さんって、浅海くんの家に泊まってるのでしょう?そういうことも結構してるんじゃないかって」
してるどころかほぼ毎日……というか昨日もやったけどさ。自分の顔が赤くなるのを感じる。ここまで赤裸々な話とは思わなかった。
そんなぼくの様子で察したのか、園尾さんも顔を赤らめた。……この人意外とかわいいところあるな。
「その、どうすれば幸平くんを誘えるのか……とか、
色々とアドバイスを欲しいなって……思ったの」
「ええー、園尾さん素敵だし、言えばすぐにでも……」
「幸平くんってそこらへんお堅いのよ……。
頑張っても有耶無耶にされて、甘えてるうちにそういうことに至らないの」
「……そうなんですか……」
ぼくの場合はしたいなーと思ったら祐介に頼むと、なんだかんだで断らないでしてくれるから実感がない。というか甘えるんだ、ほんとかわいいなこの人。
「その……は、はじめてはどんなふうに?」
「え?! ……は、はじめては……」
言えない。ぼくの方から我慢できずに襲っちゃったなんて、なんかぼくがとってもいやらしい女みたいじゃないか。
……もしかして毎日はいやらしい女なのだろうか?
「もしかして、いつも柳城さんから?」
「あ、あうぅ……そ、そうですぅ……」
「なるほど……確かに浅海くんって受け身な感じだものね」
ふむふむとうなづいて参考にしているみたいだ。
は、恥ずかしい……。
「その……コツとかあるのかしら?」
「こ、コツ?……わたしの場合は、抱きついたりしてお願いするとなんだかんだ……」
自分で言ってて気づいた。とっても恥ずかしいことを言っているみたいだ。
他人に自分のそういう話をするとは思わなかった。
「……柳城さん、顔に似合わず大胆ね」
「……ふぇぇ」
恥ずかしくて顔が真っ赤になる。暑くて湯気が出そうだ。
「でも……参考になったわ。幸平くんも男の子だもの。彼女のお願いは断れないはずよね」
「そ、そうですよ。あとは身体を押し付けるとなんか興奮してくれるみたいです」
「……なるほどね。あなたスタイル良いしね」
ジロリとこちらの身体を見られて思わず胸を抑える。まあ園尾さんはスラリとしてとても綺麗なのだけども。
「答え難いことを言ってくれてありがとうね。
……ねえ柳城さん。これからは愛美って呼んでも良いかしら?」
「は……はい、大丈夫です。じゃあわたしも……」
「ええ、翠って呼んでくれると嬉しいわ」
にっこりと笑って握手を求めてくる。
その笑顔はとても可愛らしくて、この笑顔ならきっとどんな男の子でも虜に出来そうな気がした。
ぼくも緊張しつつも握手をした。
「これから仲良くしていきましょう。愛美」
「……うん、よろしくね。翠さん」
そんなことを言いながらも、連絡先を交換したりしながら、待ちくたびれているだろう祐介たちの元へと急いだ。
なお祐介たちはクラゲ水槽の前でぼーっとしながら歓談していた。この人たち案外仲良いというか、相性は良いよなぁと軽く嫉妬してしまった。