第百九話 水族館
まだまだ暑いながらも、少しだけ秋の香りがしてきた外の空気を吸いつつ、四人で電車に揺られると段々と潮の香りがして、海が近づいてきたことを知る。どうやら水族館の最寄り駅に着いたようだ。
「着いたみたいだねぇ。いやあ水族館なんて何時ぶりだかわからないから楽しみだ」
「そうだな……柄にもなくテンション上がってるよ」
わくわくとした気持ちで歩いていくと、大きな建物が見えて、入場券を購入して中に入る。
カップル割引がありがたいと思いつつ、水の遊園地へと足を踏み入れた。
「わぁ〜かわいいね、祐介!」
「ああ……普段は見れないからな」
カクレクマノミの水槽で目を輝かせる愛美に同意する。なんだかんだで愛美も楽しめているみたいでよかった。
「カクレクマノミはねぇ。オスがメスに性転換するお魚なんだよ。意外とそういうお魚は多いねぇ」
「そうなの。不思議ね」
……生態を聞いてなんとなく思うところがあった。
愛美もそれを察したのか、あはは……と笑っている。
その後も木石がそれとなく豆知識を披露してくれながら色とりどり多種多様なお魚を鑑賞していく。
やはり知識があるというのは良いことだ。
園尾さんもあまり表情は変わらないものの楽しそうではある。
すると、愛美と園尾さんがトイレに行きたいと言い出したので一旦休憩して待つことにした。
「浅海くん、ダブルデート、来てよかったかい?」
「最初は面倒に思ったが、悪くはないな」
「そう言ってもらえて嬉しいよ。僕も翠ちゃんから突然提案された時には驚いたもんだが、こうしてみんなで遊ぶのもなかなか悪くない」
「そうか、……お前がそこまで尻に敷かれるとはな」
木石はどちらかといえばトラブルメーカーといった気質で、あまり他人に迎合しない人間だと思っていた。そんな彼にここまで意見を通すのは、やはり惚れた弱みというやつなのだろうか?
「そうだねぇ……翠ちゃんのお願いは基本的に無下にできない気がするよ。僕は彼女が好きだからね」
「なんともお熱いことで」
「そういう君はどうなんだい? 柳城さんの頼みなら多少の無理は通してるんじゃないかい?」
……言われると否定はできない。こちらは高校生の身で既に将来を決めているのだから。
「思い当たる節があるみたいだねぇ」
「お互い、仲良くやっていこう」
そんな会話をしつつも、少し遅い二人を待ちながらクラゲのぷかぷかする姿を眺めていた。
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トイレで用を足してさあ早く祐介の元に戻ろうとすると、途中で声をかけられる。
「柳城さん……ちょっといいかしら?」
「ひぃ……な、なんですか?」
木石くんの彼女の園尾さんだ。
なんでも今回のダブルデートを提案した張本人らしい。個人的にはなんだか目が澱んでるような気がして少し怖いなって印象を持っている人なのだけれど。
「あなたとお話があるの……というより、悩みを相談したくて」
「な……悩み……ですか?」
なんだろう、木石くんに好かれている祐介への牽制とかかな? いやぼくじゃあるまいしそんなことで目くじら……いや立てそうな気がする! この人の愛の重さだと例え同性でも許さなそうな気さえする!
だとすると祐介の危機かもしれない。
ここは少しは頑張って対抗しないと。
「良いですけど……なんですか?」
「ええその……悩みは……」
そう言って話し始めた悩みは、ぼくの予想よりもなんとも赤裸々なものだった。