第百八話 ダブルデート開始
待ち合わせ場所にたどり着くと、既に木石と園尾さんが待っているようだ。あちらも俺と愛美が二人揃ってきたのを確認したようで、声をかけてくる。
「待たせたか?」
「いいや、時間ピッタリだねぇ。ちなみに今日は浅海くんの家から二人で来たのかな?」
「……そうだが」
「あら、お熱いこと。是非ともあやかりたいわね」
こちらを揶揄ってくる二人に曖昧な返事をしておいて、隣で未だに慣れない様子の愛美を宥める。
……昨日は憂さ晴らしに散々付き合わされたのでなんとも複雑な気分だ。
「早速ご飯でも食べようか?」
「当てはあるのか?」
「ここいらへんで評判の中華屋さんがあってね。
安いしそれなりの量で美味しいお店なんだ」
「良さそうだな」
基本的には友人である木石と俺が主導して動くことにした。特に木石は社交的であるので、こういう時には助かる。愛美は俺以外には全くと言っていいほど対人能力が壊滅的なので、先ほどから腕にくっついて離れようとしない。コアラかお前は。
園尾さんと木石が手を繋いで歩いてるのを見ると、美男美女といった感じでなかなかに絵になる。
園尾さんの顔には怪我をしたのか傷があるのだけれども、何故だかそれを踏まえてもどこか妖艶な魅力があるのだ。
しばらく歩いた後にお目当ての中華料理屋にたどり着いたようなので、四人で入店すると同い年くらいの少し背の低い店員さんに出迎えられた。
「いらっしゃいませ!4名様でしょうか?」
「そうだねぇ、お願いするよ」
「かしこまりました!メニューが決まり次第お知らせください」
個人経営なのか、少し寂れた感じがあるものの、
店内はお客さんが多くなかなかに人気のお店らしい。店員さん達がとても活気に満ち溢れていて少し眩しいぐらいだ。
「お待たせしました!八宝菜とラーメン、チャーハンに麻婆豆腐セットになります」
「ありがとうございます」
普段は本格的な中華を食べる機会が少ないので、麻婆豆腐のセットにしてみたがご飯が進む美味しさだ。木石がすすめるお店なだけのことはある。
チャーハンを頼んだ愛美も同じ感想みたいで、顔を綻ばせてぱくぱくと食べている。
「喜んでもらえたようで何よりだねぇ」
「ああ……駅前まで出るのは少し面倒だが、ここは常連になってもいいかもしれないな」
「……ほら、幸平くん口にご飯粒がついてるわ」
園尾さんが甲斐甲斐しく木石の口元を拭う。
木石もまんざらでもなさそうで、案外しっかりと恋人やってるんだなと少し感心してしまった。
「……むむむ……」
愛美はそんな様子を見て、どこか思案顔になってしまった。見せつけられたのが嫌だったのだろうか?
すると、チャーハンをカツカツと食べたかと思うと、こちらに顔を向けてくる。
「祐介、はい!」
「……はいはい」
同じように顔を拭って綺麗にしてやると、正解だったようで愛美は上機嫌になった。そんな姿を見て可笑しかったのか、園尾さんがクスっと笑う。
「仲が良いようで何よりだねぇ。
さて、そろそろ水族館に向かおうか?」
「そうだな」
少しスレンダーな女性の店員さんに見送られて、その足で駅に向かい、水族館を目指した。
休日の電車は空いていて、四人とも座ることができ、俺と木石が隣り合って座り、それぞれの横に二人の女子が座った。
「しかし、柳城さんは浅海くんに首ったけだねぇ。
よくそこまで好かれたもんだよ」
「色々あったからな。そういうお前はどうなんだ?
人のことをいうなら自分も明かしてみろ」
「あたしは構わないわ。話してもいいわよね?」
「……まあ、簡潔に頼むよ」
そうして園尾さんから馴れ初めを聞かされる。
なんでも木石とは幼馴染の仲らしい。
園尾さんがずっと片想いしていたのだが、木石は一度離れて以来すっかりと忘れていたので、
最近になってようやく再会して結ばれたのだそうだ。
「す、すごいですね……愛があるというか」
「でしょう? あたしの初恋だから、ようやく叶って今は幸せなの」
愛美が話を聞いてどこかキラキラとした目をしている。あんまりこういう恋バナには縁が無かった……というより、良い印象がないだろうから、大恋愛と言える二人の話に興味がでたのだろう。
その後は二人の普段の生活を惚気と一緒に聞かされた。照れる木石という珍しいものが見れたのでなかなかに貴重な機会だった。