第百二話 消えない想い
涙の別れの後、あたしはイギリスに渡りつまらない小学生時代を過ごし、また父の仕事の都合で日本へと帰ってきた。
大沢とは違う土地で灰色の中学生時代を過ごして、特待生免除を目的に最上院学園附属高校に入学した。
そうすればもしかしたら彼の近くに引っ越すことができるかもと考えて。
その間もずっと、ずっと、ずうっとあたしは。
ただひたすらに幸平くんのことを想い続けていた。
胸に宿した恋の炎は消えることなど決して無く、ただ年月を重ねれば重ねるほどにその輝きを増していった。
あの日の大切な贈り物の翡翠を握りしめて、あの夏に撮った自分たちが写っている写真を眺め、あの人を想って夜を過ごす日々が続く。
頭が良くて素敵な幸平くんの横に並び立てるように必死になって勉強して、オシャレも運動も頑張って。ひたすらに自分が幸平くんに相応しい女になれるように努力し続けていた。
もし幸平くんに会うことが出来たなら、彼に一言でも素敵だと言ってもらえればあたしは満足だった。気づいた時には周囲から一目を置かれるようになり、群がるように誰ともしれない男が告白してきたけど、そんなものはどうでもよかった。
あたしには幸平くんがいればいいのだ。
あたしは幸平くんのおかげで存在しているのだから。
母は相変わらずどこかで男と遊んで帰ってこない。
父もそんな母を見限りつつも、世間体のためかあたしが高校に入学するまでは離婚しようともせずに放置したうえで、母とよく似たあたしのことを無視しはじめた。
けれど、そんなことはどうだっていいのだ。
幸平くんに会えさえすればあたしは満足なのだから、
……彼に会いたい、またいつかのように抱きしめてもらいたい。頭を撫でて甘やかしてほしい。そして存分にキスをしたい。
夢の中で会う幸平くんはいつまでも幼いままで、自分だけが歳を重ねていくことに悲しみを覚え始めた。
父に他界した祖父母の家で過ごせと言われた時には、内心で小躍りした。
あそこに行けば、幸平くんと会える。
幸平くんと……ようやく再会できる。
彼に会うために家を見張っていて、彼が同じ高校の制服を着ていると気づいた時には心底驚いてしまった。
自分と同じ学校にいるなんて盲点だった。
てっきり幸平くんの頭の良さなら特進コースにいるものとばかり思っていたからだ。
この2ヶ月、出会う機会が無かったことを心から呪った。
でも気づいたからにはもう自分を止めることは出来なくて、その日のうちに幸平くんに手紙を渡した。
ようやく……あたしの夢が叶う……。
そして……彼と再会した。
愛しい彼と、数年間ずっとずっと想い続けた彼と。
あの日の約束を果たすために……。