第九十七話 運命の出逢い
小学校一年生の時。
あたしはパパの実家に連れて行かれてそのまま夏休みを過ごすことになった。
なんでもまたママが浮気をしたらしくてしばらくは家に帰ってこないらしい。パパはあたしの面倒を見るのが嫌なみたいで、夏休みはおじいちゃんとおばあちゃんの元で過ごすように言われた。
(でも、イギリスから離れられたのは良かったかなぁ)。
普段はイギリスで過ごしているので、日本の夏はなんとも蒸し暑く感じる。それに、あたしをアジア人だと馬鹿にして話すのが下手くそと言ってくる同級生たちとは離れられて嬉しい。
おじいちゃんもおばあちゃんもあたしに優しくしてくれるし、日本での夏休みはなかなか楽しく過ごせそうだ。
縁側でおばあちゃんに切ってもらったスイカを食べていると、ふと視線に気づいた。
見ると、隣の家の窓から誰かがあたしのことを見ているらしい。
まあ気にしなくても良いや。と思いそのままシャクシャクと甘いスイカを齧っていたら、しばらくして声をかけられた。
「ねえ、君。ちょっと……お話しいいかい?」
庭先に男の子が現れたのだ。
どうやら先程窓からあたしを覗いていた人みたい。
驚いてその子に話しかけようとして、思わず英語になってしまいそうになる。なんとか日本語に直してその子に問いかけた。
「あなた、誰?」
「僕かい?隣の家に住んでいる木石って者だよ」
年はたぶんあたしと同じくらいなのにどこかしっかりとしていて明朗な言葉。とても同じ小学生とは思えない。
「どうしてここにいるの?」
「窓から美味しそうなスイカが見えたのでねぇ。
もし良かったら……一緒に食べてもいいかな?」
なんとも図々しいお願いだけれどもこの時のあたしは突然現れたこの男の子にドキドキしていた。
顔立ちは幼いながらも整っていて、とても利発そうな男の子だ。それに社交的な感じがして話し下手なあたしにとっては眩しく感じられる。
「いいよ、いっしょにたべよ」
「ありがとう、ご馳走になるよ」
そして縁側に座った彼はスイカを一つ掴むとシャクシャクと食べ始めた。とても美味しそうに食べるのでこちらもなんだか嬉しい気分になる。
「ん〜……!やっぱり甘いものは良いねぇ。
スイカは水分も多いし、夏にはピッタリの野菜だよ」
「やさい? くだものじゃないの?」
「ああ、一応は果物でもあるんだけどね。
別に木に生るわけではないから野菜としても扱うのさ」
「そうなんだ……知らなかった」
スイカの種を丁寧に取り除きながら彼にもう一つ振る舞う。彼は同じようにシャクシャクと食べてニッコリと笑った。
「君は……ここらでは見ない顔だね」
「あたし、なつやすみのあいだだけおじいちゃんの家に泊まりにきたの」
「……そうなのか、それはなんとも惜しいな」
すると、彼はハンカチを取り出して汚れた自分の手を拭い、その手をあたしに差し出した。
「では一夏の間だけでも僕と友達にならないかい?」
「え……いいの?」
そして彼としっかりと握手をする。
あたしにはこれまで友達がいなかったからその提案は願ってもないものだった。
これがあたしと、木石幸平……幸平くんとの初めての出逢いだった。