第九十四話 顔
無言で僕に着いてくる彼女と一緒に自分の家へ急ぐ。これから打ち明ける秘密は、場合によっては彼女を幻滅させかねない内容だ。
せっかくできた彼女を、自分の欠点で失うかもしれないと思うと震えてきてしまう。しかし、いずれ判明することなのだからむしろ早い段階でバレてしまった方が良いのかもしれない。
家に帰ると、母さんが翠を見て歓声をあげる。
「あら……! 幸平、この子って……?」
「ああ、僕の彼女だよ」
「まあ……随分と美人な子ね! 待ってて、今お茶を注いでくるから」
「いえ……お構いなく」
「うん、今から大切な話をするからいらないよ」
「そうなの? わかったわ、ゆっくりしていってね」
挨拶もそこそこに、僕の部屋へと彼女を通す。
僕の部屋は何かとものが多いので、少し雑然としてしまっているが、仕方がないだろう。テーブルが無いのでクッションを渡して僕はそのまま床に座った。
「それで?あの女とあたしを間違えた理由、
納得できるものがあるのかしら?」
「……納得してもらえるように、努力するよ」
未だに怒り心頭という様子の翠を鎮めるべく、僕はあるものを持ち出した。
「……これ、見てくれるかい?」
「……それは……幸平くんのアルバムかしら?」
小学生の時の卒業アルバムを翠に手渡す。
これから行うのは、簡易的な実験だ。
「その中で好きな人を1人選んでくれたまえ。
選んだら名前を覚えておいてね。
ただし僕には教えないこと」
「……なんのつもりかしら。まあ……いいわ。
付き合ってあげるけど」
彼女はペラペラとページを捲った後、ふと気に入った人物を見つけ出したようだ。
「選んだわ。次は?」
「……その人物の、名前を伏せて僕に見せてくれ」
個人ページの名前を隠した状態で僕がその人物の顔を見る。しっかりと目に焼き付けた後に、彼女にこう指示をした。
「集合写真を見せてくれるかい?」
「……なんなの、何をしようとしてるの?」
「いいから」
酷く怪訝な顔になりながらも、集合写真のページを開いて僕がそれを見る。
そして……僕はその中を目を凝らして探したが……。
「……やっぱり、駄目だね」
「駄目……ってどういうことよ?」
「これが僕の、最大の秘密なんだ」
「えっ……?」
彼女に僕の秘密を打ち明ける。
たぶん、彼女は少なからずショックを受けてしまうだろうけども、知ってもらった方がいいだろう。
「僕はね。人の顔の区別がつかないんだよ」
それを聞いて彼女は一瞬、固まってしまった。