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君を自転車で轢いた後 ※完結済み  作者: じなん
第十五章 秘密
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第九十三話 間違い


 夏休みになったので晴れて僕は翠とデートをすることにした。以前は彼女に合わせたものだったが、今度は僕自身が提案したものだ。

目的としては夏休みに海に行くために、水着を買おうと思う。


 元はと言えば僕が海に誘った時、彼女が水着を持っていないと告白したからだ。

なんでも彼女は以前までの夏はずっと勉強漬けだったらしく、まともな水着は持ち合わせていないとのことらしい。

それならば僕も水着を新しく買い直そうということになり、ついでに二人で映画でも見ようという話になった。



「……うん……? あの歩き方は、翠かな?」



 駅の待ち合わせ場所で翠らしき人影が見えたので、近寄って声をかけてみる。

髪型が変わっているが、たぶんそうだ。



「やあ、翠。随分と早かったね」


「……翠?」



 すると、その女性はどこか怪訝な雰囲気を醸し出している。あ、これはやってしまったかもしれない。

僕には度々あることなのだが。



「……あー……ええ、待たせてごめんなさい」


「……あれ? 園尾翠であってるのか?」


「……へえ、……ええ、あたしは園尾翠」



 会話がおかしい。

この人はどうやら翠では無いようなのだけれど、何故か僕に合わせて嘘をついているようだ。

一体何を考えているのか理解に苦しむ。



「……予定通り、カフェで少し休もうか?翠」


「そうしましょ。お代はお願いね」



 もちろんカフェに行く予定など無い。

この自称園尾翠は一体何を考えている?


 狐につままれたような気分になりながらもカフェに入ってそのままコーヒーを注文する。彼女はブラックコーヒーを注文して僕の対面の席に着いた。



「……さて、あなたは一体園尾翠さんとはどういった関係なのかな?」


「あら、もう小芝居はやめるの?

私としては、あなたにもその質問をしたいわ」



 当然だろう。僕の行動は不可解極まる。

だけれども、僕的にはこれは完全なる事故なのだ。

わざとでは無いし、こんなことが起こるとは思いもしなかった。観念して僕の欠点を告白する。



「事情は伏せるけども……僕は人を区別するのが苦手なんだ。だから人違いをよくする」


「へえ〜。その割には翠ちゃんと仲が良さそうだと思ったのだけど。もしかして翠ちゃんの彼氏さんなのかしら?」


「そうだよ。僕は彼女の彼氏だ」


「あら……それはめでたいわね。あの子、

そういうことに興味ないのかと思っていたわ」



 目の前の女性は品定めをするように僕を見てくる。

どうやら翠とは浅からぬ関係の人物らしい。

すると、いきなり横からかなり冷たい声で、怒声で割って入られた。



「ママ……あたしの幸平くんと、一体何をしているのかしら!?」


「あちゃー見つかっちゃった。

そんなに怒らないでよ翠ちゃん」



 翠が到着して僕たちを見つけてしまったらしい。

まずいぞ、ややこしいことになってしまっている。

それに彼女の言葉ではこの目の前の人物は翠の母親のようではないか。



「だって幸平くんが私をナンパしたのよ?

若い子にナンパされるなんて久しぶりだから嬉しくなっちゃって」


「……何ですって?」


「翠!って声をかけてきたの」


「何……ですって……!」



 わなわなと立ったまま翠が怒りに震えているようだ。当然だろう。彼女と母親を間違えるなど失礼にもほどがある。僕としては不可抗力なのだが甘んじて罰を受けるべき状況だ。



「幸平くん。事情を聞きたいわ」


「……ここでは話辛いんだけどねぇ。

あーっと、園尾さんのお母さん?」


「あ、私は百合花よ。ユリーカって呼んでね」


「……百合花さん。今回の件は誠に申し訳ありません。僕としては、また日を改めてご挨拶したいと思うのですが……」


「OK! またナンパしてよ幸平くん。

今日は翠ちゃんに会いに来たけどそんな雰囲気じゃなさそうだしね〜」



 ……百合花さんは雰囲気は翠に似てるものの、話してみるとどう考えても似ていない軽い人だ。どこか母親らしくなく奔放としている。それにどこか漂う臭いは……お酒だろうか?


 百合花さんが席を立ちどこかに行ってしまったのを見ながら、交代に席に座った翠と対面する。


 かなり怒っているようで、刺すような視線が痛い。



「それで? よりにもよって何故あたしとあの女を間違えたのかしら?」


「……もう隠し切れないね。悪いけど……今日のデートは予定を変えて、僕の家に来てほしいんだ」


「……ここでは話し辛いことなのね」


「ああ……僕にとっての最大の秘密だからね」



 遅かれ早かれ、この秘密を明かす時が来るとは思っていた。翠には……僕の彼女には知っておいてほしいのだ。


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