第九十二話 恋の結果
テストが全て返ってきたので、園尾さんと待ち合わせをして図書室の自習室に行く。
僕のこれまでの熱意の……というより、恋心の成果を確かめる場だ。早めに来て目を瞑って待つ。
テスト期間が終わったのもあって、あれだけの人がいたのが嘘のように閑散としていて誰もいない。
改めて、僕の心の内を確認する。
園尾さんは実際にはよくわからない人だ。
未だに何故僕を好きになってくれたのか、理解できないところもある。
けれど、彼女の好意には……裏表がなくきちんと僕を好きだという気はしてくる。というより、今の僕は彼女にそう思われていたいと思ってすらいるのだ。
ああ、今すぐ彼女の手を握って頭を撫でてみたい。
負けたとしても、彼女と付き合えるというなら、それでも良いという気さえする。
「木石くん。待たせたわね」
「ん……園尾さん。早速だけど、テストの結果を報告しあおうか?」
「ええ……楽しみね」
それぞれ、テスト用紙を並べて点数を突き合わせてみる。
僕は答えが不確定的な部分を含む現代文でのミスを除くと、ほぼほぼ満点近い結果だ。
この数日間はケアレスミスや知識不足でのしょうもない減点が無いように重点的に自身の欠点を補っていた甲斐があったというもの。
対して園尾さんは……。
「……これは……?」
「…………散々でしょ?今回は難しかったの」
なんというか、それなりには出来ているものの細かな部分での粗が目立つというか、計算ミスやスペルミスなど少し注意すれば簡単に防げそうなものばかりで、平均点を遥かに超えてはいるものの、僕よりはかなり劣る結果になっている。
「園尾さん。手を抜いたりはしていない?」
「……まあ、勉強に集中出来なかったのは認めるわ」
あっけらかんと口にしている。負けたというのにどこか清々しい表情で笑みさえ浮かべているのだ。
「毎日……幸平くんがあたしに勝つために、あたしのことを考えて、あたしを好きになってくれていると考えるともう何も手がつかないの」
「それはまた……重症だね」
「そうね。どちらにしても付き合えるというのに、ほぼほぼ満点をとってくるようなあなたもそれなりじゃないかしら?」
「……そうだね。そうか、僕は園尾さんに勝ったのか……」
心の底から湧き出てくる熱いものがある。
それは自分でも抑えられないほどに熱く、僕を内側から焦がしてしまうほどの衝動だった。
こちらを見据えて言葉を待つ彼女にも応えなければならないだろう。
「……園尾さん、僕の勝ちだ。君を愛してる。
僕のものになってくれるかい? ……いや、僕のものになってもらうよ」
「……幸平くん、あたしはずっと……
ずっと前から、あなたのものよ。
心も身体も、あなたに捧げるわ」
彼女がぺこりとお辞儀をして、そう宣言してくれる。
……ようやく、僕が欲しかったものを手に入れた気がする。
これまでどうにかして心のうちの空洞を埋めようとして、色々なことをしてきたと思ったけれど、それを埋める最後のピースが揃ったような気さえしたのだ。
「やった……! 僕は、君を……彼女にできたんだね」
「ええ、園尾翠はあなたのものよ」
「ふ、ふふふ……そうか、園尾さんが僕の……。
嬉しいな、自分でも驚くほどに嬉しい」
「……ねえ、せっかくだし、お祝いしてあげましょうか?」
すると、対面の園尾さんが僕の方へと近寄ってきて、僕を立たせるように促す。
何をする気なんだろうと思っていると、
園尾さんが僕の顔にそっと手を添えて、こちらを深く見つめてくる。
そして、僕にその顔を近づけて……。
柔らかく、口づけをした。
「……あたしの全てはあなたのものよ。
これからはなんだって、あなたの好きにしていいの。
キスも、抱きあうことも、それ以上も」
「……はは、ははは! それは素敵だねぇ。
今、ようやく僕にも理解できた気がするよ。
もう絶対に離さないよ。園尾さん。
僕は君を愛してる、君は僕のものだ」
今度はこちらから彼女を引き寄せて、優しく、
しかし絶対に離さないように抱きしめる。
彼女は抵抗することなくそれを受け止めて、そして僕の背中に手を回してお互い抱きあった。
「園尾さん、これからは翠と呼んでもいいかい?」
「幸平くん。あなたにそう呼ばれるのをずっとずっと待ってたわ」
二人して向き合って、今度はこちらから唇を重ねた。
こうして、僕は翠を自分のものにしたのだ。