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君を自転車で轢いた後 ※完結済み  作者: じなん
第十四章 燃える炎のように
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第九十話 消えない炎


 わくわくとしながら明日を待つ。

こんな気分になったのは随分と久しぶりな気がする。

そういえば僕は昔はもっと活発な子供で、四六時中何か面白いことが無いかとかけずり回っていたような気がする。



「……楽しみだねぇ、園尾さん。明日からは僕も本腰を入れて勉強に励むことにするよ」


「あら……あたしに勝てると思ってるのかしら?

木石くんにしては中々無謀な提案だったわね」



 寝袋に半身を入れて二人で向き合って語り合う。

言葉では挑発的ではあるものの、二人とも顔はにこやかでとても楽しい気分だ。



「……僕のやる気を引き出させたのは、君が初めてかもしれないねぇ」


「……そうなの?」


「不思議なもんでね。君に負けると思った時に何故だかとても悔しくなったのさ」


「好きな人には情けない姿を見せたくないものよ」


「そうなのかねぇ……うん、そうかもしれないね。

なんというか……前時代的ではあるけど、男が廃るというのはこういうことなのかもねぇ」


「かっこいいわね。絶対に吠え面かかせてあげるわ」



 にっこりと笑顔で言われて、こちらも笑顔で返す。

その日の夜は気分が高揚していたものの、何故だかとても安らかに眠れた。




 翌日は昨日が嘘のようによく晴れた日だった。

キャンプの日程を一日ずらすべきだったなぁと考えつつも、彼女と過ごした休日は予想以上に楽しかったので結果としては大正解だっただろう。


 それに、僕にも目標と言えるものができたので、これは居ても立っても居られない気分だ。



「さてと……おはよう園尾さん。片付けて……。

一緒に銭湯でも行かないかい?」


「あら……良いわね。さっぱりしてから改めて勉強会ってのもどうかしら?」


「敵に塩を送るなんて随分と余裕じゃないか。

でもその提案にはありがたく乗っておくよ」



 二人で笑いあいながらテキパキと片付けをして、キャンプ場を後にした。今までのどこか距離を置いていた関係が嘘のように、二人の会話に明かりが灯ったような気がする。

もしかしたら僕が求めていたのは、こういう競い合えるような友人だったのかもしれない



 その足でスーパー銭湯に行き軽く軽食を食べてからゆっくりと汗を流した後は、一旦解散して家に帰ってから図書館で勉強会をすることになった。


 なので、お風呂から出て彼女を待っているのだが……。



(……遅いねぇ。まあ仕方がないか)。



 女性は身支度が大変でお風呂が長いと聞く。

すると、ようやく僕に園尾さんが話しかけてくれた。



「待たせたわね。良いお湯だったわ」


「気に入ってもらえて嬉しいよ。

僕もよく来るから今後は度々会うかもねぇ」



 お風呂上がりの彼女はいつも結んでツインテールにしている髪を下ろしていて、しっとりと濡れた髪と艶のある肌でどこか色っぽく思える。


 僕が勝負に勝てば、この人と付き合えると思うと自然と自分の中の炎の勢いが増したような気がした。

まあ負けても同じ結果なのだが、それは……何か違うのだ。



「綺麗だねぇ。園尾さん」


「……あなたは思ったことを口に出しすぎよ。

……ありがとう」



 少し照れた顔はほんのりと赤らみが増して可愛らしい。

……なんだか意識するとどんどんと彼女に入れ込んでいく気がする。



「じゃあ……また着替えて図書館で勉強しようか?」


「ええ、そうしましょう。荷物も置いてかないといけないし」



 別れて、家にさっさと帰り家族への挨拶もそこそこにすぐにUターンする。

父には、お前がなんだかやる気に満ちているのは子供の時以来で嬉しいよ、などと言われてしまった。



 園尾さんと無事に待ち合わせをして、図書館の自習室で勉強をすることにした。


 どうやら僕たちと同じ学校の人もいるようで、園尾さんの姿を見て少し色めき立つ人もいるが、なんとも鬱陶しいので少し目つきが悪くなる。



「木石くん。少しムッとしてるわね」


「……ああ、すまない。君を見る視線に少し不機嫌になってしまった。恥ずかしいところを見られたね」


「……ふふ、あたしとしては嬉しいわ」



 上機嫌になった彼女に手を握られて見せつけるようにしてテーブルまで急いだ。僕もささやかながら握り返す。



「さ、木石くんが私に告白できるように頑張りましょう」


「僕には出来ないとたかをくくっているね?

そんなふうな態度をとられると、絶対に勝ちたくなる」



 ムキになっているようで冷静に。怒っているようで楽しく。自分の中の埃をかぶっていた熱い想いが今になって燃え始めたようで、すいすいと勉強が進んでいく。



「………………」


「……素敵ね。今の幸平くん」



 何か聞こえたような気がしたが、集中していて耳に入らなかった。その日は前日に引き続き遅くまで二人でいて、何とも充実した休日を過ごせたと思う。


 ただ面倒でしかないと思っていた期末テストが、今のぼくにとっては待ち遠しいほど楽しみな行事になった。


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