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ゴミ出しの日

作者: 梨戸 ねぎ

初投稿です。

 俺は通っている大学が夏休みに入ったのをいいことに、同じ学部の友人とだらだらと通話しながらのオンラインゲームに興じていた。


 ゲームをプレイし始めてから何時間も経った頃だ。友人が一言


「ゴミを出してくる」


 と言ってマイクをミュートにして離席していった。

 俺も彼と同じで一人暮らしだ。収集日にしっかりとゴミを出す重要性は分かる。

 だが少々唐突だった為に碌な返事も返せなかった。

 まあそのうち戻ってくるだろう。

 ゲームの画面から一旦目を外して伸びをする。

 長時間同じ姿勢を続けていた為、身体のいたるところが凝っていた。

 ふと時計を見れば時計の針は午前二時の少し前。


「もうこんな時間か」


 そろそろ一度寝ないとまずいかもな。

 今日は昼から、先週から付き合い始めた彼女とのデートがあるのだ。

 彼女はとても美人な事で有名で、入学当初から学部中の男子の話題をかっさらっていたほど。

 それに頭も良く優しくて、そして誰にでも気さくに接する。俺には勿体ないような彼女だ。

 先程ゴミ出しに行った友人にも、彼女と付き合い始めた事を報告したがかなり羨ましがられた。

 そんな彼女の事を思い出してニヤついていたのだが、しかしどうしたことか友人がいつまで経っても帰ってこない。

 お互いの住んでいるアパートは歩いて行き来できる程度の距離にある。

 だからよく遊びに行くので分かるのだが、彼の使うゴミ捨て場はアパートの共用部分にあったはずだ。

 ゴミ出しなんて長くても二、三分で済むだろう。

 そしてその時間はとっくに過ぎていた。

 「おかしいな」と思い始めた頃。唐突に


ピンポーン


 俺の部屋のチャイムが鳴った。

 ギョッとする。こんな夜更けに誰が。

 出るのを躊躇っていたら、さらに


ピンポーン、ピンポーン、ピンポーン、ピンポーン


 連続して何度も何度も鳴らされる。

 深夜ということもあって俺は多少の恐怖を覚えた。

 無視しようかとも考えたが、このアパートの壁は意外と薄い。

 このチャイムの音も隣の部屋に聞こえているだろう。

 このままでは近隣の迷惑になる。

 不安を押し殺して、俺は恐る恐るドアの覗き穴から外の様子を伺った。

 そうしたらなんてことはない、そこには先程ゴミ出しに行くと言って離席した友人が立っていた。

 どうしたんだろうと不思議に思いながらも、つい先程まで一緒にゲームをしていた、見知った相手ということもあり俺は安心してドアを開けた。

 外のじめっとした空気と、夜だというのに気怠くなるような暑さが入ってきた。


「よう、どうした」


 友人に声をかけてから気づく。

 友人は普段から人によく好かれる、明るくて愛嬌に溢れている人物だ。

 だがいま目前にいる彼は無表情で、目には生気がなかった。


「どうした?」


 心配になりつつ、もう一度声をかける。すると彼は一言


「彼女は僕のものだ」


 と呟いた。

 突然の発言に俺は戸惑いを隠せない。

 彼女って、俺の?

 とりあえず


「こんな深夜に、なんの用で来たんだ」


 突然の訪問の理由を問う。

 彼の、普段とは違う様子から何か嫌なものを感じていた為か、俺の声は震えていた。

 ふと視線を下げると、彼が何かを持っていることに気がつく。

 左手に持っているのは自治体指定の何も入っていない透明なゴミ袋。

 そして右手には金属質で、

 重みのある、

 なにか棒状のもの。


「なんの用って」


 彼は感情の抜けた声で話しながら、右手に持っているものを振り上げる。

 明かりに照らされて、それがバールかなにかだと分かった。

 そして夏の夜の蒸し暑さが消えてなくなってしうまう位の、冷たい声で彼は言う。





「ゴミを出しに来たんだよ」




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