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ミラクルマンダッシュ!  作者: 木下源影
16/25

三すくみの平和


      16


「あ、そうだアリス」と春之介が言うと、アリスは薄笑みを浮かべて春之介を見た。


「動物の赤ちゃんを母親から奪っただろ?」と聞いた途端に、アリスは目を見開いた。


「あら、悪い子ね…」と優夏が言うと、「…お部屋にはいなかった…」とアリスがつぶやくと、「跳ね橋が下りたから森に帰ったと思う」と春之介が言うと、「…よかったぁー…」とアリスは胸に手を当てて安堵の笑みを浮かべた。


「あ、そうだ」とまた春之介が言うと、アリスは大いに困惑気な目で春之介を見た。


「名前だけどアリスでいいのかい?」と聞くと、アリスはまた胸をなでおろしてから、「もっと、強そうな名前がいいかなぁー…」とアリスは笑みを浮かべて言った。


「怪獣! 怪獣がいいわっ!」と優夏が勢い勇んで叫ぶと、アリスは優夏の高揚感に喜んでいた。


「それ、名前じゃないだろ…

 あとで意味を知ったらグレるぞ…」


春之介が真剣な眼をして言うと、「…強そうな名前…」と優夏は言ってまた考え始めた。


「…ふむ… エリカ…」と春之介がつぶやくと、「…強そうじゃないわよぉー…」と優夏は眉を下げてクレームを言った。


「そうかい?」と春之介は意味ありげに言ってにやりと笑い、半紙を出して毛筆で力強く、『鋭利夏』と書くと、「怖いっ!!」と優夏が叫ぶと、アリスは大いに喜んでいて、「…鋭利夏…」とつぶやいて、満面の笑みを浮かべた。


「…まあ、読んで字のごとく、すべてが鋭利だ…」


そしてまた半紙を出して、『優夏』と少々おどろおどろしく書いた。


「ユウカと読む」と春之介が言うと、「強そぉー…」と鋭利夏はつぶやいてから、満面の笑みで優夏を見上げた。


「…字体が変わると怖いわ…」と優夏は大いに嘆いた。


そして、『春之介』とごく普通の楷書で書くと、「うふふ…」と笑って、鋭利夏は春之介にしがみついた。


「…すっごく強いのに、やさしいお名前…」と鋭利夏は感情を込めて言った。


「それほど強くはないさ。

 俺以外が強ければそれでいいんだ」


春之介の言葉に、家族たちに大いに気合が入っていた。



朝食時はごく普通に過ごしてから、「旅に行く前に、映像を見て知っていると思うけど、目の当たりにしてもらおうか」と春之介が言うと、家族たちに大いに気合が入っていた。


春之介がゼルタウロスに変身すると、鋭利夏が釣られるようにダイゾに変身した。


頭から高く伸びる二本の鋭い角。


長い腕に長い脚。


その先の両手両足の爪はまさに凶器。


そして全身は灰色で、びっしりと硬いうろこに覆われている。


一番のチャームポイントは、口からしっかりと覗いている、上下二本ずつ、合計4本の鋭く長い牙だ。


さらには生物が一番恐れるものも持っていた。


すると一番に天使たちがダイゾにしがみついた。


よって子供たちは誰も怯えずに、天使たちとともにダイゾに触れ回った。


「鋭利夏の紹介は終わりだ」とゼルタウロスは言って春之介に戻ると、ダイゾも鋭利夏に戻った。


「さあ、行こう」と春之介が言うと、全員が一斉に頭を下げてから宇宙船に乗り込んだ。


もちろん、鋭利夏も旅に連れて行く。


子供たちの、「いってらっしゃーい!」という元気な声に、春之介たちは手を振って応えた。


鋭利夏は虹色ペンギンが気に入ったようで、春之介が単独で生命を吹き込んだペンギンを抱きしめている。


特に旅に出しても問題はないので、春之介は止めなかった。



いつものように少々面倒な星を二カ所回って、次を今日の最後に決めて、星を観察した。


星に降りて作業をする時間よりも、この確認の時間の方が長い場合もある。


予備知識が何もないので、これは当然のことだ。


「翼竜か、竜か、どっちだ?」と春之介がつぶやくと、「翼竜だったよ」と春子が答えた。


「危険を察知して星の裏に回ったな…

 退治はしたくないが、

 翼竜が猛威を振るうと、人間には身を守る術がないが…」


地上を確認すると、それなり以上に人間は住んでいるし、特に防衛をしているような生活様式ではない。


「この星は平和でしかないが、おかしいな…」と春之介は言って、この辺りの宇宙を探った。


ここに不幸があると察知して飛んできたので何かがあるはずなのだ。


「超高速航行体!

 速度、光速!

 30秒後に目の前を通過します!」


船長のミラルダの緊張した声が飛んだ。


「全く影響のない場所まで後退!

 様子を見る!」


春之介は司令官らしくすぐさま判断した。


船は一気に後退して様子を見ていると、目の前に彗星が通過した。


だが、その彗星から宇宙船が飛び出してきたのだ。


「同じ軌道を周回する彗星のようだな…

 それに便乗してここに飛んできて、

 翼竜狩りでもしているようだ。

 翼竜がやけに敏感だったのはそのせいか…」


「その通りでした。

 星に降りられなくできます!」


春夏秋冬の言葉に、「すぐに!」と春之介は即座に判断した。


「具体的には何やったの?」


「エンジントラブルっぽく見せかけてます」と春夏秋冬が答えると、春之介は少し笑った。


「降りるのはいいが、大気圏を脱出できないからな。

 地上の変化は?」


「何やら歓迎ムードでしたが…」と情報管理官のジャスミンが言って、その映像を出した。


「物資を提供してもらって、狩りを許しているようだな…」


「今回は違うようです。

 奴隷として人間を連れ去るようにという指示書が出ています」


春夏秋冬の報告に、「世直しにでも行くか…」と春之介は目を吊り上げていうと、「…パパ、怖ぁーいぃー…」と5人になった娘たちが一斉に言った。


「目の前の宇宙船をけん引してシールドを張って、やつらの母星に飛べ!」


「了解!」とミラルダは気合を入れて叫んだ。


高速で宇宙船に近づいて、アンカービームを放って絡めてから全体にシールドを張って、春夏秋冬が得ていた情報から、異空間航行で不埒な宇宙船の母星に到着した。


「宇宙船、切り放せっ!

 離れて様子を見るっ!」


宇宙船は超高速で後退した。


相手側のレーダー圏外だが、こちら側からはよく見えている。


切り離した宇宙船は躊躇なく母星の大気圏に突入した。


すると、モニターからあふれんばかりに、様々な悪行が露呈した。


「元に戻すのが大変だな…

 ここは援軍を呼んだ方がよさそうだ…

 奴隷にされている者たちの身が危険だからな…」


春之介はうなるように言ってから、源一に連絡した。


5分も待つことなく、春之介の宇宙船の周りには百隻ほどの宇宙船が整列した。


『海賊の星のようだ』と源一から通信が入った。


「ほかに出ている宇宙船もあると思いますが…」


『ああ、探し出して、すべて止めた』と源一はモニターを見ながら言った。


『手柄を横取りするようだが、ここは指揮権をもらうぞ!』


「はい、お願いします」と春之介はすぐさま答えた。


ここは百戦錬磨の源一に任せておけば、何の不手際も起きない。


まさにここからはスマートに、ほとんど戦闘をすることなく、現地人と奴隷たちを分断した。


そしてすべての科学技術を奪った。


奴隷たちの数が一万人もいなかったことが幸いして、数時間後にはすべてが終わっていた。


『この宇宙は何かと騒がしいようだから、

 全てを正すことにしたから。

 依頼の一覧を出すから、急ぎがなければ受けて欲しい』


「はい、明日から取り掛かりますので」


今日のところはここで解散となったので、春之介たちの宇宙船はゼルダの星に帰還した。


帰りが遅くなることは桜良から伝えてもらっていたので、子供たちは笑みを浮かべて春之介たちを出迎えた。



「今回はいい教訓になった。

 俺の部隊がどれほど強くても、

 大勢の仲間がいないと、

 俺たちは星に戻れていなかった」


夕食前の春之介の言葉に、誰もがすぐさま頭を下げた。


「…人質が多いと、分断することが一番大変だもんね…」と優夏は嘆いてうなだれたが、すぐに顔を上げて春之介を見た。


「最終的にはできたと確信した。

 だが、たった一隻で星に潜り込むことは危険極まりない。

 その時に援軍を呼んだとすれば、混乱は目に見えていたはずだ」


「…うう、そうだぁー…」と優夏はまた嘆いて大いに反省した。


「あのさ、今回と同じような件で大変なことになって、

 最終的には勇み足の部隊員の半数を失くしたことがあったそうだよ」


春夏秋冬の報告に、「個人的な冒険だったら、多少の無謀は許されるけどな」と春之介は気さくに言った。


「…そうそう都合よくいかないわよね…

 星全体に捕らわれの身の人がいたんだもん…」


春菜の言葉に、誰もが感慨深くうなづいた。


「特に、星の情報が何もないからね。

 まずはしっかりと調査してからじゃないと動くべきじゃない。

 だけど今頃は専門の機動部隊がこの大宇宙の調査を始めたはずだ。

 今回の件で、この大宇宙の平定は早いかもね。

 依頼書、出てる?」


春之介の言葉に、春夏秋冬はすぐに数十件の依頼書を宙に浮かべた。


もうすでに動き出している部隊もいるようで、数件は、『作業中』となっている。


「全軍、ここにきてるんじゃないの?」と春之介は大いに苦笑いを浮かべて言った。


「…機動部隊の9割が、この大宇宙にいるようです…」と春夏秋冬は眉を下げて言った。


「ゼルダが忙しくなりそうだ…」と春之介は眉を下げて言った。


「この辺りは平定が終わってるから、

 ここに近づく理由はないよ」


ゼルダの言葉に、「好きなように裁いてくれ」と春之介は眉を下げて言った。


すると春夏秋冬が首をすくめた。


「…源一様の雷が落ちましたぁー…

 機動部隊が半分に減りましたぁー…」


「本気で怒ったら、確かに怖そうだ…」と春之介は言って苦笑いを浮かべた。


「…ふふふ、安心して。

 春之介も同じだから」


優夏が機嫌よく言うと、春之介は大いに苦笑いを浮かべた。



そして春之介は夢見でも苦笑いを浮かべている。


「…世界の終わり…」と春之介はつぶやいてから、ゼルタウロスに変身した。


そして魂たちにお願いをしたのだが、この星を放棄したのか魂の数が少ないので、この天変地異を抑え込むことは不可能だと確信した。


ゼルタウロスは生の魂を探ったが、この辺りには全くいない。


しかし、ゼルタウロスがほかの星に飛ばされないので、必ずいるはずなのだ。


するとようやく一匹の虫を見つけて保護した。


大きさは小指の先もないほどの、テントウムシのような丸い昆虫だ。


するといきなり、人の子供の泣き声が聞こえた。


魂はなかったはずだが、今はこの辺りにある。


何か特殊なことをして、ここに姿を現したはずだ。


ゼルタウロスが岩の影にいた5才程度の少女に触れると、ほかの星に飛ばされた。


少女は泣きはらした目をゼルタウロスに向けて、辺りを見回してから、「…はぁー…」と息を吐いて、一滴の涙を流した。


そしてゼルタウロスを見て、「…救世主様…」とつぶやいて、天使のように手を組んで祈りをささげた。


「君と虫一匹しか救えなかった。

 それほど胸を張れるわけじゃないさ…」


「…そんなことはありません…

 私、虫さんを見つけられなかった…」


その虫はもういなかった。


新天地としてこの星が気に入ったのか、その姿はどこにもない。


「…さあ、せっかくだから俺の仕事の手伝いをしてもらうよ…」とゼルタウロスが言うと、「はい、救世主様」と少女は笑みを浮かべて言った。


少女は紛れもなく天使で、一点の曇りもないエンジェルリングを頭に掲げている。


「…名前は?

 ああ、俺はゼルタウロスという」


ゼルタウロスは言って春之介に戻ると、少女は目を見開いて春之介を見上げた。


「こっちの人間としては、八丁畷春之介と名乗っているんだ」


「ゼルタウロス様に、八丁畷春之介様」と少女は感情を込めて言って、祈りを捧げた。


「…あ、ボクはパンドラ…」と小さな声が聞こえた。


春之介は魂を探って、「小人がいたか…」と春之介は手を頭の上に挙げた。


「死ぬかと思ったよ!」と、春之介の手に包まれている緑色の服を着た小人が陽気に言った。


「今の姿だったら死んでなかったと思うけど?」と春之介が言うと、「…う、そうなの?」とパンドラは聞いた。


「結界を持っているはずだ。

 張っておけば、星がどうなろうと、

 とりあえず、命は助かったはずだ」


「…うう、そうだったぁー…」とパンドラは頭を抱え込んで大いに嘆いた。


「だが結界を張ってると、

 結界の種類によっては魂を探れないこともあるからね。

 今回の場合、虫になっていたことが大正解だったと思う」


「まだまだ生きられるぅー…」とパンドラが機嫌よく言うと、「陽気で何よりだ」と春之介は言って、少女の肩に妖精を乗せた。


「あ、私はコロネですぅー…」と天使は恥ずかしそうに自己紹介した。


「パンドラにコロネ、よろしくな!」と春之介は陽気に言った。


ここは海岸で誰もいないように見える。


「…まさか、今回は海洋生物か…」と春之介が少し嘆くと、沖合から大きな潮が上がった。


「クジラのようなヤツ…」と春之介が言うと、「…獰猛だと思いますぅー…」と春夏秋冬が体を震わせて言った。


すると、不自然な波が海岸に近づいてきて、巨大な潜水艦のようなものが浮上した。


「おい、こっちにこい。

 竜宮城に招待してやる」


巨大な黒い生物が言うと、「…食べる気満々ですぅー…」とコロネがつぶやいた。


「…ふむ… 魔力の気配…

 ここは慎重にならないと、

 災難に見舞われそうだな…

 言葉は発しない方がよさそうだ」


するとコロネとパンドラは両手のひらを口に当てた。


「じゃ、帰るから」と春之介が言ったとたんに、別の星に飛ばされて、今回は森の中だった。


「また行く必要があるようだ…」と春之介は大いに苦笑いを浮かべた。


「確かに魔力は検知できました」と春夏秋冬が言うと、「たぶんな、他力本願な術だと思う」と春之介は言って、その仕組みを説明すると、誰もが目を見開いた。


「…言霊を現実化する…」とコロネが嘆いた。


「もしあの場で、

 食いたけりゃここに来い、

 などというとな、

 砂浜に上がり込んできて食われたと思う。

 多分、相手の願いを叶える術のように思うね。

 だから帰ると言ったから、別の場所に飛ばされたけど…」


「ここって、ゼルダ様の星です…」と春夏秋冬が言うと、「あ、来た来た」と春之介は陽気に言った。


「春之介様だったぁ―――っ!」と緑竜の姿のフォレストが叫んだ。


「逞しくなったなぁー…」と春之介が言うと、「あはは、ありがと」と緑竜は照れくさそうに答えて人型に変身した。


「…さて、次に飛ぶ条件は、コロネとパンドラをフォレストに預ける…」


春之介が言ったとたんに、春之介が消えた。


フォレストたちは目を見開いたが、「あ、街まで案内するよ」とフォレストが陽気に言った。


「…悪いものは感じない…」とパンドラが言うと、「え? なになに?」とフォレストが大いに興味を持って聞いた。


パンドラが今あった事実を話すと、「討伐しないで救えるのかなぁー…」とフォレストは言って考え始めた。


コロネがパンドラを見て、「食料を持っていればできると思いますぅー…」というと、「あ!」とパンドラとフォレストは言って、笑みを浮かべた。



春之介はもといた海岸に戻っていて、大いに苦笑いを浮かべていた。


「ま、嫌だけどやるか…」と言って、異空間ポケットから人間一人分程度の食料を出した。


「おい! 投げて食わせろ!」と潜水艦が叫んだが、春之介は無言で首を横に振った。


「俺の小指程度の小人になってここに来い」と春之介が言った途端、「やられたぁ―――っ!!」と潜水艦が叫んで、まさに小人になって食料を食い散らかし始めた。


「たくさん食えてよかったな」と春之介が少し笑っていうと、「食えたからいいもん!」と上機嫌で言った。


「…だけど、負けたぁー…」と小人は言ってうなだれた。


小人は極限状態の空腹が収まったので落ち着いたようだ。


「おまえ、なかなか悪い奴だな…」と春之介が言うと、小人は食べ物をのどに詰まらせて、胸を何度も叩いてから、「…はぁー…」と深くため息をついた。


「…みんなが欲張りだからだよぉー…」


「おまえもじゃないか…」と春之介が眉を下げて言った。


「…もうね、多分、ボクってこのまま…」と小人は言ってうなだれた。


「だがまだ解決していない。

 解決すれば、さっきのように俺はここから消えるからな」


「そういうお仕事中なんだね。

 なんとなくわかったよ…」


小人は言って、ゆっくりと食事を再開した。


「あんたはそれなりの重要人物だ。

 だけど最悪の場合、討伐もあり得るんだ」


「…うん、それも覚悟した…」と小人は言ったが、食べることはやめない。


「…ここは、俺が命令しなきゃいけないのかなぁー…」と春之介は少し嘆いて言った。


「…家来になれとか言う…」と小人が言ったが、「それも考えた」と春之介は言って、海と逆側にある川を見た。


「この辺りには動物しかいない。

 ここに大きな農園を造ってやるから、

 ここで暮らせばいい。

 食べ物には困まらないはずだ」


「…その前に、僕が食べられちゃうよぉー…」と大いに嘆いた。


「ある程度は抵抗できるんだろ?

 お前の今の能力はよくわかっているはずだ」


小人は観念したようにうなだれて、「…その通りだよぉー…」とつぶやいた。


春之介はこの位置から農園を創り上げると、わらわらと動物たちが姿を見せた。



「あーっ!! ボクの農園なのにぃ――っ!!」と叫んで、食料を持てるだけ持って、残ったものは小さな術で砂のドームをかけて隠して走って行った。


「…連れ去れってか…」と春之介が小さな声で言うと、「…そのようですぅー…」と春夏秋冬が答えた。


「確実に悪さをして、悪魔な子供たちにいじめられるか、

 ゼルダにここに戻されるか…」


「…ここで教育しろってことでしょうか?」


「…たぶんな…」と春之介はため息交じりに言った。


「…だが、ゼルダほどに力があるようだ…

 俺のようにこの星自身なのか…」


春之介はすぐに探ったが、その事実はなく、ごく一般的な生物だった。


探ったことにより、この星の化身が海からせりあがってきた。


「…さらに面倒になったかぁー…」と春之介は大いに嘆いて、またクジラのような潜水艦のような黒い物体を見上げた。


春之介がすぐさまゼルタウロスに変身すると、黒い物体はゼルタウロスを見入って、『…グー…』と少しうなった。


「小人になったあの子って何なんです?」とゼルタウロスが挨拶なしに聞くと、「知らなぁーい…」と女性の声だが野太い声で答えた。


「ついさっきまで、あなたと同じ姿をしてましたよ?」


「あっ!!」とクジラは叫んで、半透明の触手を出して、農地にいた小人をからめとって引き寄せた。


「…幸運を祈っておこうか…」とセルタウロスがつぶやくと、「落ち着いてないで助けてぇ―――っ!!!」と小人が叫んだ。


「さっき言ったよな…

 最悪、討伐の対象になりうるって…」


「…うう…」と小人はうなって、拘束されたままうなだれた。


さすがにそれを目の当たりにして、冷静になれる者はそれほどいない。


「…誰?」と潜水艦が聞いたので、ゼルタウロスは大いに笑ったが、「君、名前ってないの?」とゼルタウロスが聞くと、「そんなものをつけたら縛られる対象になるじゃないか!」と叫んで、余計なことを言ったようですぐに口をつぐんでそっぽを向いた。


「…なかなか悪いヤツだと思います…」とゼルタウロスが言うと、「…うーん…」と潜水艦はうなって考え込んでいる。


「…名前…

 私の名前、あったように思うんだけど…」


潜水艦の言葉に、「その小人が盗んだのではないかと」と春之介が言うと、「…思い出したぁー… 私、ミリアムだぁー…」とうなるように言うと、小人は霧散した。


「…あーあ…

 かなりのリスクを背負っていた術だったようですね。

 名前を盗む代わりに自分の命を懸ける…

 もちろん、あなたの能力も盗んでいたはずですけど、

 多分元に戻っていると思います」


すると潜水艦はうなだれて、「…だけど、楽しかったかもしれない…」と言って、後退するようにして海に戻って行った。


「…まだ終わってない…」とゼルタウロスは言って春之介に戻った。


そしてすぐさま魂たちに協力を請うと、ひとつの魂が空から降りてきた。


「…この星の特徴的な生物…」と春之介は言って、またゼルタウロスに変身した。


「…かわいいからいいけど…

 みんなに馬鹿にされないかなぁー…

 まあ、ゼルダの星にも同じような子がいるからいいけど…」


ゼルタウロスは今回は動物の姿のまま、魂の入れ物を創り上げた。


するとすぐさま魂が定着して呼吸を始めたが眠ったままだ。



ゼルタウロスは今回は、よだれを垂らして眠っている優夏の顔を凝視して目覚めた。


―― 百年の恋も冷めそうだ… ―― と春之介は思って少し笑った。


そして、眠っている創り上げた動物を探ると、ゼルタウロスは納得してから春之介に戻った。


辺りを見回すとコロネもパンドラもいて、天使たちに抱きついて眠っていた。


「…今回は大漁だった…」と春之介は言って、パンドラと創り上げたブタを優夏に抱かせて外に出た。



厨房に行くと、もう真由夏が働いていたので朝の挨拶をしたのだが、その真由夏に元気がない。


「焦らずがんばれ」と春之介元気づけたが言ったが、眉を下げたままだった。


「真由夏の場合、神託のようなものはない。

 怪我をしないように頑張るしかないはずだ。

 あとは、パートナー以外の出会い。

 今回の夢見で新しい力を三人も手に入れたから、

 コミュニケーションを取った方がいい」


すると真由夏はすぐに笑みを浮かべて、「正夢かもしれない!」といきなり叫んだ。


「それ、たとえ俺であろうと言わない方がいい。

 真由夏の願掛けかもしれないからね」


真由夏は笑みを浮かべて首を横に振って、「ブタさんに乗った小人さんが、姉ちゃんご飯!って叫ぶの!」と陽気に言った。


「そりゃ楽しみだ」と春之介は満面の笑みを浮かべて真由夏の頭をなでた。



すると、食堂の方から声が聞こえてきた。


身支度を済ませた家族たちがやってきたのだ。


そして春之介の足元に黒い影が素早く駆け寄ってきた。


「姉ちゃんっ! ごはんごはん!」とパンドラが叫ぶと、真由夏は手を組んで、天にも昇るような顔をして宙に浮いていた。


「…ああ… 身長が伸びたわぁー…」と真由夏が少し嘆くように言うと、「いいや、違うぞ」と春之介は笑みを浮かべて言った。


そして真由夏は地面を見て、宙に浮いていたことを知って、飛び跳ねるようにして喜んだ。


真由夏は能力者として覚醒したようで、サイコキネッシスと飛行術が湧いて出たようだと春之介は理解した。


「正夢になった高揚感と、大昔の家族との再会か…」と春之介が言ったが、真由夏は聞いていなかった。


そして地面に降りて、ブタごと小人を抱き上げた。


「お名前は?」と真由夏が小人に聞くと、「パンドラだよ!」と陽気に答えた。


「あ、私は八丁畷真由夏!

 仲良くしてね!」


「ううん、姉ちゃんは勇者マユカだよ!」とパンドラが言ったとたんに、真由夏は古めかしい民族衣装をまとった姿に変身していた。


「…うう… ダンジョンにでも行けるような服装…」と真由夏は言って眉を下げた。


「…小さいけど、剣と盾がすごいな…」と春之介が言うと、「はは、飾りのようなものだけど、魔法道具だから…」とパンドラは答えた。


「…パンドラって刻んであるぅー…」と真由夏は盾の裏側を見て感慨深げに言った。


「姉ちゃんが助けに来るって言っていなくなったんだ。

 だけど、姉ちゃんの代わりに、春之介様が来てくださったんだ」


「…お兄ちゃん… 最高の贈り物だわ…」と真由夏は泣き顔で言って、春之介に抱きついてワンワンと泣いた。


「…それほどに感動するな…

 尚が焦るから…」


春之介の小声で諫めるような言葉に、「…そう、これはいけないことだわ…」と真由夏はまだ泣き顔のまま何とか喜びを抑え込んでいる。


そして、「配膳しまぁーす!」と陽気に叫んで、とんでもないスピードで配膳を終えた。


「さあっ! 召し上がれっ!」といつもの数千倍ほどの明るい真由夏が叫ぶと、誰もがあっけにとられていたが、「いただきます!」と叫んでから、まずは真由夏を祝福した。


「…勇者には違いないけど、いきなりハイレベルね…」と優夏が眉を下げて言った。


「志の高い勇者だったそうだ。

 そして俺にパンドラを迎えに行かせたってことになるね」


「森の妖精ちゃんね…

 あの子も、かなりハイレベルだわ…

 天使ちゃんのコロネちゃんもなかなかのものだし、

 一番驚いたのはブタちゃん…」


春之介は夢見の話をすると、「…なんだかすごいわぁー…」と優夏は陽気に言って、春之介の右腕を抱きしめた。


「もしどこかで間違っていたら、

 真由夏は勇者に戻れなかったかもしれない…

 そういう意味では、まさにすごいことだね」


「…だからこそ、尚ちゃんのように今は我慢の人もいる…」と優夏はかなり落ち込んでいる尚を見て眉を下げた。


「尚はまだいい方だ。

 時間がかかっても能力者の道は開ける。

 この先、ここに住む者たち全員が、

 そうなれるとは限らないんだから」


「いいえ、春之介が何とかするはずだわ!」と優夏は自信を持って言って、「あー、今日もおいしい!」と朝っぱらからの豪かな食事に舌鼓を打った。



今日は旅に出る前にフリージア星に飛んだ。


もうひとりの新しい仲間のダイゾの鋭利夏と同じダイゾの万有聖源と対面させるためだ。


聖源は源一を父と信じて疑わない。


源一と聖源の出会いは、源一が願いの夢見に出るようになってすぐの時で、聖源の願いが叶って連れ帰ってきたのだ。


元々能力が高く、人型にすぐに変身できるようになった。


この過程には、聖源の親友でもある、松崎源拓の存在が大きい。


源拓は松崎拓生が生みだした人造人間と言ってもいい存在だ。


そして万有レスターも、松崎拓生が生みだしている。


本題は桜良の夫としてレスターを生むことが本来の目的で、源拓はそのお試しだった。


お試しとは言えども、肉体や能力はレスターと源拓は何も変わらない。


源拓を生んだ方法としては、松崎の場合は肉体と魂までも創り上げて神として生んだ。


まさに松崎の最高傑作が源拓なのだ。



春之介たちがフリージア星の王都に宇宙船を下すと、その源拓が真っ先にすっ飛んできた。


そして鋭利夏ではなく、春之介が肉体だけを創り上げたブタを見入っていた。


名前はまだなく、「ブタちゃん」と親しみを込めて呼んでいる。


そして今気づいたように鋭利夏を見た。


「…なんか、すごいことしてもらったの?」と源拓が聞くと、鋭利夏は苦笑いを浮かべて首を横に振った。


すると聖源がダイゾに変身して翼を広げて飛んでやってくると、鋭利夏もダイゾに変身した。


源拓は遠巻きからダイゾの鋭利夏の背後に回って、「翼があるよぉー…」と大いに嘆いた。


聖源のダイゾ姿は一メートル80センチほどで、春之介とほぼ同じ身長だが、鋭利夏のダイゾ姿は3メートルを超えている。


「…聖源君はほとんど竜だね…」と春之介が言うと、ダイゾの聖源はにやりと笑ったような顔をして、「ありがとうございます」と、少したどたどしく言葉を発した。


鋭利夏のダイゾは、人語を話したことで、大いにショックを受けていた。


成長度合いとしては、聖源が数段上にいる。


「鋭利夏、もうよくわかったよな?」と春之介が言って、鋭利夏の太い足を軽く叩くと、少女の姿に戻った。


「…彼女がいることが残念ですぅー…」と鋭利夏が聖源を見たまま眉を下げて言うと、「それは残念だったね!」と春之介は叫んで少し笑った。


「…あのぉー… この変化はありえないと思うんですけどぉー…」と聖源は眉を下げて鋭利夏を見ている。


「母の愛を与えたんだよ。

 鋭利夏は優夏の母乳を飲んだんだ。

 というか、優夏が我慢しきれずに与えたんだよ」


「…翔春ちゃんも…」と聖源は言って翔春を見てうなだれた。


「花蓮、源拓におっぱいやれ」と優夏が言うと、「出ないわよぉー…」と眉を下げて答えた。


「ふん、お前はその程度か」と優夏が言って鼻で笑うと、「刺激するなよ…」と春之介が眉を下げて諫めた。


「強い子供たちやかわいらしい動物たちは

 おまえのただのファッションになっているんじゃないのか?」


優夏の言葉に、「勘弁してやって欲しい…」と源一が言って優夏に頭を下げた。


「本当に愛があるのなら、母乳など簡単に出るもんだ!」と優夏は叫んでから、「春之介、行くぞ!」と気合を込めて叫んだ。


春之介は源一と花蓮に頭を下げて、優夏に続いた。


「…私だって、ファッションだったことがあったから言ったの…」と優夏が小声で告白すると、「…なるほどね、適格だったはずだ…」と春之介は小声で答えた。



今回からの作業依頼については、すべてにおいて報酬が出る。


もちろん難易度によって高額になるので、カネが欲しい部隊は率先して高額報酬の依頼書を確認するのだが、どう考えても一筋縄ではいかないものばかりだ。


春之介は、その余っている高額報酬の依頼書を確認して、首脳陣と相談して決めた。


それをたった一時間で終わらせて、まだ残っていた高額報酬の依頼を一時間ほどで片付けた。


部隊員たちの能力がほぼ均等に上がったので、今までよりもすべての作業が早くなっている。


よって、普通の人間たちはついてこられなくなったが、依頼書が出ていないゼルダ星に近い星の確認に行った。


ここが一番簡単で、確認30分、実作業時間30分で仕事を終えて、丁度昼食時にゼルダ星に戻った。


春之介たちは子供たちとともに食事を摂って、サンノリカ向けの授業をすることになった。


対象年齢は10才程度で、学校の同年代の生徒も仲間に加えた。


まさにサンノリカは集中力が散漫で、本来の予定の半分ほどしか教えていないのだが、一時間半も異空間部屋にいた。


この持続力は予想外だったので、春之介の機嫌がいい。


ほかの子供たちも楽しい授業だったようで、いい復習になったようだ。


そして本題の鬼ごっこでは誰もが大声を上げて大いに喜んで、次々と行き倒れが発生したが、心地よさそうに眠っていた。


もちろん、春之介も大いに暴れたおかげで、十分に訓練になっている。


「…明日から参加しよ…」と一輝が言うと、恭司たちもすぐさまこの話に乗った。


「…だけど、すごいわ…」と南が言って羨望の眼差しで優夏を見ている。


さらには優夏のそばにいる待女のふたりにはライバル心を燃やしている。


フランシスもニ子もまだ人間でしかないが、超人の域はとっくに超えている。


特にフランシスはライバルの芽大琉としのぎを削っている。


実は芽大琉も優夏の待女にしてもらいたいようなのだが、春之介から指示がないので言い出せない。


もちろん麒琉刀に相談すると、「聞けばいいじゃないか…」と眉を下げて答えられていた。


「…私、きっと嫌われてるから…」と芽大琉が言うと、「そんなヤツはひとりもここにいない」と麒琉刀は胸を張って答えた。


―― …その通り… だけど… ―― と芽大琉は考える。


芽大琉は麒琉刀以上に春之介が怖いのだ。


しかし、何が怖いのかを説明できない。


まさにその存在感なのだが、春之介に叱られると思うと、泣くだけでは済まないような気がするのだ。


さらには、春之介が本気で怒った姿を見たことがないので、さらに不気味なのだ。


もし余計なことを言おうものなら、とんでもない雷が落ちると考えている。


よって、春之介に話しかけることすらできないのだ。


そこで芽大琉は妙案を思いつき、女の子たちの中心にいる天照大神に近づいた。


芽大琉はまだ何も言っていないのだが、「…叱られるわね…」といきなり天照大神にため息交じりに言われてしまってめまいを覚えた。


「…叱らないわよぉー…」とインゴレッドが眉を下げて言うと、―― そうだ、これだぁー… ―― と芽大琉はようやく理解した。


思考を読み取られてしまうことほど怖いものはないのだ。


しかし、春之介がそれができることは聞いていない。


よって余計にここのボスでもある春之介を脅威に思い、恐れていると納得した。


「…うじうじ考えてると、本当に叱られちゃうわよ…」と天照大神が自然に言うと、「…よーく、わかりましたぁー…」と芽大琉は答えて頭を下げた。


「自分で知ることが必要なの」というインゴレッドの心強い言葉にも大いに納得した。


「…尚ちゃんの件でも…」と芽大琉が言うと、「能力が沸くか、自己崩壊が先か…」と天照大神がつぶやいた。


「…尚ちゃんは間違ってるように思っているのです…」と芽大琉が言うと、天照大神たち神が会議を始めたので、芽大琉は居場所がなくなってしまった。


「…本来の性格が今の尚なのか、以前の尚なのかが大いに問題ね…」


天照大神の言葉に、「…以前は、比較的引っ込み思案で大人しい女の子… …今はその逆…」と芽大琉が言うと、「…初心忘るべからず…」と天照大神がつぶやくと、芽大琉は一瞬で理解した。


「男たちが一気に成長したおかげで、

 状況としては尚にとって良くなったの。

 それがなかったら、尚はここで居残りを食らったはずなの。

 確実に春之介に叱られてたはずよ。

 芽大琉ほど、尚が気弱だったら楽なのにね…」


「…はい、思い知りました…」と芽大琉は言って、神たちに頭を下げた。


そして芽大琉は、「よっし…」と少し気合を入れてから、何度も隠れて練習していた、優夏のアイドルダンスのマネをすると、女の子たちが羨望の眼差しで芽大琉を見入って、拍手を始めた。


そして芽大琉のマネをした。


そしてさらに女の子たちが熱狂的に興奮を始めた。


優夏、フランシス、ニ子が芽大琉の仲間に加わったからだ。


「385ステップッ!!」と優夏が主導権を握って叫ぶと、一気に雰囲気が変わって、さらに女の子たちは熱狂した。


さらには真由夏がオリジナル音源を流すと、ここはアイドルのライブ会場に変わった。


男の子たちはホホを赤らめて手拍子をしている。


「メルちゃん! センターッ!!」と優夏が叫ぶと同時に、「あなたの秘密を見てしまったからぁ~♪」と芽大琉が歌い始めた。


しかもその声がアニメ声だったことに、女の子たちはさらに熱狂した。


春夏秋冬が、架空のアニメーションの映像を背後に流すと、女の子たちは大いに興奮して歌って踊った。


ミニステージだが、素晴らしい音響効果と映像に、誰もが目を釘付けにした。


「…デビューさせようかなぁー…」と春之介は笑みを浮かべてつぶやいた。


「いいと思いますよ。

 試合の映像特典として付録にでもつけていただければ、

 人気は出るでしょう。

 これも復興の一環だと思います。

 子供たちが元気になれば、

 星の復興は終わったようなものですから」


浩也が手拍子をして笑みを浮かべながら言った。


「…芽大琉はアイドル名、メルなんだな…」と春之介が言うと、「…知らなかったぁー…」と変わってしまった我が妹を見ながら麒琉刀が感慨深げに言った。


そして春之介が魂たちにお願いすると、優夏たち4人はアニメーションと同じ服に一瞬で着替えたことに、「うわぁ―――っ!!!」と誰もが大いに叫んだ。


「戦闘服のようでよろしいかと」と浩也は言って、少し寂しそうな真由夏を見た。


すると春之介は真由夏にも同じ服を着せてもらうように魂たちにお願いして着替えが終わると、優夏が踊りながら真由夏を仲間に引き入れた。


「春菜はどうする?」と春之介が聞くと、「…さすがに恥ずかしぃー…」と大いに困惑して答えた。


「尚は?」と春之介が聞くと、尚は大いに考え込んだ。


―― 脱却、しなければ… ―― と尚は思い、優夏たちに向かって走っていた。


そして練習生のように、ステージの端の方で女の子たちとともに踊り始めた。


「真奈は?」


「さすがにないわぁー…」と真奈は嘆くように言って眉を下げた。


そして数名採用したメイドたちは尚に寄り添って練習生軍団も出来上がっていた。


「ユニット名を考えておかないとな…

 確実に言われる…」


春之介は言って、長い半紙を出して横に広げた。


そしてゼルダと相談を始めて星の名前が決まった。


『アニマール フロム アニマール』と達筆で書くと、それがそのままロゴになって、バックの映像に映し出された。


「星の名前とユニット名を同じにしたわけですね」と浩也が笑みを浮かべて言って何度もうなづいている。


「このアニマール星を目指す子がいればさらにいいと思ってね。

 大きくなってもきっと忘れないと思うから」


春之介は言いながらも、アイドルグッズをわんさかと創り始めた。


「廃棄物利用だとは誰も思いません」と浩也は言って、アニメのプリントをしているペンを手に取って見入った。


『春之介、申し訳ない、やってしまった…』と源一が春之介に念話を送ってきた。


「え? 何をです?」と春之介は聞いてから気づいた。


『影たちがそっちの映像の中継を始めてしまったんだ…

 首謀者は、花蓮さんの影の花子…』


源一の言葉に、春之介は愉快そうに笑った。


「オフィシャルグッズを送りますよ。

 今はこれで我慢してもらってください。

 社の中に入ってますから」


『ああ、申し訳ない… ありがとう…』と源一は礼を言って念話は切れた。


そして、春之介はグッズをひとまとめにラッピングして、女の子たちの目の前に置いて、カラフルなペンライトを振ってみせた。


女の子たちは全員が、アニマールの応援をするようにペンライトを振って喜んでいる。


曲が終わると、「コンサートは大成功だわ!」と優夏が陽気に叫ぶと、「優夏ちゃぁーんっ!!」と女の子たちは熱狂して叫んだ。


「さあ! 次はみんなもここにきて歌って踊るのよっ!!」と優夏は大いにハイテンションになっていて、女の子たちは全員ステージに上がって、涙を流しながら踊って歌った。


客席には男の子しかいなくなっていたが、ここはペンライトなどを振って応援した。


二曲目が終わると、天使たちは笑みを浮かべて眠りについていた。


女の子たちもそれに誘われるように笑顔のまま眠ってしまった。


「うふふ…」と優夏は笑って、子供たちを抱き上げて母屋に入って行くと、春之介たちもすぐに手伝った。



「満を持して、アイドルデビューが決まったな…」


春之介の言葉に、「アイドル名もグッズも…」と優夏は言ってひとつひとつ手に取って笑みを浮かべて見入っている。


「この宇宙はさらに良くなるはずだから」


「だけど、面倒な人が来るわよ」と優夏が言うと、「松崎様がなんとでもしてくれるはずだから」と春之介は余裕の笑みを浮かべて言った。


「あら? 恩をあだでは返せない…

 さすがに口出しするわね…

 次のコンサートは試合後にスタジアムでやればいいわけね?」


「ああ、それでいいよ」と春之介は答えて笑みを浮かべた。


「明日も復興に行くから、

 復習がてらミニコンサートでも」


「…きっと、みんなに喜んでもらえる…」と優夏は笑みを浮かべて言って、子供たちの幸せそうな寝顔を思い出していた。


「男の子用には、ロボットものの着ぐるみショーでもしようかなぁー…」


春之介の言葉に、男性陣は大いに眉を下げていた。


「前座で雇っちゃうぅー…」と優夏がつぶやくと、春之介は大いに笑った。



翌日はまずは高度に面倒な依頼書が出ている星に行って、簡単に復興しながらも、ミニコンサートをして子供たちに元気を与えた。


そしてそのあとは、今まで行った星に行ってミニコンサートを繰り返した。


もちろん、その星に見合ったグッツなども春之介が創り出して子供たちに渡した。


まさに、巡業のような星の復興に、アニマールの正規メンバーたちは心地良い眠りに誘われている。


「…アイドルもするぅー…」と桜良が言い始めたので、ここはレスターが眉を下げて事情聴取を始めた。


「まずは風呂に入れてやって欲しい…」と春之介が言うと、桜良は天使に変身して静々と任務の遂行を始めた。


もちろん、疲れ切っているアイドルたちを子供たちは放っておかない。


全員で協力して、女性をすべて風呂に移動させると、男の子たちは春之介たちを抱え上げるようにして風呂に連れて行った。



「ここにいてはいけないように思ってしまう…

 いや、ここにいられて幸せだというべきだ…」


松崎拓生は言って笑みを浮かべた。


この近辺の宇宙の空気がさらに良くなっていることを実感したのだ。


「この大宇宙に多くの魂たちが集まっています。

 これで何も心配はいらないと思います。

 まだまだ平和には程遠いですが、

 地盤固めはできました」


すると松崎が眉をしかめて、「母の悪い癖が出たが、一応断っておいた」と松崎が言うと、春之介は笑みを浮かべて、「ありがとうございます」と礼を言った。


「フリージア王都では、少々騒ぎになり始めている。

 アニマール・フロム・アニマールがいつ来るのかと、

 問い合わせが殺到したから、

 次の野球の試合の日と、源一が回答したそうだ。

 それっていつなの?」


「まだ正式には決まってないんです。

 新しいチームがふたつ名乗りを上げたそうで…

 現在はその確認を、ジュレさんたちドズ星軍が引き受けたそうです。

 早くても一週間ほど後だと思いますね。

 俺たちの試合は確実に組まれると思います」


「となると、興行主の源一に押し付けておけばいいだけか…

 源一はこの件に関しては代行を立てないんだ。

 全てを自分で目を光らせて興行をする意思を見せている。

 不手際があって、春之介たちに嫌な思いをさせたくないからだろうけど、

 少々神経質になり過ぎているような気もする…

 まあ、それが、あいつの誠意なんだろうけどな…」


春之介は笑みを浮かべて、何度もうなづいた。


「今、起きたところです」と春夏秋冬が言うと、春之介は源一に念話を送って、礼を言ってから、「あまり無理をされないように」と声をかけた。


『慣れたと言っていいほどだから、

 それほど気にしなくてもいいさ。

 観光地としてこれまでに様々なトラブルがあったからね。

 ほとんどが、思いもよらないことのオンパレードだった。

 ほんと、いい精神修行になってるよ…』


源一の言葉に、春之介はさらに労いの言葉をかけて念話を切った。


「…思いもよらないトラブル…」と春之介がつぶやくと、「たぶん、身内だよ」と松崎が眉を下げて言った。


「はは、そうだった…」と春之介は言って、源一からいきなり謝ってきた念話を思い出していた。


「今も突き上げが厳しいのかもしれませんね…

 天使のコロニーとしては、

 とんでもなく大きいので…

 ですが、フォーサ様が黙っていないと思うのですが…

 まさか…」


「そのフォーサが突き上げているのかもな」と松崎がさも当然のように言った。


「…ふむ…」と春之介は言って、この場所からフリージア星の魂たちにお願いをした。


すると、巨大なメスライオンが社に駆け込んで行った。


「…どこにいたんだ…」と松崎が大いに目を見開いて言うと、「彼女は猛春。ヤマ様の魂の中で暮らされています」と春之介が答えると、「…わからなかったはずだ…」と松崎は納得して笑みを浮かべた。


「ここでも仕事はありますが、

 今回は相手が少々大物なので出番が来たと思ったようです。

 猛春がどこまできるのかは不明ですが、

 魂たちも黙っていませんので、

 たぶん、静かになると思います」


ほんの一分後に、春之介にフォーサから念話があった。


もちろん、春之介に泣きついてきたのだ。


「ここは堂々とされるべきでしょう。

 フォーサ様が天使たちの長なのですから。

 一部の天使たちの反乱を恐れるあまりに、

 受け身になるのは納得できません。

 そういった者は、天使の資格はありません」


春之介のこの言葉と同時に、『…収まったぁー…』とフォーサが嘆くように言った。


そして、ここにいる天使たちも背筋が伸びていた。


だが、今日も遊びに来ている青空は笑みを浮かべている。


「青空ちゃんが余裕の笑みを浮かべているので返しましょう」


春之介の言葉に、青空の表情は一瞬にして曇ったが、俊介少年に手を引かれて社に入って行った。


「佐藤さんも援軍として行きましたから、

 何も心配ないと思いますよ。

 ちなみに、仕入れた情報によると、天使犬塚千代ちゃんが反抗的なのですよね?」


春之介の言葉に、松崎は大いに苦笑いを浮かべた。


「そこにいることがおかしいのです。

 ここは父親の松崎拓生様のもとで修行を積むべきだと思います。

 ここにおられるので、松崎さんに説教をしてもらった方がいいと思います」


『…すっごく嫌がってますぅー…』とフォーサはまた嘆くように言った。


「強い存在が現れては父親を代える。

 そんな子に天使の資格などありません。

 それに、松崎様は誰よりもお強いですよ」


『…本気になられたことはないと、認識しておりますぅー…』とフォーサも認めた。


「ここにいる天使たちもいずれは修行に出しますので。

 どうか末永くよろしくお願いします」


天使たちに震撼が走ったが、すべては春之介のためと、天使コロネは穏やかな表情で天使たちを諭した。


春之介とフォーサは友好関係をさらに確認して念話を切った。


「では松崎様、戦いましょうか」と春之介が言うと、「そりゃそうだよなぁー…」と松崎は嘆くように言って立ち上がった。


「…春之介がほめるほど強くないぞ…」と側近の五月大河がわが主の悪口に近いことを言ったが、「さあ、それはどうでしょうか」と春之介は大いに松崎の肩をもって言った。


春之介は少し気合を入れて立ち上がって、松崎と肩を並べて修練場に向かって歩いて行った。


この組み手は見逃せないと思い、誰もがふたりについて行く。


「訓練だから」と春之介がつぶやいた。


もちろん、この星の魂たちに言ったのだ。


よって、『手出し無用』と言ったに等しい。


もちろん神たちもすぐに監視網を張った。


この戦いは、松崎拓生の真の王の資格を得るための戦いなのだ。


松崎は歩くたびにその体が大きくなっていく。


組み手場についた時、春之介よりも低かった身長が、頭ひとつ大きくなっていた。


春之介と松崎は組み手場の中央に立って、静々と礼をした。


全く武道らしくない礼で、まるで営業マンのあいさつのようだった。


そして双方とも足を肩幅に広げた瞬間に、鏡合わせのように前蹴りを出した。


この力比べは松崎の勝ちで、春之介はトンボを切って地面に足をつけた。


「…おー…」と誰もが少し緊張を解いてうなり声を上げた。


だが、松崎の顔に異変があり、その顔には、『強敵』と書かれていた。


一方の春之介は、自分の力をすでに知っているので、何も驚くことはなく平常心だ。


「…相性が悪いことはよくわかった…

 負けを認めたいところなんだが、

 ここは意地でも戦おう」


「はい、私もよくわかりました。

 この勝負は一瞬で決まってしまうかもしれません」


するとふたりは同時に前に出て、上半身に集中して掌底を放ち始めた。


ハンドスピードは同等だと誰もが察した瞬間に春之介が後方に吹っ飛んだ。


すると、松崎の素早い前蹴りがさらに三発放たれた。


春之介はすぐさま前蹴りをかいくぐり、間合いを詰め、また掌底を繰り出す。


するとまた春之介は飛ばされたのだが、今度は松崎も同じ方向に飛んでいた。


春之介が松崎の足を取っていたからだ。


春之介は身をねじって右方向に松崎を放り投げ、すぐに追いついたのだが、また松崎の足が来た。


よってまた春之介は足を取って、体をねじって放り投げる。


ふたりの組み手は春之介が言ったことと逆で、もう30分経過していた。


しかし、双方とも息が上がっていない。


春之介が攻めあぐねているのは、松崎が自分の弱点をよく知っているからだ。


決してフックや回し蹴りを使わず、まっすぐにしか攻撃しないのだ。


これだとバランスを崩すことはかなり難しいし、さらに踏み込むと逆に捕まってしまう。


この素晴らしい組み手に、「終わりよっ!」と優夏が威厳をもって叫んだ。


「…助かったぁー…」と松崎と春之介が同時に言って、ふたりとも地面に倒れた。


「うふふ… 私が一番強いわ!」と優夏が機嫌よく言うと、誰もが眉を下げていた。


「だけどね、私も今と同じような戦い方をしたはずだわ。

 焦って間合いに入り込むと、

 確実に拓生に仕留められることがわかっているから。

 だから、拓生の方が一枚上手なの。

 その方法は、教えてあげないわ!」


優夏の言葉に、―― それを知りたい… ―― と、特に猛者たちは同じように考えている。


すると天使たちと子供たちがふたりを抱え上げて風呂に連れて行った。


「…決着を観たかったが…

 いや、怪我では済まなかったかもしれない…」


五月がつぶやくと、「しびれを切らせていれば、春之介は確実に負けていたわね」と優夏はさも当然のように言った。


「今ほど強い相手が立ちふさがっても組み手じゃないから、

 簡単に突破できるわよ。

 何しろ、大勢の仲間がどこにでもいるんですもの」


「…大勢の、魂だけの仲間たちか…」と五月は少し悔しそうにうなった。


「春之介と神たちが抑え込んでたの。

 訓練だと言い聞かせてね」


「組み手では松崎さん。

 実戦では春之介君が強い…

 ですが、これでいいのでしょうか?」


浩也の疑問に、「源一が黙ってないわよ」と優夏が言うと、「…それは怖そうだ…」と浩也は言って納得した。


すると優夏から源一が飛び出してきた。


「ここで見てればよかったのに」と優夏が言うと、「別にかまわないさ」と源一はさも当然のように言った。


そして何かをやったが、確認できたのは優夏だけだった。


優夏の長い髪だけが、首に絡みつくように揺れた。


「種明かしするんじゃないわよぉー…」と優夏が言うと、「気づいてないからまだまだだ」と源一は言って、この場にいる全員を見まわした。


「源一だったらどう戦うの?」


「今の戦いと同じだろうね。

 最終的には泥仕合で、

 スタミナがある方の勝ち。

 だからそこまでやった場合、

 春之介が一番強いと思う」


「うふふ…」と優夏は機嫌よく笑った。


「魂の根本が動物だから、

 人間の技が同等だと、誰にも負けないだろうね。

 ちなみに、優夏は春之介と戦わないのかい?」


「…本気になる私が嫌なの…

 だけど、お遊び程度ならやっておくべきね。

 私って、唯一神のようだから」


優夏の言葉に、源一は大いに苦笑いを浮かべていた。


「よく石人形を壊さなかったなって納得もしたよ…」と源一はあきれ返って言った。



風呂から上がってきた春之介と松崎は、源一と三人で、これからの様々なことを語り始めた。


その話の中で、ここに源一の子供たちの誰かを修行に出したいと言ってきた。


「ここに来たがるのは聖源君でしょう」と春之介がさも当然のように言うと、「…何度もにらまれた…」と源一は眉を下げて言った。


「この星は、動物たちのにおいしかしませんから。

 動物だったら当然だと思います。

 だからあえて動物を持った子を連れてくるか、

 動物嫌いの子を連れてくるか…」


「…動物が嫌いというわけではないが、

 なぜか神はそれほど動物をかわいがらない。

 だが、天照たちはそうでもない…」


まさに、幼児化している天照大神たち神は、小動物たちを抱きしめて喜んでいる。


「…源拓君ですか…

 ですが彼は、松崎様にお願いした方がいいように思いますね。

 もちろん、ずっとじゃありません。

 松崎様が心底源拓君を認めた時、

 好きに行動してもらっていいように思います。

 仲間から離れてひとりになった源拓君の行動に興味があります」


ここは考慮することに決めて、「ほかは?」と源一が聞くと、「水竜アリス」と春之介が答えると、源一は大声で笑った。


「もちろん、受け入れるのはアリス様だけですから。

 水竜部隊は今まで通り仕事をしてもらってください。

 興味を示すか示さないかだけでも興味があります」


「…ビルドが持てあましているのも事実…」と源一は言って何度もうなづいている。


「ビルド様はいずれここに来てもらってください。

 少々長期になると思いますので、

 時間がある時にでも。

 その時は、春子を代わりに出しますので」


「…ハイレベルな会話ができて何よりだ…」と源一は言って納得して何度もうなづいている。


「あとは、心の中で甘えている…

 いえ、戸惑っている天使がいますね。

 半獣人のふたり…」


「パティーとサリー」と源一は眉を下げて答えた。


「サリーちゃんはマンモスのようですので構わないのですが、

 パティーちゃんは少々問題がありますね」


「ああ、犬だからな」


春之介は納得したようにうなづいた。


「天使ではいられないはずなのに天使でいる。

 少々無理をしているように思います。

 ここはローレス様や翔春のように、

 動物を消すべきでしょうが、

 獣人ではなく半獣人ですから、

 どうすればいいのか少々戸惑っています。

 彼女は天使を選ぶか動物を選ぶか、

 きちんと決めないと、ずっと今のままです」


ローレスも翔春と同じく、元は猫の獣人で、成長するにつれて動物の部分が消えて完全に人間になっていた。


そして松崎の妻でもある。


「…まずは二人を預かって欲しい…」と春之介は言って頭を下げた。


「まずはサリーちゃんがどうなっていくのか観察します。

 パティーちゃんを正しい道に誘う方法が見つかるかもしれませんので」


「…気づいてやれなかったことが悔しいな…」と松崎は言って、春之介に頭を下げた。


元はと言えば松崎が暮す地球の住処に、娘にした犬塚千代がリーダーの天使のコロニーにいた。


そしてどちらも氷漬けになっていた大昔の動物で、なんとか蘇生させたのだ。


現在、源一の王都のメイド長のペガサスのフィルもその仲間だ。


さらにはパティーとフィルは地球外生物だ。


「…実は、だな…」と松崎は眉を下げて言うと、「千代ちゃんも犬ですね?」と春之介はすぐに聞いた。


「…獣人ではなく半獣人だから、少々面倒なのかもしれないなぁー…」と源一が言うと、春之介はすぐに同意した。


「雑食、肉食獣が天使では、大いに無理がありますので。

 もちろん、草食獣も性格によっては天使にはなれないはずです。

 特に、体の大きい草食獣…

 サリーちゃんもその対象のように思うのです。

 三人は動物としてここで過ごさせましょう。

 特に千代ちゃんは、

 天使修行としてはそれなり以上の修行は積んでいるそうですけど、

 何かをうまく隠しているようにも思います」


「…思い当たることはないが…

 確実に何かあるようにも思った…」


源一がすぐさま春之介の意見に賛成した。


「かわいいって思わないわよ?」と優夏が言うと、源一と松崎が優夏に対抗するような厳しい目を向けた。


「それです」と春之介が言うと、ふたりはすぐにバツが悪そうな顔をした。


「優夏はすべてお見通しのようです。

 術ではない、何かを放っているように思いますね。

 多分俺も、優夏と同じように思うかもしれません。

 論理的に言うと、犬の変身は元はと言えば術」


「うっ!」と松崎と源一が同時にうなった。


「本来の動物ではないように思いますね。

 しいていえば、人間にとって都合のいい動物に似せたもの」


「…反論の言葉もない…」と源一は言ってうなだれた。


「…やはりマリアの… 愛美の呪いだったか…」と松崎が悔しそうに言った。


「なるほど…

 呪術だと、そう簡単には見破れないでしょうね。

 呪いがかかっているだけで、術を発しているわけではない。

 ですがそれを解いた時、千代ちゃんは消え去るようにも思います。

 しかし、このままにしておくのも問題かと。

 かなり面倒な、魔王のような天使が出来上がってしまうように思います」


「…なるかもな…」と源一はすぐに想像して同意した。


「春之介はさすがだわ。

 春之介を生んだママを大いに褒めなきゃ」


優夏の陽気な言葉に、春之介は大いに苦笑いを浮かべていた。



源一はその対象者三名の天使を連れて来ると、この場にいる天使たちの背筋が伸びた。


「呪いのせいだと思う。

 天使の威厳じゃないだろ?」


春之介が天使のリーダーのコロネに聞くと、一旦は首を横に振ったが、すぐに凝視して、「…似せたもの…」とつぶやいて不思議そうな顔をして小首をかしげた。


「いや、正確には天使には違いないけど、

 バックグラウンドにある呪いが湧き出ているはずだ。

 マジマジと観察してよくわかった。

 千代ちゃんとパティーちゃんは少々面倒そうだ」


「春之介、実は天使ではないがもうひとりいるんだが…」と源一が言うと、「天使以外はそれも武器にすればいいだけだと判断しています」と笑みを浮かべて答えた。


源一も優夏も納得してうなづいて、「勇者タクローはまさにうまく出世できた典型だと思うわよ」と言ってから、少し厳しい目をして千代を見下した。


千代は恐れるあまり体を震わせて、レッドの毛並みのミニチュアダックスフンドに変身した。


「全然かわいくない」と優夏は豪語した。


「ほら、動物たちが警戒を始めたわ。

 源一も拓生も平常心ではいられなかったはずだから、

 気づいていなかったわよね?」


「…気づいていなかった…」と源一は言って、優夏に頭を下げた。


松崎はいつもよりもかなり警戒してこの真実を目の当たりにして苦笑いを浮かべた。


「これは言っておくべきでしょう。

 花蓮様が知っていた可能性は高いと思っています。

 ですが、どうすればいいのかわからなかったと思います。

 そしてここに来ない」


「強制的に連れてくる」と源一が言うと、源一から花蓮が飛び出してきて、「…ついに、この日が来たのね…」と眉を下げて千代を見て言った。


「俺は動物ですので、仲間の見分けは簡単にできます」と春之介の言葉に、誰もが大いに納得していた。



「優夏、できると思うか?」と春之介がいきなり聞いた。


「死んじゃうかもしれないわよ?」と優夏が言葉とは違いにやりと笑って言うと、「あとで魔王になるよりはかなりマシだ」と春之介は答えた。


愛玩犬は大いにその体を震わせた。


源一と松崎の眼が釣り上がっているが、事情を理解してしまっただけに、反論の言葉を出せないし、行動にも出せない。


花蓮はこの状況を冷静に見守ることに決めたようで無表情だ。


「ちなみに、春夏秋冬にはどう見える?」と春之介が聞くと、「あっ」と源一が言ってすぐに報告を受けた。


「…魂のある人形…」と春夏秋冬はつぶやいた。


「少々面倒ですけど、人形を本物にします。

 そうすれば、千代ちゃんの性格はたぶん変わるでしょう。

 さらには今よりも天使のランクは上昇して、

 変身する動物を自分自身で何とかできるほどに能力が上がるかもしれません。

 もしそうなれば、サリーちゃんは千代ちゃんに任せてもいいと判断します。

 パティーちゃんは千代ちゃんと同じようなことをする必要があるはずです。

 タクローさんは今のままで構いませんが、

 フィル様は余計なものをもう消し去っているように思います」


「…フィルはもう答えを出していたのか…」と源一は嘆くように言った。


「ペガサス以外に変身できなくなっているように感じます。

 何度か会って、ほかには持っていないように感じていましたので。

 ペガサスの能力の高さが、自然に呪縛を断ち切ったように思うので。

 たぶん、フィル様自身にも消えた理由がわかっていないかもしれません。

 フィル様と同じ星出身のパティーちゃんは、

 フィル様にお任せしても構わないように思います」


「…そうだ… あの箱…」と源一はつぶやいた。


松崎と源一が住んでいた地球に、ある星からの贈り物の空飛ぶ大陸がある。


あることが原因で、空を飛べなくなった大陸は南極大陸で座礁した。


それを復活させ、今は博物館として海の上に浮かんでいる。


その遺跡の産物として、動物の絵が書かれている宝箱のようなものがあった。


それをフィルとパティーに近づけたとたんに、動物だったその体が、元の人間の姿に戻ったのだ。


よって同じ呪縛の術を受けていたと言っていいはずだ。


「動物のようなものだけを消せないの?」と優夏が聞くと、「魂に関与しているから、その記録ごと消し去られてしまう可能性があるんだ」と春之介が答えた。


「このままにしておくと、天使で魔王。

 どっちにしても不幸でしかないわね…

 春之介の前でいいたくなけど、

 転生してもそれは成功だと思いたいわ…

 術者は素晴らしいなどと思ったようだけど、

 後のフォローがなってないわね…」


「…すまん… その件については俺も仲間だ…」と松崎が言って頭を下げた。


その昔、罪人だった勇者タクローがまだ人間当時、当時イエスと呼ばれていた松崎が戒めのため、罰として犬の姿で不死の力を授けていた。


その日から二千年が過ぎていて、タクローはとんでもない優秀な勇者となっている。


千代はまた別の術者によって動物に変えられていた。


「あ、でしたら、ちょっと失礼…」と春之介は言って魂たちにお願いした。


すると春夏秋冬がその術を解析した数々の画像を宙に浮かべた。


そして千代の愛玩犬の呪術についても解析して、「簡単だな…」と優夏は胸を張って言った。


すると春之介の腕に、千代と同じ姿の愛玩犬がいて、「ふん」と優夏が鼻を鳴らしたと同時に、春之介が抱いていた方が消えた。


千代である愛玩犬は目を見開いて立ち尽くしている。


するとたくさんいる動物たちが愛玩犬に寄り添って、祈るようなポーズを取り始めた。


「…全くの別物だと今気づいた…」と源一は愛玩犬を見入って言ってから笑みを浮かべて、春之介に頭を下げた。


優夏にも頭を下げたが、もうすでに愛玩犬をかわいがっている。


「犬の処分は、千代ちゃん自身の修行…

 落ち着いて判断して決めてもらいましょう。

 変身しなくなれば、そのうち忘れてしまう可能性もありますし、

 邪魔だったらフィル様のように消してしまうことも考えられます。

 あと、タクローさんですけど、

 本来の犬にした方が、犬の能力が上がります。

 今と同じように施術をする必要がありますので、

 本人に確認してもらってください」


「いや、だが、タクローさんは特殊な変身もあるんだけど…」と源一は大いに戸惑いながら言った。


「調べさせてもらいます」と春之介は言ってから。また魂たちにお願いすると、戻ってきたばかりの猛春がまた社に入って行った。


春夏秋冬がタクローの術の一部を映像として表示すると、「勇者、人間、動物、そして虫… 神を超えている生物ですね…」と春之介は言って眉を下げた。


「タクローさんは勇者になった時点で、

 呪縛が切れていたようです。

 今は普通に動物でしかありません。

 勇者の高い能力が、呪縛を消し去ったのでしょう。

 まさに俺が千代ちゃんにやったことを無意識でやったように思います」


「…基本的には欲を持ったヤツだから、全く気付かなかった…」と松崎は言って苦笑いを浮かべた。


「見返りの期待欲ですね。

 人間と動物の欲が入り乱れています。

 ですので周りはかなりの欲張りだと感じていたはずですが、

 本人としては人間と動物の分散した欲なので、

 それほど欲を張っているようには思っていないはずです。

 もちろん、後ろめたさはあるようですので、

 十分にわかっているようですね」


優夏に抱かれている愛玩犬はタクローの全てを知って目を見開いている。


『…クゥーン…』と悲しそうに鳴くと、「あんたは普通の女の子だった。だけどタクローは違ったの」と優夏が諭すように言うと、愛玩犬は千代に戻った。


「…うふふ、いい面構えだわ…」と優夏は言って千代から体を放した。


「…高位大天使まで一気に急上昇したか…」と源一は言って千代を見てを眼を見開いた。


「私は恥ずかしいです、優夏様…」と千代は穏やかに言って優夏に頭を下げた。


「あなたの長い修行だったの。

 それは認めてあげなさい」


「はい、優夏様」と千代は満面の笑みを浮かべて言った。


「…白竜にはまだ遠かったわね…」と優夏が言うと、「ははは… それはちょっと厳しいよね…」と春之介は言って苦笑いを浮かべた。


「だけど、フォーサには謝った方がよさそうよ」


優夏の言葉に、「はい、優夏様」と千代は穏やかに言って、謝罪と懺悔の祈りを捧げた。


「…はは、天使の存在感の違いがよく分かったと思う…」と春之介は言って眉を下げた。


「時には遊びに来て、ここの天使たちにも教えを説いて欲しいの。

 青空ちゃんと入れ替えでもいいわ」


優夏の言葉に、「相談して決めましょう」と千代は穏やかに言った。


「ところで、彼氏の件だけど、今の気持ちは変わってないのかい?」


春之介の言葉に、大いに興味があることだったようで、全員が目を見開いて千代を見た。


「…今すぐにでも、会いたいですぅー…」とここは天使のかわいらしさを大いに出して呟いた。


「どうやら大成功だったようだね」と春之介は笑みを浮かべて言って何度もうなづいた。


「ビルド様は大いに見る目があったようですね」


「…うっ… あの火竜が彼氏…」とさすがの優夏も驚いていた。


「千代は胸を張ってビルドと付き合えるはずだよ」と源一は明るく言って春之介と肩を組んだ。


「…目が覚めた気分だ…」と松崎は言って春之介と肩を組んだ。


「…うふふ… この大宇宙はもう安泰だわ…」と優夏が少し陽気に意味ありげに言うと、三人の体が大いに震えていた。


「源一と花蓮もこの星の近くに住まない?

 もちろん、フリージアを監視しておく必要があるけど、

 部下たちをレベルアップすることは重要だけど…」


優夏の言葉に、「この大宇宙に本拠を置けば、ほとんど全てを見渡せる」と源一は胸を張って言った。


「都合よく存在してないだろうけど、

 過ごしやすい星を探しておくわ。

 なんだったら、星をひとつ創ってもいいほどよ。

 桜良先生には申し訳ないけど」


優夏の言葉に、桜良は超高速で首を横に振った。


「それ、もう何カ所もあるんだよ…

 動物だけが住む星…」


春之介は人探しの夢見で、春夏秋冬が5カ所ほど無人星の特定を終えていた。


さらにまだ所在不明の星もあるので、すべてを含めれば候補は20ほどある。


「この大宇宙は比較的人間にまで成長できる生物がいないようなんです。

 ですが今は変わってしまいました。

 この先大いに繁栄する前に、移住されることがお勧めです。

 平和を維持するために、

 王族すべてに星を与えてもいいかもしれませんね。

 下手に侵略されるよりもかなりマシなので」


「帰ってすぐに会議にかけるよ。

 俺としてはこの大宇宙を本拠に決めた!

 いいな、花蓮!」


源一が堂々と言うと、「…それでいいわよぉー…」と花蓮は大いに眉を下げて答えた。


「気合を入れた俺がバカみたいじゃないか…」と源一が眉を下げて言うと、「私はそんなことよりもやることが多いから」と花蓮は言って優夏を一瞬にらみつけてから消えた。


「…さらに差をつけられて悔しいそうだ」と松崎が言うと、「…悪魔と悪の差かなぁー…」と優夏は言って春菜を見た。


「悪魔のような悪でごめんなさい」と春菜が謝ると、「今はそれほどでもないわよ」と優夏は陽気に言った。


「…悪は手のひらを反すように改心する。

 しかしそれは不幸の裏返し…」


松崎の厳しい言葉に、「今のうちに私たちの退治方法を探っておいた方がいいわよ」と優夏は挑戦するように言った。


「そんなもの、大したことじゃないさ」と松崎はごく自然に言って、春之介と組んでいた肩から腕を放した。


「俺の、本来の得意なものを解放すれば、一瞬にして終わる」


「あら、どれほどの修行を積んだのかしら…」と優夏は言いながらも冷や汗が流れている。


春之介はすぐにでも止めようと思ったが、止めてはいけないと思った瞬間に、ある記録が頭に過った。


「…ですが、悪魔たちもすべていなくなりますけど…」と春之介が言うと、松崎は大いに目を見開いた。


「…それは、確認してなかった…」と松崎は言ってうなだれた。


春之介は優夏を見て、「天使の浄化の焔よりも悪滅の術よりも、さらに高度な存在感だよ」と言うと、「…それは経験していないぃー…」と優夏は悔しそうに言った。


「え? 存在感?」と優夏が聞き直した。


「俺は動物だから助かったんだ。

 その瞬間、動物と虫と植物以外すべていなくなったんだ。

 そして、その存在感を持った人もね。

 まさに、自然界の怒りだったと、俺は理解しているよ」


優夏は一瞬目を見開いたが、「相性が最悪だったわ…」と言って松崎に頭を下げた。


「やはり、ここに住んではいけないようだ」と松崎は言って春之介に頭を下げてから、仲間たちとともに消えた。


もちろん、源一の所有する星ではなく、怪獣クレオが住んでいた星に行ったのだ。


この星であれば、ほぼ誰にも気兼ねなく過ごすことが可能だ。


「…もう、覚醒が終わって…

 いや、進んでいたのか…」


源一が嘆くように言うと、「今こそ、松崎様の件は源拓君に託すべきでしょう」と春之介が言うと、「お、おう!」と源一は気合を入れて答えて消えた。


千代たち天使はバツが悪そうな顔をしていたが、猛春が天使たちをフリージアに送って行った。


「…悪は悪でしかないのね…」と優夏が寂しそうに言うと、「悪はこの程度のことでうなだれない」と春之介が答えると、「それはそうだわ!」と優夏は叫んで陽気に笑ってから、動物たちと戯れ始めた。


「俺たちは深い絆で結ばれたが、三すくみ状態でもある。

 あとは万有様の覚醒待ち、と言ったところだね。

 フォレストの修行が終われば話は早いけど、

 最短でも数十年はかかるだろうなぁー…」


「源一が生を選ぶことを祈るわ…」と優夏が意味ありげに言うと、「…まあね…」と春之介は苦笑いを浮かべてすぐに答えた。


「あ、スパイが聞いてた」と春之介が言って、一輝と南を見た。


ふたりは、―― 意識して聞いてるんじゃなかった… ―― という顔をしている。


「そんなことを言うと嫌われちゃうわよ?」と優夏は陽気に言った。


「一輝さんよりも南さんの方がよくわかっていたようだね。

 驚き方が全然違って、納得したように見えた」


「一輝の方が見聞は広いはずなのに…

 南はピンポイントでその事実を知っていたのかしら…」


「似たようなことに遭遇したんじゃないの?

 特に星を破壊されると同じような感覚に陥ることは経験済みだから」


春之介の言葉に、「…もう星は壊しません…」と優夏はバツが悪そうに眉を下げて言った。


「実は夢見でそういう目にあいそうになったから、

 さらに経験を積めたからね…」


春之介の言葉に、「…懲らしめてやろうかしら…」と優夏は言って桜良を見た。


「エッちゃんの無意識下の願いのようなものだからね…

 誰も責められないことがいいのか悪いのか…」


「だけど、夢見で命を絶たれると、

 現実側も命を絶たれるって聞いたけど、

 それはないように思うんだけど…」


優夏が眉を下げながら言うと、「ないと言い切りたいところだけどね…」と春之介はあいまいに答えて苦笑いを浮かべた。


「だけど、俺の夢見に場合はないような気がする。

 条件が合わずに飛ばされなかったとして星が崩壊した時、

 肉体を失った魂はその場を漂って死後の魂になりそうだけど、

 本来の肉体に戻されるような気がするね。

 もっとも、死後の世界の住人の場合は、

 これに当てはまらない場合があるようにも思う」


「…そのまま昇天してしまうかもしれない…

 だけど人間の場合はそれが起こりにくいけど、

 魂が移動できない場所に閉じ込められた場合は死を迎える…」


「…うん、その場合は戻れないから、転生するだろうね…

 死後の魂はよほど厳重な結界でないと、

 簡単に抜け出るからね。

 その場に留まることはまずない」


「…だけど、心配になってきちゃった…」と優夏は眉を下げて言って、春之介の右腕を強く抱きしめた。


「…安心させられる言葉が見つからないね…」と春之介は戸惑いながらも言った。


「だけどね、ひとつ考えた」と春之介が言うと、優夏は眉を下げて春之介を見た。


「俺は動物から人間に進化しようとしているのではないかって思い始めたんだ。

 動物的勘も使って人間の知恵で危機回避をする。

 あのブタには大いに参ったよ…」


「…転生させるべきだったのね…」と優夏は言って、居眠りをしている愛玩ブタを見入って少し笑った。


「帰ると答えたらここに戻ったからね。

 当時のヤツの術がかかったと言ったところだ。

 そういう機転を利かせるような出来事が多くなっているんだ。

 だけどさすがに、星崩壊を目の当たりにしたくはなかったけど、

 ふたりも救えたからね」


「…うん、そうね…」と優夏は言って、優夏の肩の上で、こちらも転寝をしている森の妖精のパンドラに笑みを向けた。


「神話通りなら、パンドラは俺たちの希望だ」


春之介の力強い言葉に、「…きっと、そうだわ…」と優夏は穏やかに答えた。



「さて… 今夜はどんな夢だぁー…」と春之介は言って、比較的平和に見える田園風景を見まわした。


「あっ!」と春之介の肩の上で誰かが叫んだ。


「…そういうことかい…」と春之介は言って、パンドラを手のひらに乗せた。


「パンドラの修行」と春之介が言うと、「…はあ、まさかだったぁー…」とパンドラは言って眉を下げた。


「ま、いろいろと協力してほしい。

 悪いヤツとの遭遇もそこそこあるからな」


「うん! この近くにはいないよ!」とパンドラは自信満々に言って、右手をひさしにして辺りを見回した。


「…野菜泥棒、はっけぇーん…」とパンドラは眉を下げて言った。


「そう見えるけど、雑草を食ってるようだぞ」と春之介が言うと、パンドラはよくよく見て、「…仕事なのかなぁー…」と言って、ガチョウのような空を飛べそうにない鳥を見入った。


この辺りにいるのはその一羽だけで、仕事で雑草を食っているわけではないように思い始めた。


「さて、話をしてみるか」と春之介は言って、ゼルタウロスに変身した。


『仕事かい?』とゼルタウロスが聞くと、ガチョウは大いに驚いて、『食べないで!』と叫んだ。


まさにごく普通の反応だとゼルタウロスは思い、『ここから動かないさ。話をしたいだけだから』と言う言葉に、ガチョウは後ずさりしながら、『…なあに?』とか細い声で聞いた。


『雑草を食べていたのは仕事なの?』


『栄養分をたくさん含んでるからおいしいんだ。

 今日はここの人間は誰もいないから、

 追い出されることがないから…』


『じゃあ、心おきなく食ってくれ。

 …そうだ、ほかに何か面白い話ってない?』


ガチョウは急いで雑草をついばんで、『人間たちは何かをお願いしたいそうだよ。そのためにみんな出かけたようなんだ』と答えた。


『お願い、かぁー…

 それって、どんなお願いだと思う?』


『空から水が降ってない』


『じゃあ、君も困ってるんじゃないの?』


『水浴びはしたいけど、雑草を食べられるから別にいいんだ』


『水浴びができないほどに雨が降っていない…』とゼルタウロスは言って、ふわりと宙に浮かんだ。


すると、空気に湿度が多いと感じた。


遠くに雨雲らしき黒い雲が見えるが、この一帯が高気圧に覆われているようで、雨は振りそうにない。


地形の様子から、この辺りに雨が降らないのは、つい最近の地形の変動だろうとゼルタウロスは感じた。


どう見ても、崩れて荒れた山が多数確認できた。


そのあおりを食らって、この辺りでは雨が降らなくなったと推測できた。


『最近、地面が揺れたよね?』とゼルタウロスが言うと、ガチョウはすぐに辺りをも回して、『どこ?』と聞いた。


『上だよ、上』とゼルタウロスが答えると、ガチョウは翼を広げて驚いている。


『最近、大地が揺れたよね?』とゼルタウロスがもう一度聞くと、『うん、すごく揺れたよ… 森にいなくて助かったんだ…』というガチョウの言葉に、ゼルタウロスはピンときて、『ありがと、じゃ、いくね!』とゼルタウロスは言って、この辺り一帯の森めがけて素早く飛んだ。


「助けなきゃいけない人がいるんだね?!」とパンドラが聞いた。


「そういうこと。

 それが今回の目的だと思う」


ゼルタウロスは近くの森に降りてすぐに、魂にお願いして、生物すべてを救ってほしいと願った。


そして確実に食料と水が必要になると思い、日差しがある部分に小さな農地を造って、食料は確保した。


「水のにおい…」とゼルタウロスは言って、春之介に戻って、真下に向かって拳を落とした。


とんでもなく大きな穴が空き、水が湧き出てきた。


「…楽勝だった…」と春之介は笑みを浮かべて言うと、ふらふらになっている動物たちに、食料と水を与えた。


魂たちが気を利かせて、動物たちをこの場に誘ってくる。


その様子を見守っていたゼルタウロスが、「あっ!!」と声を上げた途端、別の星に誘われた。


ゼルタウロスはまずは身を隠した。


この辺りは生ごみのにおいが充満している。


古い雑居ビルの影に隠れてから、一気に飛び上がった。


屋上だが、外に出られる仕組みではないので、安心して身を隠せる。


「さっきの件だけど、一匹だけ変わった動物がいた。

 その動物を助けなきゃいけなかったようなんだ。

 パンドラは確認できた?」


「…死んでたら、森が枯れていたかも…

 …たぶん、覚醒前の仲間…」


パンドラのつぶやきに、ゼルタウロスは納得した。


「…じゃ、今度はここだ…

 大地もだけど、人間たちの心もすさんでるね…」


ゼルタウロスは不快感をあらわにして言うと、「下にいたらボクって枯れてたかも…」とパンドラは大いに眉を下げて言った。


「…ふむ…」とゼルタウロスは言って辺りを見回して春之介に戻って緑のオーラをこの屋上に充満するように放った。


「うおっ! ジャングルみたいになった!」と所々に芽吹いてきた草が一気に大きくなったので、パンドラは大いに喜んだ。


雨上がりなのか、所々に水たまりがあったのでちょうどよかったのだ。


ゼルタウロスが空を見上げると、「おっ ここは双子星のようだね…」とかなり大きく見える惑星を見入った。


「…はあ… だから荒んでるんだ…

 この星は流刑の星じゃないの?」


「…大いにありそうだ…」とゼルタウロスはすぐに答えた。


「正解です。

 多少の科学技術はあるようなので、何とかリンクが取れました。

 アニマールと同じ大宇宙にあって、対角線上に真逆の場所です」


春夏秋冬は言って、宙に宇宙地図の画像を浮かべた。


「さて… ここに来た理由は、

 早急に何かを処理する必要があるように思うけど、

 人の心がすさんでるだけで、変わったところは何もない…」


星の場所がわかれば目覚めてからここに来ることも可能だ。


だがゼルタウロスは次の星に飛ばされないので、まだここに使命があるはずなのだ。


すると、かなり遠い場所で何か大きなものが動いているように見えた。


「山が、動いてる…」とゼルタウロスは言って、大いに苦笑いを浮かべた。


目測でしかないが、体高100メートルほどは優にあるはずだ。


その巨大なものは甲羅を持った亀のように見える。


すると警報が鳴り始め、人々は大いに混乱した。


「…今までにこんなことはなかった…

 …食われる…

 ほかの場所のコロニーを食い尽くしたからここに来た」


「はい、多分そうです」と春夏秋冬が答えた。


「となると、守るべき者がここにいる。

 暗に罪人とは限らない。

 こっちの方が善人かもしれない。

 とりあえずは亀の歩みを止めよう」


春之介はまだ何もしていないのだが、亀の動きが止まったとたんにひっくり返った。


「術は飛んでいない…

 俺と同じことができる者がここにいる…」


ゼルタウロスがこの位置から魂たちを探ったが、地面から遠いせいかうまくアクセスできない。


だが数個の魂の話によると、口をそろえて、『強要された』と答えた。


「…それほど平和じゃないヤツ…

 だけど、それなりに冷静なヤツ…

 …無垢…

 …まさか、子供か…」


ゼルタウロスがつぶやくと、「その確率、95パーセントです」と春夏秋冬が答えた。


ゼルタウロスは逆利用しようと思い、魂たちに命令した者にわかりやすい印をつけてくれるようにお願いした。


「黄色い蛍光色の帽子…」とゼルタウロスはつぶやいて、―― 幼稚園児… ―― と思って少し笑った。


しかし、この星でファッションなどは無縁で、帽子をかぶっている者の方が珍しい。


ゼルタウロスは屋上から少し浮かんで眼下を見ると、帽子を脱がそうと必死になっている子供がいたので腹を抱えて笑ってから、その者を宙に浮かべて屋上の地面に立たせた。


女の子は目を見開いて、帽子を掴んだままゼルタウロスを見入っている。


「やあ、こんにちは」とゼルタウロスが挨拶をすると、「…動物がしゃべったぁー…」と目を見開いたまま言った。


「あのでっかい動物をどうやってひっくり返したの?」


「…えー…」と女の子は大いに嘆いたが、「…転がっちゃえって…」とつぶやいた。


そのひっくり返ったカメは、手足をバタバタさせているだけで起き上がれないようだ。


「今までに、あのでっかい動物を見たことがなかったんだよね?」


ゼルタウロスの問いかけに、女の子はこくんと首を折った。


「ずっとここに住んでるの?」


女の子は首を横に振って、「…昨日、ここに…」と悲しそうに言った。


「悪いことしてないよね?」


女の子は勢い良く首を横に振った。


「じゃあさ、どうしてここに連れてこられたって思う?」


「イタンジってなあに?」と女の子が聞いてきたので、ゼルタウロスは疑問に答えた。


「元いた星で、変わったことができたよね?」


「お人形を操って、お金をもらってたの…」と女の子がつぶやくと、ゼルタウロスは春之介に戻った。


女の子はかなりの勢いで体を引いたので、しりもちをついた。


「俺は八丁畷春之介」と自己紹介すると、「ミーニャ…」と女の子はつぶやくように言った。


春之介がかわいらしい人形を出すと、「操ってもらえない?」と言って渡した。


ミーニャはひったくるように奪ってから、笑みを浮かべて抱きしめた。


そして徐に、人形を地面に立たせたが、ミーニャは小首をかしげた。


「今はできないんだね?」


「わたし、嘘つきじゃないぃー…」と嘆いて、涙を流した。


「ここではできないんだよ。

 こんな高い場所でやったことないよね?」


「…あー、うん、ないよ…」と言って、なんとなくだがその理由がわかって、ミーニャはほっとしていた。


「じゃあ、ちょっと待ってて…」と春之介は言って、何とかアクセスができた魂たちに、このビルの上に集合してもらえるようにお願いした。


「お、来た来た。

 じゃあさ、できればお願いをしながら人形を操ってもらえるかな?」


「えっ? あ、うん…」とミーニャは答えて、人形の両腕を上げさせると、満面の笑みを春之介に向けた。


そして人形にダンスをさせたが、急に動かなくなった。


「お願いしないと願いは通じないから」


「あっ! うんっ!!」とミーニャは言って、「…おねがいしますぅー…」と小声でつぶやきながら人形を操った。



「さて… これからどうするか…

 まずは、地面に降りて、

 あのカメがここに来られないようにでもするか…

 だけど、ほかの町に行くだろうなぁー…

 それは大いに問題がある…

 だったら…」


春之介は言って、ミーニャを連れて地面に降りて、魂たちにお願いして、巨大な亀を中心にして高い壁を建ててもらった。


「えー…」とミーニャは大いに嘆いた。


そして、「魔法使い様ぁー…」とミーニャは言って、春之介を見上げて満面の笑みを見せた。


さらに町を出て、広大な空き地にタネを植えてから、川から水を引き込んで緑のオーラを流して、3世代ほど回した。


「食べて食べて」と春之介が陽気に言って、うまそうに実ったスイカのような果実を手刀で切って、ミーニャとともに食べた。


春之介は小さな扉を開けて、亀が動けるように元に戻した。


もちろん、春之介も食料なので、亀は食らいついてきたが、扉が小さすぎて顔を出すことが叶わない。


春之介が収穫物を扉に放り込むと、亀は喜ぶようにしてむさぼり始めた。


体の割には頭は小さく、それほど大食いではないと感じていた。


よって次から次へと収穫物を扉から放り込むと、5分程で食する速度が落ちてきた。


どうやら、ほぼ満腹に近いようで、このまま眠ってしまうようだ。


「…さてこの先、どうしよう…」と春之介が大いに眉を下げて言うと、ミーニャが春之介と手をつないだ途端に、別の星に飛ばされた。


全く文明文化のない星に来たので、ミーニャはまた目を見開いた。


「事情はあとで話すよ」と春之介が眉を下げて言うと、「魔法使い様だから…」とミーニャは言ってまた満面の笑みを浮かべて春之介を見上げた。



―― こんなことでいいのか… ―― と思うほどに簡単な依頼などを30カ所ほど渡り歩き、寝室で目覚めた。


ミーニャは眠っていて、春之介の右手をしっかりと握っていた。


「さあ、朝だぞ」と春之介が言うと、ミーニャはぱっちりと目覚めた。


仲間たちも起き出して、―― また連れて帰ってきた… ―― などという顔色をして春之介とあいさつを交わした。


「今回は俺の弟子」という春之介の言葉に、誰もが目を見開いた。


そういった存在が今までにいなかったことも不思議だが、ついに現れたといった感情だ。


「結局子供だからいいのぉー…」と優夏は言って、まずはミーニャを抱きしめた。


「…どことなく誰かに似てるわね…」と優夏が言いながら考えていると、「優夏に似てるんだよ」と春之介はすぐさま答えた。


「…うう、そうだわ… 私の三才児の時…」と言って優夏はスマートフォンを出してミーニャの顔と比べて、「よく似てるわぁー…」と感慨深く言って、またミーニャを抱きしめた。


「…夢だったの?

 あ、今もまだ夢なのかなぁー…」


ミーニャが嘆くように言うと、「いいや、現実だぞ」と春之介は言って、ミーニャの頭をやさしくなでた。


「…温かいぃー…」とミーニャは言って、一滴の涙を流した。


「…弟子って、なんの?」と優夏がミーニャの感情にあてられて泣きながら春之介に聞くと、「ミーニャも魂にお願いができるんだ」という言葉に、誰もが固まった。


まさに超人以上の能力者の出現に、ミーニャに嫉妬すらした。


しかし今のミーニャの感情から、ここに来るまでには不幸があったと考え直していた。


最低でも死の淵にいたことは確かだ。


「今日は予定を変更して、ミーニャが住んでいた星ふたつを家庭訪問する。

 場合によってはすべてを正す」


穏やかだが威厳のある春之介の言葉に、誰もが一斉に頭を下げた。


「あ、あと、信じられないほどの化け物が最低でも一匹いるから、

 覚悟しといて」


春之介が軽い感情で説明すると、―― とんでもない化け物… ―― と誰もが思い背筋を震わせた。



今回は一輝たちパラダイス軍も同行して、ミーニャが住んでいた双子星に飛んだ。


十分に情報収集をしてから、まずはミーニャが飛ばされた星の大気圏に突入した。


双子星とは逆側から侵入したので、相手側に全く知られることはなかった。


こちら側の星には衛星がないので、簡単なことだった。


そして巨大な亀は目覚めていて、また作物を食っている。


調べ上げていた通り、人間の住む場所と巨大生物が住む場所の分断を図るため、長く巨大な壁を造り上げる。


もちろん、怪物用に広大な農地も造り上げる。


だが困ったことに、この巨大な亀は水陸両用なので、海を渡って大陸の移動ができる。


よって海にも高い塀を築いた。


食べ物さえあれば、壁を壊すような暴挙には出ないはずだ。


その証拠に満腹になったようで、また眠りこけている。


こちら側の星の杞憂はほぼ去ったので、この星から双子星に交信すると、相手側は大いに戸惑った。


「おまえたちの代表を亀のエサにする準備がある。

 もちろん、それを容認していたやつらも同罪だ」


『…ほ… 法律を破った者が悪い…』と相手側施設のオペレーターが声を詰まらせて言うと、「そんなもの、どこにもないじゃないか?!」と春之介が叫んだだけで卒倒した。


気に入らない者は難癖をつけて怪獣がいる星に送っていたということが真実だった。


その理由は簡単で、人減らしだった。


あまりにも人間が増えすぎたので、怪獣がいる星に強制的に送り込んでいたのだ。


今までに送り込んだのは百億人で、現在生きているのはわずか一億人だった。


今回また数百万人を送り込む準備が整っていたが、もうすでに解放していた。


よってクーデターが起こりそうになったが、ここにも高い壁を築いた。


人間が増える前に間引きをしていたので、この星には十億人程度して住んでいなかった。


さらに、この星に住んでいる者も戦々恐々で、極力目立たないように生活していた。


もちろん役人もその対象で、悪の元凶はただひとりだった。


その悪の元凶を春之介は強制的に怪物の前に立たせた。


「えっ?! ひっ! ひぃ―――っ!!!」と女性の王はヒステリックに叫んで失神した。


春之介は女性をまずは小さな島に幽閉してから、人が増えすぎない対策を取らせる会議をさせて、別の星の復興作業に飛んだ。


小さな社を置いてきたので、様子は手に取るようにわかるので、悪だくみをしても筒抜けだ。


しかもその都度魂たちが存在感をあらわにして指摘するので、うかつなことを誰も言えなくなっていた。


人が増えすぎて問題があることはひとつあり、陸地が極端に狭いことだった。


陸地が星の一割程度しかないからだ。


しかも北極南極の範囲が広く、赤道直下は四季がある過ごしやすい場所だった。


よって流刑の星から怪獣をどこかに移住させる必要があると思い、春之介は人間と怪獣を入れ替えることに決めた。


魂たちによってその事実が伝えられ、「…助かったぁー…」と星の高官たちは全員が安堵した。



その翌日、まずは怪獣を海が広い星に移動させたので、誰もが戦々恐々として、反抗する者はなく、妖精たちが創り上げた星間軌道エレベーターに乗り込んだ。


もちろん住居など、この先必要な生活一式をプレゼントして建てておいたので、それほどの混乱はないと判断した。


科学技術もそこそこ発達していたが、必要最小限の技術しか使っていなかったことは、ほかの星に比べれば平和だった。


もちろん双子星以外の星の探索にも出たのだが、人間が住める星はこの辺りにはない。


事実存在しないので、宇宙開発は無駄だともうすでに諦めていたので、怪獣のいる星を流刑の星にするしか方法がなかったのだ。


怪獣を移動させた星はすべて更地にして、緑深い環境にした。


春之介が星を探ると、「5万年後に大地が隆起すると思う」と言って、そのシミュレーションを画像を出した。


「星の二割が大地になるのね…

 この星は安泰だわ…」


優夏は感慨深く言った。


ちなみに、怪獣の引っ越しは、巨大な庵を造っただけで速やかに完了していた。


秋之介にかなり恐怖したので、わずか5秒で終了していた。


「生きていく上でどうしても必要なことがあれば願えばいい。

 こちらで精査して、助けないこともないが、

 今以上の願いは欲とみなす」


春之介の言葉に、高官たちと星の女王だった者は特にクレームはないようで、愛想笑いを浮かべて頭を下げた。


大勢の人を死に追いやっていたのだが、それほどの悪人ではないのだ。


まさに星の未来を案じたが、その手段が悪かった。


この先、様々な確執があるだろうが、流刑人だった者たちは比較的大人しい。


もちろん、真相を全員が伝えられていたので、こちらの方が常識人という意味もあり、それほどの騒ぎは起きなかった。


そして優夏が子供たちを集めてアイドルショーが始まると、子供たちに大いに欲が沸いたので、春之介だけがせっせと働いて、グッズ一式を造り上げた。


そして弟子のミーニャも何とか手伝おうと、その神髄を知るだけで必死だったので、アイドルショーは見ていなかった。


ミーニャは春之介を師匠として、そして父親としていた。


弟子にしたと春之介は言ったが全く指導をしない。


ミーニャが率先してマネをすることがわかっていたからだ。


そして、悲しい別れがあることも、もうわかっていたのだ。


だが、そう簡単にはその別れは来ない。


春之介は今を朗らかに生きることに決めた。


もちろん優夏ももうすでに理解していた。


―― 罪なことをしていた… ―― と優夏は大いに後悔したが、今はその時ではないと思い、無理することなく今を変えなかった。


それに気づいた者がふたりいた。


当然のごとく、天照大神と春菜だ。


天照大神は春之介を疑わないので春之介側だが、春菜は納得がいかないので、少しふくれっ面をしていた。


天照大神が同じ疑問を持っていたことがわかったので、ふたりで春之介に詰め寄ろうと思っていたのだが、その思惑通りになることはなかった。


「…聞かぬが華、かぁー…

 これもつらい修行だわぁー…」


春菜は誰にも聞こえない声で言ったが、動物たちは聞いていた。


しかし魂たちによって諭されて、落ち着きを取り戻していた。


「…おかしい… なにかある…」と疑ったのは浩也だった。


「おまえらめんどくせえっ!!」と春之介が叫ぶと、優夏は陽気に笑って、春菜と浩也は大いに眉を下げていた。


「能力や直観力が高いのも考えものだ…」と春之介が嘆くと、「…さらに修行を積むから…」と浩也は眉を下げて言って、春之介に頭を下げた。


「春之介を信じてない証拠だよ」と麒琉刀がさも当然のように言うと、「…そういわれると言い返す言葉もない…」と浩也は言って頭を下げた。


そして一太も反省した。


一太にも言えないことなので、それはかなりのことなのだが、まさに言わぬが仏、知らぬが華と思うことにした。


さらには優夏はその事実を知っているようなので、さらに詰め寄ることはできないと誰もが納得していた。


しかしさらに敏感な者がいて、春之介と優夏にとって脅威だった。


翔春が眉を下げてふたりを見ているのだ。


しかしここは、春子と美佐が翔春をなだめた。


「天使にとって、すっごく辛いことだと思うの…

 だから、お父さんとお母さんを疑っちゃいけないわ…」


美佐のやさしい言葉に、「…お姉ちゃんの方が天使さん…」と翔春は笑みを浮かべて言って、なぜだか厳しそうな天使千代の顔を思い出して背筋を震わせた。



その中で冷静で、しかも苦笑いを浮かべている者が二人がいた。


恭司たちはふたりを見て、大いに苦笑いを浮かべている。


「…仲良くなった周りの者にとっては不幸でしかない…」と一輝がつぶやくと、「私は片方が昇天したばかりだったからラッキーだったわ…」と南が言った。


「…そうだよな…

 まあ俺の場合、昇天してもおかしくない年齢だったけど、

 見た目は青年だったからな…」


一輝は少し笑って言った。


「あとは源次郎さんだけよ。

 どうするの?」


南が話題を変えると、「…今の俺の最大級の弱点だ…」と一輝は大いに苦笑いを浮かべて答えた。


「しかも雛も若返って、さらに欲が沸いているように見える。

 ま、普通の人だったと言ったところか…

 仏の世界は復活したが、

 あのビジョンが仲間にすることはないだろうなぁー…」


「ないわね」と南は冷静に即断した。


「雛は化け物女優としてメディアに帰ってもいいと思うんだけど、

 そっちの方はもう納得したというところか…」


「サヤカちゃんが全宇宙を股にかけたタレントになったからね、

 あるとすればその路線…

 でもやっぱり、源次郎さんをどうにかしないと、

 粛清されちゃうわよ?」


南の酷な言葉に、一輝は頭をなでまわし、顔をこすりまくって大いに苦悩した。


「雇いたいところだが、さすがにここに呼べないし、

 呼んでも戻されるはずだし…

 適任の仕事…

 …あ…」


一輝はあることに気付いて、すぐさま源一に向かって走って行った。


「込み入っているところ悪いんだが、少々協力して欲しい!」


一輝の勢いが今までにないことだったので、春之介は大いに陽気になっていた。


「食べ物?」と春之介がさも当然のように聞くと、「その通り!」と一輝はまるでよだれを流しているように春之介には見えていた。


「それほどにうまかったわけだ」と春之介は笑みを浮かべて何度もうなづいた。


「この星の食材だと…」と一輝はかなり詳しく料理の説明をした。


「歯ごたえがあり、甘辛くピリ辛。

 ゴマの香りが香ばしく、

 その照りがまさにうまそうに見える。

 そして付け合わせは愚か、メインにもなり得る料理。

 酒のつまみにも最適。

 そして子供にも人気が高い…

 まさに、魔法の料理を源次郎様は作っていたわけだ…」


春之介はいつになく視線を鋭くして、無言で立ち上がって、厨房に向かって歩いて行った。


すると、ミーニャと優夏も興味を持ってあとに続いた。


さらにはメイド長の真由夏もすぐに追いかけると、その部下たちもすぐさま後を追った。


ほかの者たちは何があったのかと、厨房を見入っている。


春之介はその料理を簡単に造り上げた。


そして味見をして、「おっ! うめえっ!」と叫んで、厨房にいる者たちだけで食事会が始まったが、「…おかしい… もうなくなった… エッちゃんはいないのに…」と春之介は大いに嘆いてから、また作り始めた。


そして様々な細かい意見を聞き入れて、9割9分が納得するものを造り上げ、今回は少量だけ味見をして、「うん、これでいい」と春之介は納得して笑みを浮かべた。


「…先生は料理もすごいですぅー…」とミーニャが大いに感情を込めて言った。


「ああ、ありがとう。

 さあ、ご飯とこの料理が一瞬でなくなる様を見ようか」


春之介は陽気に言って、ご飯ときんぴらごぼうだけを配膳した。


「おやつだ」


春之介の言葉に、誰もが大いに笑って食べ始め、そして目の色を変えてご飯のお代わりの嵐になった。


一輝に至っては涙を流して食べていて、「…源次郎が創ったものよりもうめぇー…」と大いに感動しながらも大飯を食らった。


まさに誰もがなにも言わず、黙々と食べている。


聞こえるのはボリボリといい歯ごたえがしている音だけだったが、「もうないよっ!」と桜良が叫ぶと、真由夏がすでに準備をしていてすぐに配膳した。


「…ああ… 最高の料理人冥利に尽きる光景だわ…」と真由夏は笑みを浮かべて言った。


源一は、大きな食材保存ケースに入れたきんぴらごぼうと炊き立てご飯を一輝に持って行った。


「すまんっ! 助かったっ!」と一輝は陽気に叫んで、大荷物を持ってすぐに消えた。


「誰にでも弱点はある。

 さて、一流の料理人の源次郎様にとってこれが吉と出るか凶と出るか…」


「…そろそろ落ち着いてもらいたいわね…」と優夏は眉を下げて答えた。


「松崎様のところの料理人に推薦しようか…

 あそこの家族たちも口は肥えているから。

 単独で星を回ってもらって、

 満足感を与える仕事も面白い…」


「そういう役柄も必要ね…

 さすがにすべてやってると、

 星を回り切れないもの…

 分担作業は重要だわ…」


優夏は少し悔しそうに言ったが、アイドルショーをするだけでも作業効率は目に見えて落ちているのだ。


ここは根本的な復興を先行して、あとでまとめて回ることも視野に入れ始めた。


すると一輝が戻って来て、すぐさま春之介に頭を下げた。


「…いい意味で燃え上がっていたし、

 全部食った」


一輝がうらやましそうに言ったので、ここは一輝用に春之介が手によりをかけて、一輝の好物の揚げ物を添えて食事を摂らせた。


「…あれほど食ったのにまだ食べるんだな…」と浩也は言って苦笑いを浮かべた。


「食が基本の仕事だからね。

 復興する側が倒れるわけにはいかないから。

 アイドルショーを見ながら食事をしたいものだけど、

 アイドルたちに食事をする時間がない…」


「…うう、その通り…」と優夏は少し悔しがって言った。


だが、「アイドルだから、移動中に食べるぅー…」と優夏がかなり機嫌よく言ったので、「それができるように工夫するよ」と春之介が答えると、優夏は春之介に抱きついた。


「そういう食事もうまいと思う。

 ひとりじゃないからな」


「うんっ! それがいいっ!」と優夏は陽気に答えたが、ほかのメンバーたちは、ーー …とんでもないことに巻き込まれてるぅー… ―― などと思ったようだ。



その頃、皇源次郎は打ちひしがれていた。


まさにこれほどにダメージを食らったことは今までになかった。


多くの猛者たちの胃袋を掴んできたはずなのに、わずか16才の少年に負けてしまったのだ。


「…私のがないぃー…」と越前雛は眉を下げて言って、源次郎を上目づかいで見た。


「…待ってろ…」と源次郎は言いながら立ち上がって、久しぶりにエプロンを巻いて厨房に立った。


食材は十分にうまいものがたんまりとある。


さらにはフリージアから仕入れた食材もあって、味見も味付けの試しも終えている。


源次郎は悔しい想いを持っていたはずだが、誰かに料理を作ることが久しぶりだったので、少し陽気になっていた。。


まさに、源次郎が初心に戻った瞬間だった。


今回は、雛の好物の肉じゃがときんぴらごぼうを作った。


もちろん、自分でも食べるので、それなりの量がある。


「…懐かしい…」と源次郎は言って、雛に笑みを向けた。


「賄い定食お待ちっ!」と源次郎が威勢よく言うと、雛は胸の前で手を合わせて、まずは匂いを嗅いで幸せそうな笑みを浮かべた。


源次郎も自分用に盛り付けて、早速きんぴらごぼうをひと口食った。


「…くっそ… 食材の違いか…」と悔しそうに言ったが、うまいものはうまい。


最近はそれほど大食いではなくなっていたのだが、一輝が持ってきたきんぴらごぼうと炊き立ての飯は、優に20人前はあった。


源次郎は、―― まだまだ修行だ… ―― と思いながら、大飯を食らい始めた。


雛は笑みを浮かべているが涙を流している。


「…また、ふたりから始めたい…」と雛が涙声で言うと、「…そんなもの当然だ…」と源次郎は堂々と言って、さらに大飯を食らった。


すると黒い扉から松崎が出て来て、「おや?」と言って源次郎と雛を見た。


「いい匂いがしますね。

 まさにうまそうだ」


松崎が笑みを浮かべて言うと、「なんでもいいのなら作るぞ」と源次郎は比較的陽気に言った。


「…じゃあ、賄い定食を」と松崎は言って、源次郎の隣に座った。


「…それ、意味がわかっていて言ったんだよな?」


「そのつもりでしたけど、問題がありますか?」と松崎は笑みを浮かべて言った。


「…どいつもこいつも若い奴らはバカにしやがって…」と源次郎は少し憤慨して立ち上がったが、言葉と心は逆だった。


―― 今度こそ、本当に拾ってもらった… ―― と源次郎は思い、また大量の賄い定食を作った。


「ここは今までのうっぷん晴らしのように、

 本能に任せて食べさせてもらいます」


松崎は言って、手を合わせて、「頂きます」と言ってから、いきなり猛スピードで食べ始めた。


「うまいっ! うまいぞっ!!」と松崎は大いに叫んで、源次郎を陽気にさせた。


そして源次郎も松崎に負けないほど大飯を食らった。


「…うう… 僕も食べたいんだけど…」とあとからやってきた源拓が言うと、「ほら、食え食え!」と源次郎が言って、一瞬で配膳をした。


そして源拓が一口食べると、「…すっごい工夫が…」と笑みを浮かべて言って、源拓にしては珍しく、フードファイターのようにして、大人二人に挑戦するように賄い定食を食らった。


「部隊は源次郎さんに任せるから。

 食事の方もね」


「ああ、わかった」と源次郎はすぐさま答えて涙を流した。


雛はこの暖かい4人だけの食堂を見て、涙を流して、薄笑みを浮かべた。


「…ビジョン様に認めてもらえるように、

 心を入れ替えるわ…」


雛は涙を流しながら言った。


「その件ですが、ビジョンはまずは、春之介に会いに行くと思います。

 弟子取りはそのあとのように思いますね。

 ビジョンとしても、かなり修正することが発生するはずなので。

 何しろ相手は、自然界の一部ですから。

 最高の修行相手になるはずです」


松崎の言葉に、源次郎は自分自身を大いに恥ずかしく思った。


源次郎を完全に狂わせたのは嫉妬だ。


源一や春之介のように、いくら仲間であってもその分岐点に来た時、仲間がしたいようにさせ、心から喜ぶ必要があると、今になって思い知った。


そしてまた昔に戻って、ひとりで修行や旅をしようと思い、「修練場はもう創ったのかい?」と松崎に聞いた。


「ええ、必要ですからね。

 みんな、かなり無理をして鍛え上げようと頑張っていますが…

 少し冷静になった方がいいように思います。

 ですがアスカやジェシカがそれを許さないのでね…

 五月さんですら、顎が上がっているほどです」


「ここにもあるが…

 新しい住処に行ってじっくりと鍛えよう…」


源次郎は言って立ち上がり、後片付けを始めた。



その頃、万有ビジョンは猛春にお願いして、こっそりと社から顔を出して、町の様子を観察していた。


ビジョンは見た目は源拓と同じで5才児程度だが、生まれたのはわずか二年前だ。


ビジョンには単独出産で産んだ母がいるが、今は離れて暮らしている。


しかし、源一を父、花蓮を母として暮らしている。


そして産みの母が仏の世界の仏陀であったように、源一が再構築した仏の世界の仏陀として修行の日々を過ごしている。


しかし今は、少々人見知りの子供でしかなかった。


「…楽しんでおられますな…」と猛春が言うと、「みんな構えるから詰まんないからね」とビジョンは陽気に答えた。


「ですが、気づかれましたぞ」


「…あーあ… きちんと挨拶しなきゃ…」


「わが友としてお呼び申したので気遣い無用」と猛春は言って、ビジョンを背中に乗せて、すたすたと春之介の後ろに向かて歩いた。


「ビジョン君は慣れないわぁー…」と優夏がまずは第一声を放った。


もちろん、相手が仏なので、悪としては居心地が悪いのだ。


しかも、仏という存在は初見なので、今が経験の積み上げの時、ということになる。


「相変わらず厳しい顔だね」と春之介が気さくに言うと、「…ボクが意識しすぎて緊張してしまってました…」とビジョンは言って頭を下げた。


「それに、本当なら大勢の仲間と来たかったようだけど、

 今回はビジョン君の修行にした。

 その理由は、言葉は悪いけど、源拓君に張り合うため」


「…はは… ボクの永遠のライバルで、不動のリーダーなので…」とビジョンは照れくさそうに言った。


「だけど、水竜アリスがついてきたようだけど?」と春之介が言った途端、「えっ?」と言って社を見ると、確かにいた。


今はきょろきょろと辺りを見回している。


もちろん、高龗が気付かないわけがないが、今は無視することにしているようだ。


「…社をくぐってくるとは…」と猛春が大いに苦笑いを浮かべて言った。


「それなりにハイレベルだからね。

 高龗ができることはできると思うよ」


「…高龗ちゃん…」とビルドは言って、少し気が強そうに見える美少女の高龗を見てホホを赤らめた。


「春子の方がお勧めだけど?」と春之介が言うと、「…女ビルド君…」とビジョンが嘆くように言うと、春之介も優夏も腹を抱えて笑った。


「…翔春ちゃんも、ほんとかわいいです…

 …えっ?」


ビジョンは少し驚いてから、優夏を見た。


「…うふふ…」と優夏が笑うと、「…はぁー…」とビジョンはため息をついた。


「ミーニャは好きにならない方がいいね」と春之介が言うと、「…最大の試練のようです…」とビジョンはまた緊張して小声で答えた。


「大昔のセイントのマネをしてもいいんだけどね。

 だけどこれは、本人の同意が必要だ」


「…いえ… 仏のはしくれとして、

 それは望むべきではありません。

 全てを自然に任せる必要があるのです」


ビジョンの厳しい言葉に、「だけど俺としてはできればそうしたいんだ」と春之介が力強く言ったが、ビジョンは少し深呼吸して口を開かなかった。


そして考え始めた。


誰もが幸せになれるこの先を。


「問題は、優夏様の心ひとつのように思います」


ビジョンの言葉に、「その時にならないと答えようがないわ…」と優夏は全く考えることなく答えた。


「まさか、融合を止められると?」とビジョンが聞くと、「その時の感情次第だから、自然に吸収しちゃうかも…」と優夏は眉を下げて答えた。


すると子供たちがビジョンに大いに興味を持ち始めた。


その理由は簡単で、小動物たちがビジョンに寄り添っていたからだ。


その中には夏之介、秋之介、冬之介もいる。


できれば目立ちたくなかったビジョンは大いに眉を下げていた。


「…うふふ… ビジョン君が困ってる顔を見に来たわ」と大きな赤い猫が言うと、春之介と優夏が大いに笑った。


しかし、「出世、おめでとう、美佐ちゃん」とビジョンが言うと、赤い猫は陽気にビジョンに体をぶつけた。


「ビジョン君は何も変わらないのね…

 ずっと、厳しいまま」


赤い猫の赤い目がビジョンを見ると、「…厳し過ぎたって思い知ってるとこ…」と小声で答えた。


しかし、それは厳しさではないとビジョンは思い知っていた。


「たったふたりしか弟子がいないのは考えものだって思ってたの。

 弟子にして大成しなかったり誤った道に歩んだ時は、

 自分が未熟だったって謝って、仏を解くだけでいいと思うの」


「…美佐ちゃん、随分と変わったね…

 弟子にならない?」


ビジョンがスカウトすると、「私が完成した時に考えるわ」と赤い猫は背中を気にしながら陽気に言って、美佐に戻った。


「その時、美佐ちゃんが変わってしまうって思わない?」


「変わると思うけど、どう変わるのかはその時にならないとわからないわ」


「…そう、そうなんだ…

 未来は誰も見ることは叶わない…

 たとえ見たとしても、次に同じ未来を見た時、

 初めに見た時と変わっているかもしれない…

 出会いや言葉だけでも、

 簡単に変わってしまうものが未来…

 …ボクは慎重になりすぎていたって反省したよ…

 …ううん… 臆病になっていたと思うんだ…」


「案外、万有様も放任だよね…

 松崎様のことは言えないと思う」


春之介の言葉に、「…あははは! 思い知りましたっ!」とビジョンは陽気に笑って認めた。


「春之介様も優夏様も仏の資質は十分にあります!

 ご迷惑かもしれませんが、

 仏の世界を覗いてみられませんか?」


「…仏は初体験だぁー…」と優夏は言ったが、すぐにうなだれて、「…本来の性格上、平静ではいられないと思うわ…」と悲しそうに言った。


「だろうね、俺もここは止めておくよ」と春之介は優夏の言葉に同意した。


「…それほどの拘束力は…」とビジョンは言ってから、この未来は簡単に悟って、「…仏の世界、崩壊…」とつぶやいてからうなだれた。


「…うふふ… ごめんねぇー…」と優夏は眉を下げて謝った。


「俺の場合は重複するようだから、

 ちょっと怖いね。

 だけど動物と仏は相性がいいことはお勉強したよ。

 だからこそ、優夏のそばにいられなくなるようだから、

 それを理由にしてやめておくよ。

 初めの頃は、優夏に遠慮して魂たちと会話をしていたからね。

 その理由は、優夏が魂たちの世界に誘われそうになるからだ。

 優夏は鍛え過ぎたことが理由で、

 簡単にどんなものでも染まりやすくなっていることがその弱点だ」


「…弱点を披露してほしくなかったぁー…」と優夏は嘆いたが、笑みを浮かべていた。


「…だけど芯は強い…

 強い興味を持たなければ何も起こらない…」


ビジョンはつぶやいてから、「おふたりは仏の修行クリアで、免許皆伝です…」と言って頭を下げた。


優夏は手放しで喜んでビジョンを抱きしめた。


「…ああ… よーく理解できました…

 優夏様は今はない虚無のようだ…」


ビジョンがもうろうと始めたので、優夏はすぐに体を放した。


「…昇天しないでね…」と優夏がやさしく言うと、「…ボクの煩悩がひとつ消えたように感じました…」とビジョンは言って、優夏に頭を下げた。


「…よかったのかしら…」と優夏が言って眉を下げると、「思考的感覚だから…」と春之介は眉を下げて答えた。


「勇気を出して、会いに来てよかった…」とビジョンは言って頭を下げて、社に向けて歩いて行った。


猛春、夏之介、秋之介、冬之介、さらにシーサーがビジョンを守るように囲んで社に入った。


「何もしていないのにあの従属の態度はないな…」と春之介は眉を下げて言うと、「…すっごい精神修行になったわ…」と優夏は嬉しそうに言った。


そして春之介はゼルタウロスに変身すると、「あ、何かある… あ、消えた…」と言って、ビジョンが歩いた道筋を見た。


「…お願いすることなく、魂すらも寄り添うんだ…」とゼルタウロスは言って空を見上げた。


「…旅立ったのね…」と優夏が眉を下げて言うと、「まずはこの星に戻ってくるさ」とゼルタウロスは答えて春之介に戻った。


「ベビーブームになるかもしれないね」と春之介が言うと、優夏は陽気になって動物たちを抱きしめて回った。



猛春たちは帰ってきたが、また客を連れてきた。


小柄だが、切れ長の目がその気の強さを物語っている、美人に見えるかわいらしい女性だ。


あまりにもつかみどころのないその存在感に、春之介はすぐに女性に頭を下げた。


「…ふーん… まずはここで小手調べってところね…」と優夏が言って立ち上がると、その体高が50メートルほどになったので、春之介は腹を抱えて笑い転げた。


もちろんこの変化に、家族たちは口を開いたままぼう然として巨人優夏を見上げた。


女性は大いに困惑の笑みを浮かべている。


「蓮迦様、さあ、遠慮なく」と春之介が笑いながら言うと、蓮迦は少し厳しい顔をして、本来の巨人族の姿になった。


しかしその体高は、優夏の半分もない。


「自己紹介は必要ないようだわ」と蓮迦は言って、優夏を見上げた。


「…抱きつかない方がいいかしら…」と優夏が言うと、「抱きつくくらいなら問題はないさ」と春之介は陽気に言った。


「…女性に抱きつかれる趣味はないわ。

 ビジョンにあって来いって言われたけど、

 それほど大したことはなさそう」


春之介は大いに苦笑いを浮かべたが、優夏は、「ビジョンに仏の免許皆伝をもらったけど?」というと、蓮迦は目を見開いた。


「蓮迦様はかなり考えることが必要ですし、

 このままだと仏の返り咲きはありません。

 先に、越前雛様が返り咲きを果たすように思います。

 あとは、ドズ星でお見かけしたブライ様。

 さらには、もうすでにうわさを聞き付けたはずの山根桂子様。

 源次郎様が改心を果たしたことで、

 その家族たちもこぞって元に戻ろうとするはずです。

 おや?

 予想外に、爛爛様が仏に復活されてようですよ。

 天使としても白竜を取り戻し、さらに仏。

 さすが、万有様のお姉さまですね」


「…うう… 天敵…」と優夏はうなって眉を下げた。


蓮迦は大いに目を吊り上げた。


「黒いものに撒かれることも一興かと」と春之介は言ったが、蓮迦は元の姿に戻って、猛春とともに社に入って行った。


「…詰まんない人ね…

 まあ、コピーがこうなることがわかって、

 いいお勉強になったわ…」


優夏が元のサイズに戻ると、一陣の強い風が吹いた。


「あとはそのコピー元のルオウ様…

 ここに来る意思はないようだね…

 元来のひとりで行動していた癖が抜けないようだ。

 そろそろ団体生活をした方がいいんだけど、

 源次郎さんに寄り添うのかなぁー…」


近くにいた桜良が大いに眉を下げている。


ルオウは古い神で言うと桜良であるデヴォラルオウの双子の姉弟だ。


しかもルオウが素晴らしいのは、まだ一度も転生していなことにある。


よって誰よりも威厳のある神なのだが、仏に依存しすぎて、本来の能力を出せないでいる。


「エッちゃんはどう思う?」と春之介は目だけを動かして桜良を見ると、「ぎくっ!」と叫んでから眉を下げた。


「…生まれてすぐにいなくなったからね、

 それほどに思入れはないのぉー…」


「…薄情者…」と優夏が言ってにやりと笑うと、「そうでもないもん!」と桜良は叫んで憤慨して腕組みをした。


「それから蓮迦様もその生涯は長いね…

 天照大神たちが何とか長老の地位を維持できるほどだ。

 シーサーと同じほど長生き、かな?」


「…それも、プライドになっているはずよ…

 だから人に頭を下げることをもう忘れてるんじゃないの?」


優夏の言葉に、「…それ、あるわぁー…」と桜良は怒りを治めて穏やかに言った。


「話は変わるけど」と春之介が言って桜良を見ると、「ぎくっ!」とまた言ってけらけらと陽気に笑った。


「俺の夜の仕事って、もう終わりなんじゃないの?」


「…もったいないから働いて…」と桜良が意識を失ったように無感情で答えた。


「…そんなことだと思ったよ…

 なんだか願いの夢見のように変わってきたから…

 だけど、優秀な人材を確保できることは嬉しいからね」


夢見の内容が軽いものに変わってきたので、宇宙の母となった向日葵が、ほとんどのことを把握できるようになった証拠だと春之介は考えていた。


よって今の段階で、向日葵は花蓮を超えたと言っていい。


しかしそれは知るだけで、夢見とはいえ、春之介のように体験するわけではないので、その差は大きい。


もちろん、宇宙の母が能力として不幸や不正をただすことが不可能なだけで、探って現地に飛んで手を下すことはできる。


よって、『宇宙の母部隊』が必要になるはずだと、春之介は考えていた。


しかしその候補はもういる。


魔王タクナリを失った魔王部隊がその任につくことは可能だし、水竜アリスを失った水竜部隊でも構わない。


しかし、タクナリも向日葵も、春之介が楽になったおかげでそろそろここに戻ってきそうなので、タクナリがまた別の部隊を立ち上げるかもしれないと春之介は考えていた。


しかし、春之介の予感は外れ、タクナリと向日葵は夏介とともに三人だけで戻ってきた。


「ふたりって、ここにいたって暇なんじゃないの?」


春之介がタクナリと向日葵を交互に見て言うと、「実は…」とタクナリは言って夏介を見た。


「そういうこと…

 だけど、この星の審査は厳しいよ」


「はい、その点は自信があるのです」と夏介は胸を張って言った。


夏介が念話を始めると、神たちが勢い勇んで社に駆け込んだ。


もうすでに見定めていて、多くの者が合格していた。


よって、全員ではない。


天照大神たちが夏介の部下たちを連れてくると、「えっ」と夏介が驚いた顔をして言った。


「何を驚いてるのよ…

 当然じゃない…」


春菜の言葉にも夏介は驚きの顔を向けていた。


一番優秀なふたりがここにいないことが信じられなかったのだ。


「ここに来ることができない。

 だけど、仲間としては今のままだから、

 仕事の時は迎えに行ってやった方がいいね」


「…いえ、お師匠様…

 ボクはその理由がわからないのです…」


夏介はすがるようにして春之介の前にひざまついた。


「妖怪だから」という優夏の返答に、夏介は目を見開いて、さらに、「えっ? ええっ?!」と声を上げた。


「ここに来たら消えちゃうかもぉー…」と天照大神が夏介を脅した。


「別に妖怪がダメなわけじゃない。

 きちんと段階を踏んでここに連れてこないと、

 不幸が訪れることがあるんだよ。

 特に俺のせいでね」


春之介の言葉に、「…魂に関すること…」と夏介は言ってうなだれた。


「肉体の確認した?

 見た目だけじゃないの?」


もちろん、妖怪などとは思ってもいなかったので、そのような確認はしていないので、夏介は首を横に振った。


「肉体を得るほど高い能力はまだない。

 それも修行として、

 軍人として紛れ込んだと思うね。

 まあ、源一様の関係者…」


「妖怪は、妖狐様…

 あっ!」


夏介はようやく気付いた。


源一の側近に近い大妖怪の妖狐フォルテだ。


その子狐のふたりを最近見かけていなかったのだ。


「シャープ君とフラットちゃん」と春之介が言うと、「…そうだったのかぁー…」と夏介はようやく理解を終えて立ち上がった。


夏介は子狐の名前を知らなかった。


ふたりが本当の名前を使っていたので、夏介の理解は早かった。


「肉体さえ持っていれば、俺の願いに反応することはないんだ。

 だけど魂のままだと、確実に巻き込まれるからね。

 そして高揚感に満たされた時、

 昇天する可能性が高くなるんだよ。

 俺は特殊な術師だから、

 できれば肉体を持っておいてもらいたいんだよ。

 妖狐様は肉体を持っているよね?」


「はい、それは聞いていて知っていました。

 今のお話のようなことも聞いていましたが…」


夏介は大いにバツが悪そうな顔をした。


「それほどに、だますのがうまいんだよ。

 親を離れて本格的な修行に出たんだろうね」


春之介たちは何度か顔を合わせていた、夏介の部下たちとコミュニケーションを取っていると、「結城覇王様をご存じですよね?」と女性の死神に聞いた。


女性は大いに驚いて、「…黙っていたんですけど…」とバツが悪そうな顔をした。


「話してはいけない理由があったようだ。

 あなたのような方は多いように思うんですけど、

 たぶん誰も話していないはずなので、

 お知り合いはいませんよね?」


「…はい… はっきりとはわからないのですが…」と女性の言葉の歯切れがさらに悪くなった。


すると優夏が、どう見ても挙動不審な少女のような死神を連れてきた。


「…どこにいたの?」と春之介は少女に聞いて少し笑った。


「体の大きい男性の影よ」と優夏が少し呆れるように言った。


「結城覇王様…

 あ、いや、覇夢王の話は、

 できればしてもらいたくないということでいいんですよね?」


「…覇夢王様…」と女性の方がつぶやいて、すぐさま口を閉じた。


春之介は特に指摘することなく、「大切な思い出だから語りたくない」とまず言うと、女性も少女もホホを赤らめただけだ。


「おふたりとも、成仏できない魂だった」


「…はいぃー…」と今度は少女の方が答えて、すぐに手のひらで口を押さえた。


「そのあることは脇に置いて、

 そのあと、おふたりともフリージア星の隣の地球で肉体を得て死神となった。

 おふたりに肉体を与えたのは、今は悪魔ではなくなったデヴィラ様」


ふたりは顔を上げて真剣な眼を春之介に向けて頭を下げた。


「どうやらそういった方は、

 ロストソウル軍に多いと思いますよ。

 最低でも千人ほど…

 できれば転生しないで、

 死の魂のまま意識を保って地球に飛ばされた、

 と言っていいと思います。

 当時のデヴィラ様は、無意識でしょうけど、

 仏の世界で言う閻魔大王の役だったように思うのです。

 フリージアに行った時に、

 やけに機嫌のいいあなた方のような方が何人も確認できたので。

 もちろん、男女の関係もあるのでしょうが、

 立派に仕事をしていると、胸を張って報告したい。

 そして礼を言いたい」


「…ひどい話のようでそうでもない…

 …ううん… 感情から察して、いい経験を積んだ…」


優夏が考えながら言うと、『デヴィラ様に送り込む前に、男女の契りをかわしたんだよ』と春之介が念話を送ると、優夏は顔を真っ赤にしてうつむいた。


女性と少女は顔を真っ赤にして涙を流して笑みを浮かべている。


その瞬間を思い出して、ニヤついていると言っていい。


「ここに呼んでもいいですけど、少々変わってしまわれたので。

 ですが、あなた方もうわさ程度はご存じのはずです。

 子細な情報すら聞き逃さなかったはずですので」


「…廃人に、なられたと…」と女性が悲しそうに言うと、春之介は小さくうなづいた。


「記憶はかなりあいまいだと思います。

 覚えていなかったり覚えていたり…

 特に十年ほど前の記憶はかなりあいまいだと思います。

 ですが、結城覇王様に、あなた方の言霊をぶつけてみてください。

 結城覇王様は、古い神の一族の力は取り戻されていますから」


ふたりは安堵の笑みを浮かべて、少女は、「…よかった…」と笑みを浮かべて言った。


「…だけど、覚えてなかったらすっごくショックよ?」と優夏が言うと、「結城様が覚えていなくても覚えている人が何人もいたんだよ」と春之介が自信を持って言った。


「特にあなたのそのわがままは、今すぐにでも俺から説明できます」


春之介が少女に向けて言うと、「えっ?」と言って、またホホを赤らめた。


「…わがまま、言っちゃいましたぁー…」と少女は恥ずかしそうに言って身をねじった。


「そういう儀式だったのでいいんですよ。

 覇夢王は全身洗礼をもって、あなた方に成仏してもらいたかった。

 まあ、間違った仏の在り方でもあったのですけど、

 そういう無体なしきたりも世の常です」


「…毎日毎日、行列でしたぁー…」と女性が言うと、優夏はさらに顔を赤らめた。


「来てくださるかどうかは、結城様の気持ち次第ですので、

 いまさらですが期待しないでください」


春之介の言葉に、ふたりはすぐに首を横に振って、天使のように祈りを捧げた。


春之介はまずは松崎に念話をしてから事情を話すと、松崎、源次郎、そして結城覇王が春之介から飛び出てきた。


「覇夢王様っ!!」と女性と少女は叫んで、結城に笑みを向けた。


「あれ? ユミちゃん、昇天しなかったの?」と結城が気さくに少女に言うと、「…複雑な気分んー…」とユミは言ってホホを赤らめた。


覚えていてもらってうれしいが、できれば覚えていない方がよかったなどといった複雑な気分だったようだ。


「ここに源次郎さんがいるからなおさらだよ。

 ちょっとしたブティックで、

 子供用のウェディングドレスを買ったからね」


するとユミは感極まってワンワンと泣きだし始めた。


「…ウェディングドレスは悔しいわね…」と女性は眉を下げて言った。


「まあ、先輩には大いに困りましたね…」と結城が言うと、「…覚えてたかぁー…」と結城の先輩の有賀裕子は悔しそうに言った。


「まさか同じ大学で事件に巻き込まれた人が出るなんてね…

 さすがに、学校外の事件は察知しようがなかった…」


「仕方ないのよ…

 私がワルだったんだから…

 …だけど、得した気分よ、ありがと…」


女性は大いに照れながら礼を言った。


そしてユミと裕子は、今の心の丈を、言霊を礼儀正しく誠実に結城にぶつけた。


「…本当にうれしいよ…

 ありがとう…

 そして八丁畷様、ありがとうございました」


結城が頭を下げて春之介に礼を言うと、「見て見ぬ振りができなかったのでね…」と春之介は大いに照れながら言った。



ここからは、結城覇王とも親交を深めるため、席について話をしようと春之介が席を勧めると、結城が倒れそうになった。


春之介が右手で背中を支えたので倒れることはなかったが、「…ああ、どうして…」と結城が嘆くように言った。


「最近、ビジョン様と蓮迦様にもお会いしました」


春之介の言葉に、「…この恩は、返せるものではありません…」と結城は大いに感情を込めて言霊を発すると、まさに仏のように穏やかな顔に変わっていた。


松崎はすべてを理解して何度もうなづいている。


「源次郎さんからまだ目を放せないので、

 どうかよろしくお願いします」


春之介の言葉に、源次郎はしかめっ面をしたが、「いえ、今の源次郎さんが最近では一番自然です」と結城は言った。


そして、「できれば、八丁畷様にお仕えしたい…」と結城は言って、長い首を上げて春之介たちを見ているヤマを見上げた。


「俺たちのように、ベティーさんも何とかしたいのです」


「はい、その計画はもうできています。

 時間はかかりますけどね」


春之介の言葉に、「私が手伝えることはなさそうです…」と結城は言ってうなだれた。


「どうか、お好きなように過ごしてもらっても構わないと思いますが、

 松崎様の部隊が落ち着くまで、

 そばにいてあげて欲しいのです。

 俺なんかよりも、さらに辛い時に、

 松崎様があなたを支えたはずです」


「はい… 不義理になるところでした…」と結城は言って、振り返って松崎に頭を下げた。


「安藤麗子様もお連れになっていただいて構いません。

 少々、性格が変わってしまわれるかもしれませんが…」


「…久しぶりに、あいつの憎まれ口も聞いてみたいものです…」と結城は笑みを浮かべたまま涙を流した。


すると、松崎が安藤麗子を引き寄せた。


そして麗子は頼りなげな笑みを浮かべて、春之介に頭を下げた。


「…変わらない方がいいのかもしれない…」と春之介が言うと、結城はくすくすと笑い始めた。


「今の方が別人のようで、やはり戸惑ってしまうのです…」と結城が頭を下げてあげた途端に、「…おまえ、いい度胸してるじゃねえかぁー…」と麗子が美しい顔をゆがめて言った。


「…私を見てるようで嫌だわぁー…」と優夏が嘆くと、春之介はくすくすと笑った。


結城は麗子をしっかりと抱きしめた。


「…お、おい…」と麗子は大いに戸惑ったが、「…今まで、長い夢を見ていたのか…」とつぶやいて、結城を抱きしめた。


「だが、古い神の一族としてはまだまだ半端者だ。

 しかし、今までとは大いに違う。

 八丁畷様にそそうのないようにな」


「…わかってるわよぉー…」と麗子は言って、結城から体を放した。


そして麗子は、まるで値踏みをするようにして春之介を見入ってすぐに目を見開いた。


「…ゼルタウロス…」とつぶやいて、すぐさま春之介から距離を取った。


「その記憶はもう戻っていたよね?」と春之介が麗子に向かって陽気に言うと、「…会いたくなかったぁー…」と麗子は大いに嘆いた。


「俺を子分にしようとしたからじゃないか…」と春之介が眉を下げて言うと、「…手のひらサイズの猫だったのに、とんでもなかったぁー…」と麗子は大いに嘆いた。


普通であれば、愛玩猫としてかわいがりたいところだが、その当時のゼルタウロスは尖っていたので、神の誰もが恐れていたのだ。


ちなみに、春之介と本物のセイントとは今世が初対面で、セイントが旅立ったあとに、ゼルタウロスが生まれていた。


「先ほどから気になっているのですが…」と結城は言って優夏を見た。


「…うふふ… 何かしら?」


「…あ、いえ、なんでもありません…」と結城は言って頭を下げた。


「もし俺が優夏を振った場合、

 優夏はすべての宇宙を終わらせるでしょうね」


春之介の言葉に、「いえ、そうであれば問題はないと納得しました」と結城は笑みを浮かべて春之介と優夏に頭を下げた。


「どういうことよ、歯切れが悪いわね」と麗子は勇ましく言って優夏を見入った。


「やめておけ。

 必ず後悔するぞ。

 お前なんか赤子同然だ。

 今度は心身喪失どころの騒ぎじゃない。

 狂って元に戻れなくなる覚悟ができたのなら、

 好きにすればいい」


「はいそうですかと言って納得できるわけないじゃない」と麗子が言った途端、優夏は一瞬だけ本来の姿に変身した。


麗子はやせ我慢の笑みを浮かべてガタガタと震えだし、歯をカチカチと鳴らし始めた。


「…こんなこと、ありえないぃー…」


「春之介の相手は誰でもいいけどね、

 私の相手は春之介しかいないの」


優夏の言葉を聞いて麗子は白目をむいて意識を断たれた。


「…完全じゃないけど弱すぎるわね…

 だけど、これからはうかつなことはしないだろうし言わないでしょうね」


優夏の言葉に、「ご面倒をおかけして申し訳ございません」と結城は誠心誠意謝った。


「ううん、いいの。

 春之介だけがわかってくれていたらそれでいいから」


「寂しいことをおっしゃらないでください」と結城が諫めるように言うと、「結城覇王は認めたわ」と優夏は笑みを浮かべて言った。


「ふーん、初めてだね。

 色々と言うことがあると思ったんだけど…」


「春之介が細かすぎるだけ。

 家族以外では結城覇王しか信じないわ。

 さすが、第二期の長兄ね」


結城は笑みを浮かべただけで何も言わずに優夏に頭を下げた。


「私だってね、まだまだ知らないことがたくさんあるの。

 春之介がそれをすべて私に教えてくれる。

 こんな穏やかな生活があるなんて、

 今まで思っていもいなかったの」


「さらに穏やかになるように、尽力いたします」と結城は騎士のように姿勢を正してから頭を下げた。


「クロノス、ちょっと来て」と優夏が呼ぶと、大いに緊張した恭司がすっ飛んでやってきて頭を下げた。


「そのままで」と優夏は言って、恭司の頭を掴んだ。


その途端、恭司は点滅するように、何度も消えて何度も現れた。


「…今日はこれでいいわ…」と優夏は言って、サイコキネッシスを使って、恭司を床に寝かせた。


「イジメだ、イジメ」と春之介が陽気に言うと、「確認してきただけで何も変えてないからいいの」と優夏は明るく言って、春之介の右腕をしっかりと握りしめた。


「…はは、覚えきれねえ…」と春之介は嘆いたが、多くの魂たちがすぐさま引き継いで、結城の魂に流し込んだ。


「はい、完全に修復完了!」という優夏の言葉に、結城も松崎も大いに目を見開いている。


「さらに修行を積めばさらに伸びるわ。

 今のところは結城覇王がこの宇宙で一番の猛者ね」


「…感謝の言葉しか、この口から出ません、姫…」と結城は言って、優夏に深く頭を下げた。


「…うふふ… 直接私がやったんじゃないんだから、

 それほどへりくだることはないわ。

 恭司と春之介がいなければできなかったんだから、

 それほど威張れることじゃないの」


「はっ 心得ました、姫」と結城は言って、春之介と両手で固い握手を交わし、目を回している恭司ともしっかりと感謝の握手をした。


「麗子は、今度は私が元に戻してみせましょう。

 遥か先のことになるのでしょうけど」


「ええ、それでいいわ」と優夏は笑みを浮かべて答えた。


「麗子、余計なことを考えると、離縁だ」と結城が堂々と言うと、「…わかったわ…」と麗子はまだ体を震わせながら答えた。


「誰よりも厳しくてよかったわ」と優夏は陽気に言った。


「あ、覇王、私からの進言」と優夏が言うと、結城はすぐさま頭を下げた。


「今度は自分の部隊を造り上げて。

 心から信頼できる仲間を一人ずつ集めて。

 そうすれば、あなたは安泰だわ。

 ひとりでいると、ろくなことがないから。

 何なら、へなちょこの弱っちい部隊でもいいの。

 あなたが全てを守ればいいだけだから」


「はっ 早急に取り掛かります」と結城は言って、「麗子は保留だ」と言って結城は消えた。


「早速、容赦なしね」と優夏は眉を下げて言って、うなだれてしまった麗子に憐みの眼を向けた。


「ここにふたりいるんだけど…

 少々後ろめたいかなぁー…」


春之介は言って、ぼう然として消えてしまった結城がいたところを見ている、ユミと裕子を見た。


「基本的には男性を選ぶんじゃないの?

 トンチを利かせて、

 男性でも納得できる夢を見せて昇天させていたようだから」


「経験がないとできない仕事だったようだね。

 昇天しなかった人っていなかったんだよね?」


「いたそうよ。

 妖怪になって、仏修行もしていたそうだけど、

 仏の世界が崩壊して、結城覇王が廃人になって、

 どこかに行っちゃったのかしら…」


「…ふむ…」と春之介はうなって、魂たちにお願いすると、「いた」とすぐに顔を上げて言った。


「天使の一員」と春之介が言うと、優夏は愉快そうに笑った。


「くっついて離れなくなるわね…

 覇王がどうするのかはわからないけど」


「妖怪は弱点が多いけど、

 斥候役には大いに使えるからね。

 理由をつけてそばにいさせるんじゃない?」


するととんでもない剣幕で、源一から念話があった。


春之介が事情を話すとすぐに落ち着いたが、『とんでもないことをやったんだなぁー…』と感慨深く言って念話を切った。


「理にかなってましたし、クロノスは元々セイントが創り出した妖精ですから。

 セイント専用の最終的なバックアップと思っておいていいと思います」


『それは大いにある…

 セイントだからこそ特別…

 あ…』


源一はあることを思いついたのだが、『いや、いい、邪魔をしたね』と言って念話を切った。


「…何だろ… 言いかけてやめたんだ」と春之介は言って、腕組みをして考え始めた。


「私が特別な何かを創ってあるんじゃないか、とかじゃないの?」


優夏ごく自然に言うと、「あるわけだ」と春之介はすぐに察して言った。


話しの流れで、優夏の言葉を聞いて簡単に悟ったのだ。


「神たちの悪の心の監視システム」と優夏が言うと、「…だから解決方法があったわけだ…」と春之介が感慨深く言って、優夏の頭を上機嫌でなでた。


「神の関係者が生まれるたびに、

 このシステムが作動するから、本人にはわからないの。

 暗黒空間に、悪の要を送り込んで、

 宇宙空間にいる本体に悪い心が沸くと暗黒宇宙に送り込む。

 そうしないと、宇宙空間が悪で蔓延して、

 全部が悪の世界になって詰まんなかったから」


「…そういう理由だったんだ…」と春之介は言って少し笑った。


「死を迎えれば一旦消えるけど、

 生を受ければまた別の管理人が沸くようになってるの。

 悪の質が変わる場合があるからね」


「暗黒宇宙特別領域で悪を討伐するとメダルが転がる。

 メダルの文様の違いはその差なんだ…」


同じ神のメダルでも、おどろおどろしいものもあればすっきりとしているものもある。


まさに見た目で、現在の神の穏やかさのランクを知ることが可能だ。


「問題があるのはヤマの家系。

 これだけが誤算で、

 もし春之介のように、人間としても過ごせるようになった時、

 宇宙空間に悪が沸くの。

 基本的には、動物に悪い心はないはずだったから」


「そんな気持ちが沸いた覚えがない…」と春之介が言うと、「全くないこともおかしな話だわ!」と優夏は陽気に笑った。


「だから、生みの親の更生をした方がよさそうよ。

 神の姿にはなれるけど、

 魂を探れない可能性があるわ。

 これも、聞かされた悲劇だと思うの」


春之介のように、過去の動物の生涯だけでも探ることができれば、向上できることになるが、全く引き出せない場合は事実を知るだけで実感がわかない。


よって人型も取れるベティーから悪が湧いて出る可能性もあるのだ。


特に、息子である春之介に拒絶されたことで、そうなる可能性があると優夏は杞憂に思ったようだ。


「人間の欲のように見えるけど、実際は違うから、

 ここに呼んでもゼルダは拒否しないはずよ」


「フローラで生活してもらうよ。

 狩りをしないようにしつけないとなぁー…」


春之介の言葉に、優夏が少し笑ったが、秋之介が遮光器土偶を着て、後ろ足だけで立っていた。


「行ってきてくれ」と春之介が言うと、遮光器土偶は四足で走って社に入った。


そして猛春もついて行った。


すると悲壮感をあらわにしたベティーが社から出てきたが、すぐにフローラに変身して、春之介に向かって走ってきた。


春之介は眉を下げてゼルタウロスに変身すると、美佐も赤い猫に変身して、ゼルタウロスの隣に立った。


フローラはすぐに地面に伏せた。


この時点でフローラはゼルタウロスに逆らえなくなっていた。


そしてその周りを動物を持つ者たちが囲んだ。


すると、フローラの顔つきがどんどん変わり、5分後には地面に座っていた。


ゼルタウロスが春之介に戻ると、美佐とベティーも人型に戻った。


「…生まれ変わった気分…」とベティーは穏やかに言って、辺りを見回した。


「一輝! また噛んでやろうか?!」とベティーが叫ぶと、「あの時は思い知った!!」と一輝は機嫌よく叫んだ。


まだ魂が半身だった時、皇一輝に悪意が沸きそうだと警戒したトラのベティーは、一輝の右手にあまがみをした。


これは監視で、最悪の事態を招かないように施されたものだ。


そして一輝は源次郎に解雇され、ひとりで生活して、ついには病に倒れたが、源次郎によりその命が救われていた。


そしてその少し後、源次郎の願いで、蓮迦が一輝の全ての確認をした。


さらにそのあと、恭司たちの仲間だった住良木一輝と融合したことで、源次郎を簡単に追い抜いてしまった。


古い神の一族でもない一輝が、神以上の能力を持てたことは、過去に神が関与していたからだ。


「おまえ、なぜここにいるんだ?」とベティーが聞くと、「請われたから来たこともあるし、俺たちのステップアップの意味もある」と一輝は真剣な顔をして答えた。


「源次郎には必要だと思うが?」


「もう強い仲間がいるからいいんだ」と一輝は笑みを浮かべて言った。


「仲間って、源次郎が手下だろ?」とベティーはにやりと笑った。


「それでも仲間だ。

 しかも、司令官を仰せつかったそうだぞ。

 大出世だ」


「あの松崎拓生が認めたか…

 実状はよくわかった」


ベティーは言って春之介に向いて、「母親を超えやがってぇー…」と悔しそうだが母の愛をもって言った。


「母ちゃんにはさらにステップアップしてもらうから。

 俺と一緒に、過去の人間としての積み重ねを大いにお勉強してもらうから。

 今でも十分に知識を得たけど、

 さらに知恵を蓄えられる。

 今までとは違って、自信を得ることができるはずだから」


「疑ってもいないことが、今までになかったことだ」とベティーは笑みを浮かべて言って、美佐を抱き上げた。


「…怖い孫ができたものだ…」とベティーは言ったが満面の笑みを浮かべていた。


美佐は機嫌よく、美しいベティーの顔にほおずりをした。


「お婆ちゃんじゃなくてママでいい?」と美佐が聞くと、「もちろんだ!」とベティーは機嫌よく言って高笑いした。


「軟弱なヤツしかいないことがおかしい…」とベティーは言って、小動物たちを見まわして、目を遠くして辺りを見回した。


「水辺は危険…」とベティーは言って、正確に一番近い海の方向を見入っている。


「タレントを呼んでいいか?」とベティーが春之介に聞くと、「興味を持ったら来てもらってもいいよ」と春之介は笑みを浮かべて言った。


「…ダイゾの海洋生物…」と優夏はうなるように言ったが、高揚感が沸いていた。


「利家は食われそうだが…

 まあ、説明だけはしておくか…」


ベティーは言って、秋之介とともに社に入っていった。


「…こうやって、ますます仲間が増えるのね…」と優夏は高揚感を上げて、それを抑え込んで言った。


「タレント君も利家君もいろんなところに出没するそうだからね。

 自由に過ごせる第一号のような存在だから、

 たぶん誰も何も言わない。

 だけど元はと言えば、源次郎さんの部下のようなもの」


「曲がる気持ちが手に取るようにわかってしまうほどだわ…」と優夏は眉を下げて言った。


「そこはボスではなく、父の心をもって送り出すべきだと俺は思う。

 だから興味があれば、みんなも外に修行に行ってもいから」


春之介の言葉に、「…ランクダウンは望みません…」と浩也は胸を張って言った。


「へなちょこ部隊の司令官は大役だと思うよ?」と春之介が少し笑って言うと、「…それはもう少し先に経験したいと思います…」と浩也は言って、大いに眉を下げていた。


「その前に、俺の部隊を兄ちゃんに託したい。

 俺はまだこのアニマール星の全てを知らないから。

 優夏とふたりして冒険旅行に行こうと思っているんだ」


春之介の意見はすぐに優夏に承認されて、「今から行くぅー…」などと言い始めたので、ここは諫めた。


「さらには、教師としても働きたいから」


春之介の言葉に、子供たちは満面の笑みを浮かべて大歓迎している。


まさにここに来た意味があったと言わんばかりだ。


「天照たちはすべてを見極めてほしい。

 そして時には、地球に戻るぞ。

 いくら身代わりがあると言っても、

 安心はできないからな」


春之介の言葉に、天照大神は、「何度も行ってるよ?」と小首をかしげて答えた。


「…俺はまだ数回しか戻ってない…」と春之介は大いに眉を下げて言って、走って社に入ってからすぐに出てきた。


そして、「…なんか、パワーアップ…」と笑みを浮かべて言った。


「…うふふ… そうじゃないわ…」と優夏は笑みを浮かべて言った。


「増えた…」と春之介は言って地面を見入った。



するとベティーが秋之介とともに社から出て来て、ふたりの子供を連れてきた。


ふたりはまるで逆の性格のようで、ひとりは目つきが鋭く、ひとりはやけに穏やかそうだ。


「タレント君に利家君。

 知っていると思うけど、八丁畷春之介です」


春之介は一旦挨拶してから、ゼルタウロスに変身した。


「この体はゼルタウロス」と自己紹介すると、「…はぁー…」と顔つきの厳しいタレントはため息をついて、ベティーを見上げた。


「俺の子」とベティーは親指を立てて自分を差して言った。


「間違いはないけど、子供が大成する典型だよね!」と穏やかな顔の利家が辛らつに言った。


「わかっていることは改めて言う必要はない!」とベティーは少し目を吊り上げて言った。


「あ、そうだ…

 ハヤテとコロネは?」


ベティーが利家に聞くと、「とっくに寿命で死んじゃったよ…」と大いに眉を下げて言った。


「…寿命があることが不憫に思ってきた…」とベティーは空を見上げて言った。


「いい転生をすれば、俺たちの強い味方になって帰ってくるさ」


春之介の言葉に、三人は笑みを浮かべてうなづいた。


「あとで、コンペイトウに案内してほしい。

 まだそこにいるかもしれないからね」


「…待ってるかもしれん…

 今行く!」


ベティーが吠えるように言うと、「そうした方がいいかもしれない…」と春之介は言って、ここは観光旅行として、大勢で出かけた。


もちろん、皇澄美に話を通して、まずは街に近い浮遊島に誘われた。


「…急かすなよ…」と春之介がいきなり言うと、誰もが目を見開いた。


「澄美さん、申し訳ないんだけど、食事の準備をして欲しいのです」


春之介が眉を下げて言うと、「はい、喜んで」と澄美は穏やかに言って、オープンカフェのような食堂に走って行った。


「…わかったわかった…

 これでいいのかい?」


春之介が言うと、手には力のないリスがいた。


「…うわぁー… コロネちゃんだぁー…」と利家が笑みを浮かべて言うと、リスがぱっちりと目を覚まして辺りを見回してから、食堂に向かって走って行った。


「仲間にならない場合もある…」と春之介が眉を下げて言うと、誰もが大いに苦笑いを浮かべていた。


「コロネちゃんっ! コロネちゃんっ!」という喜びの叫び声が食堂から聞こえてすぐに、澄美の号泣の叫び声が聞こえた。


「ハヤテという人はここにはいないね…

 だけど、先に食事をするよ。

 それほど腹は減らなかったけどね」


春之介は澄美に大いに感謝されて、たらふく食事を摂ったあと、コンペイトウに移動した。


子供たちは島に降りてすぐに、浮遊島が上空にあることに気付いた。


「遊園地」と春之介が言うと、天も昇る顔になったが、「もうすぐ閉園だろうな」と春之介が言うと、子供たちはわかりやすくうなだれた。


よって、次の次の観光旅行はここに来ることを約束して、春之介は誘われるように立派な佇まいの旅館に入った。


「…ん? 部屋じゃない…」と春之介は言って廊下に出て、すたすたと歩いて、「…動物風呂…」と看板を読んで、大いに苦笑いを浮かべた。


するとまた自己主張をする魂が飛んできた。


「…そうかい、君がハヤテかい…」と春之介は言って、手のひらにスズメを抱いていたが、コロネと同じようにぱっちりと目を開けて、『チィ!』と鋭く鳴いて、春之介の肩に止まった。


「子供たちとも仲良くしてやってくれ」


春之介が穏やかに言うと、『チィ!』とまた鋭く鳴いて、美佐の肩に止まった。


「ほかにはいないようだね」と春之介が言うと、「…奇跡でしかないよぉー…」とタレントが眉を下げて言った。


「澄美さんも味方になってくれるはずだから、

 もし源次郎さんが怒ったら任せることにした」


春之介の言葉に、「…はい、喜んで…」と澄美は涙声で答えて、コロネの小さな体をやさしくなでた。



今回も食事をする必要がなかったので、巨大なツタの木に向かって歩いて行くと、「覚醒できなかったって?」とまた春之介がいきなり言った。


そして、「俺に怒るな… ここは能力が低かった元の主に怒りを向けてくれ」と春之介が言うと、澄美だけが眉を下げて頭を下げていた。


「…わかったから…

 ちょっと待ってろ…」


春之介が言うと、手には真っ白なウサギがいて、赤い目を見開いて辺りを見回してから、春之介を見上げた。


「名前まで持っていた。

 ハクト、だそうだ。

 まあ、シロウサギの白兎、だな…」


春之介は言って、優夏にハクトを抱かせた。


「…うふふ、怯えなくていいの…」と優夏がやさしく言うと、ハクトは優夏を見上げた。


そして小さなウサギの獣人に変身した。


「…すっごいパワー…」とハクトは目を見開いて、笑みを浮かべて優夏を見上げた。


「優夏の家来でいいんじゃないの?

 まあ、巫女のようなそんな存在…」


「その資格はあるようね…

 最低でも400年ほどは修行の日々だったようだから」


優夏は言って、ハクトを子供たちに託した。


「自由にしていいけど、呼んだら来て」という優夏のぶっきらぼうな言葉に、「はい、すっ飛んでまいります」と小さなウサギの獣人は恭しく言って、ウサギに戻った。


新しい二匹の仲間を得て、澄美にさらに感謝されてから、春之介たちはアニマールに戻った。


すると嫌々留守番をしていた桜良が来て、「源ちゃんが来てたわよ」と春之介に報告した。


「ひとりで?」と春之介が聞くと、「花蓮ちゃんも…」と眉を下げて言った。


「要件とかは?」


「遊びに来ただけだって言ってたけど、

 違うと思うぅー…」


桜良が眉を下げて答えると、「レターが来ました」と春夏秋冬が言った。


小さな映像を春之介の前に浮かべて、素早く読んだ。


「…動物の傭兵…」と春之介は眉を下げて言った。


もちろん戦わせるわけではなく、術者の能力上昇を誘う術者として雇いたいと言ってきたのだ。


今回の、コロネ、ハヤテ、ハクトはまさにそのような存在だ。


虹色ペンギンは術は放たないが、存在そのものが過分な自然界の悪いものを素早く大地に落とす作用を持っている。


「花蓮さんの動物の使徒じゃダメなのかなぁー…」と春之介が言うと、「使途は力づくだから」と優夏が答えた。


「術は資質がなけりゃ放てない…

 万有様は、獣人のセイント様が苦手なのかなぁー…」


「苦手というよりも、

 源一様の過去の動物のお師匠様ですので。

 きっと、そちらからの突き上げもあるように感じますぅー…」


「セイント対決も面白い…」と春之介は言って、少し笑った。


「今となっては、実力差は歴然だわ。

 動物の方は、何も言えなくなりそうね…」


「心がけておくと、メッセージを返してほしい。

 それほど簡単に適任者は現れないからね。

 ハクトなんて、優夏のおかげで穏やかになったようなものだから。

 だから、俺や優夏は認めるけど、

 コロンのように別の者を認めることは稀のように思う。

 もちろん、過去の絆と双方の想いがあったからこそ、

 すぐに澄美さんに寄り添ったはずだから」


「…感動したわ…」と優夏は虹色ペンギンを抱きしめて言った。


「過去の私だったら、

 両腕に鳥肌が立つほどの嫌悪感に苛まれたって思う…

 全然、健全じゃないわ…」


優夏は嘆くように言った。


「それが裏返しだって気づいたわけだ」と春之介が笑みを浮かべて言うと、「そうよ」と優夏は少し強がって答えたが、はっきりと理解できたのは今の春之介の言葉だ。


「…春之介を食べちゃいたい…」


「好きにすればいい」と春之介は笑みを浮かべて言った。


「…幸せ…」と優夏は笑みを浮かべて言って、春之介に身を預けた。


そしておもむろに姿勢を正して、「ハクトちゃん」と優夏が呼ぶと、ウサギのハクトがすっ飛んできて、人型に変身した。


「ちょっと過剰な愛情表現?」と優夏がハクトに聞くと、「許容範囲でございます」とハクトは頭を下げて答えた。


「だったらいいけど、その境界線を示すことも忘れないで」


優夏の言葉に、「はっ」とハクトはすぐさま答えて、小さく頭を下げた。


「自然界の過剰な恩恵を受けている魂」と優夏は言って、手のひらでハクトを掴んだ。


「はっ 喜んで」とハクトは自然に言って、瞳を閉じた。


そして目を開いて春之介を見たので、春之介も優夏も腹を抱えて大いに笑った。


「春之介様もそのおひとりですが、

 その周りにまとわりついている魂が30ほどあります」


「…はは、そういうこと…」と春之介は言って、まずは小動物たちを見入った。


「ひとりだけ仲間外れがいた。

 誰も間違いようがない。

 まあ、花蓮さんを主にしてもらいたいところだけど、

 まずは優夏か春菜に興味を持つだろうね…

 どうする?」


「言い聞かせるからいいわ。

 まずは、また花蓮に恩を着せるから」


優夏が真剣な眼をして言うと、「万有様もそれほど急がないように思う」と言って、小さな白い生物を造り上げた。


「…悪いけどいらないぃー…」と優夏がまず拒否した。


「見た目だけで決めてやらないでやって欲しいね…」と動物の王でもある春之介は眉を下げて言った。


「…爬虫類はちょっと…」と優夏が嘆くように言うと、「そう見えるだけで哺乳類だ」と春之介は言ったが、どう見ても白いトカゲだったのだ。


その白いトカゲはぱっちりと目覚めて、「主は怖いほどだ」と春之介を見上げて言った。


「生まれてすぐに申し訳ないけど、

 俺にではなく別の者について欲しい」


「はっ ご命令、ありがたく」という、ふたりの会話を聞いて、「…うう… 欲が沸いてしまったぁー…」と優夏は言って大いに懺悔した。


「嫌なら帰って来ても構わないから。

 そうしないと、本来の能力を発揮できないからね」


「はっ 承知いたしました。

 連絡係は…

 うおっ!!」


トカゲが叫ぶと、大勢の神たちが一挙に押し寄せてきたのだ。


特に秋之介は目が血走っている。


「みんな、気合入れすぎだ」と春之介は眉を下げて言うと、全員が穏やかな姿に変身した。


「先ほどは怖かったのですが、

 そちらのクマの方にお願いいたします」


トカゲは言って、春之介の手から飛び降りて秋之介の背に乗った。


そして秋之介はどや顔を天照大神に向けたが、すぐさま素知らぬ顔を決め込んだ。


「仲がお悪いようで」などとトカゲは言って、秋之介をコミュニケーションを取った。


「ちなみに春菜は?」と春之介が聞くと、「…人間の部分が拒絶するぅー…」と言って大いに嘆いた。


人間的に見ると確かに言えることなので、春之介は特にクレームは言わなかった。


「目標はこの方に仕えること」と春之介が言うと、春夏秋冬が花蓮のプロフィールを出した。


「だけどその前に、辺りをよく見て、

 必要だと思った人についてもらってもいい。

 好き嫌いでも構わない。

 その方が十二分に能力を発揮できるものだから」


「はっ ご指導ありがたく」


ここは秋之介がレクチャーをしながら主を求めることにして、社に入って行った。


するとわずか二分程で秋之介だけが戻ってきた。


「早かったね」と春之介が言うと、秋之介は気合を入れすに人型を取って、「ビジョン様とすぐさま相思相愛になられました」と報告すると、「それで全然かまわないさ」と春之介は言って労をねぎらった。


「ちなみに、どんな能力持ってたの?」と優夏が興味を持て聞くと、「術の増幅と分割だよ」と春之介は答えた。


「…すっごい底上げ…

 それに、手加減もできる優れものだわぁー…」


優夏は絶賛した。


「仏に寄り添って当然だって思ったね。

 まあ、ほとんど増幅は使わないんだろうけど、

 星の復興の仕事だと有効だろうね。

 十分に働けるはずだよ」


「楽をしたいわけじゃないけど、

 また便利な子がいいわぁー…」


優夏は言って春之介を見た。


「あとは体の取り合いになるから、

 ハクトが決めてくれ」


「はい、ひとつだけ動けるようにしました」とハクトが言ったとたんに、春之介の手の中に袋ネコが姿を現した。


この辺りには多く生息しているので、珍しくないので競争率が激しいのだ。


そして猫は目を見開いて、すぐさま春之介の手を逃れて姿勢よく座った。


「こりゃ、頭が切れる猫だなぁー…」と春之介が大いに褒めると、優夏がすぐさま抱き上げて、「誰の子になりたいんだぁー…」と言って脅した。


すると猫はそっぽを向いたので、「…ふられたぁー…」と優夏は嘆いて、猫を地面に降ろした。


「働き甲斐がないそうだ」と春之介が言うと、「その感情は見えたから…」と優夏は言って怒ることはなかった。


すると猫は、ある女性を見てから春之介を見ることを繰り返し始めた。


「まずは心の支えでいいから」と春之介が言うと、『ニャンッ!』と陽気に鳴いて、猛スピードで尚に寄り添った。


「…わかるわぁー…」と優夏は言って大いに祝福していた。


いきなり猫に飛びつかれた尚は少し驚いたが、猫を抱いてやさしく頭をなでた。


「主従契約完了」と春之介が言うと、「簡単だわ…」と優夏は言って眉を下げた。


すると尚がすっ飛んで春之介たちの席にやって来てきて、「本当にいいの?」と春之介に聞いた。


「その子が望んだことだから。

 名前はないから、尚がつけてやってくれ」


「…もう、地球に帰ってもいいかもぉー…」と尚が言ったので、春之介たちは大いに眉を下げた。


ただ言っただけで尚はスキップを踏みながら席に戻って、春菜と真奈に自慢を始めたので、春之介も優夏も大いに眉を下げた。


しかし春菜と真奈は春之介をにらんだけに留めて、猫よりも尚とコミュニケーションをとり始めた。


元々仲はいいのでいつもの光景だが、三人の中心に猫が一匹いるだけで雰囲気は変わる。


すると春菜が振り返って春之介をにらんで、「猫のおもちゃ」とだけ言った。


「…時々お嬢様が出るわね…

 まあ、リラックスしてる時だから構わないんだけど…」


優夏は眉を下げて言った


「少しは自分で考えればいいのに…」と春之介は言って、子猫が喜びそうなもの一式を出すと、ここは手伝いとばかり、天照大神たちが配達を請け負った。


そのついでに、猫とコミュニケーションをとるのだ。


ここは子猫の本能をあらわにして、目の色を変えて猫じゃらしなどを追いかけると、誰もが陽気な気分になって笑みを浮かべて大いに笑った。


「…ゼルタウロスもあんなになるのかしら…」と今更ながらに優夏が春之介に言うと、「安心しきっていたらやるかもね」と答えた。


「まだまだ安心できる状態じゃないからね…

 やるとしたら異空間部屋…

 それよりも腹減った…」


春之介が言うと優夏が厨房に向かってすっ飛んで行った。


優夏の行動に気付いたメイドたちもすぐさま優夏に続いて料理の手伝いをした。


「…君はどうしたもんだろうね…」と春之介はある魂に向かってつぶやいた。


この魂は海洋生物なので、陸地で住まわせるわけにはいかなかった。


しかし能力が高いことがわかっているので、タレントと利家に面倒を見てもらうように頼むことにした。


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